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36話『黒い救世主』

 たった一日だけだ。学園で九条と表だって絡んだのは。


 それなのに――


「おうおう新道君よ~あの噂って本当なのかぁ?」


「事実ですよね? なにせ僕はこの目で見ましたから!」


「赦せないですぞ! 大親友である拙者にすら、九条殿との関係を秘密にしているなど!」


 昼休み。俺は男連中に囲まれていた。


 それでも焦ることなどない。


 こいつらだって真実を知りたいだけだろう。


「まぁ落ち着け。ここは教室、弁当を食べている皆に迷惑だろ」


 俺は自分の席に座ったまま、取り囲んでくる男達を仰ぎ見る。


 そこで気がついた。皆の目が血走っていることに。


 まるで飢えた獣の目だ。


「安心しろや。とっくの前に全員逃げたよ」


「全然安心できないんだが……」


 そもそもどうして俺が尋問紛いな事をされなければならないのだろうか。


 さっきの言葉からして、昨日の九条との絡みを見られたらしい。


 といっても、食堂で少し会話をした後に、廊下を一緒に歩いていた所ぐらいだろう。


 つまり誤魔化すのも難しくはない。


「おそらくアンタ達は勘違いしている」


「勘違い?」


「こう思っているんだろ? 俺と九条の間に秘密の関係があるのではないかと」


「別にそこまで思ってないが……まさかあるのか? その秘密の関係とやらが!?」


「ひ、秘密の関係!? 絶対にエッチなやつですぞ!」


「なぁに!? 我らが女王様とエッチな関係を!?」


「なんでだよ!? 人の話を聞けって!」


 一瞬にして連中の顔がすぐ側まで迫ってきた。


 暑苦しい。


「じゃあ早く言えや! テメェと九条さんの本当の関係をな!」


「わかった。言うから離れてくれ」


「テメェが言ったら離れてやる。それで?」


「俺と九条の関係……そうだな、一言でいえば――」


「言えば?」


「昨日初めて喋っただけの他人……とか?」


「はい嘘、ギルティ! 殺せぇぇぇぇ!!」


「物騒過ぎるだろ!?」


 俺は明確な殺意を感じて椅子から転げ落ちた。


 そしてそれは正解だった。自分の直感を信じてよかった。


 なにせ先ほどまで俺の顔があった場所には、金剛力士を彷彿させる恐ろしい顔がぎゅうぎゅうに密集しているのだから。


「あっぶね……危うく頭突き+男の接吻という地獄に犯されるところだった……」


「あ、逃げるな!」


「罪には罰を、悪には鉄槌を、新道には死を!」


「だから怖いって!!」


 俺は這いずるようにして狂人共の輪から脱出。


 そのまま全力で教室を抜け出した。


「ど、どうする……どこに逃げる?」


 頭の中にあらゆる候補が湧き出る。


 食堂……駄目だ、色んな人に迷惑が掛かる。


 校庭? いや、逃げ場がなくなる可能性もある。


 ならば屋上! 待て待て、基本的にあそこは鍵がしまっているし、そもそもその鍵は九条がまだ持っている。


 この状況で九条の元に鍵を借りにでも行けば、それこそ言い訳のしようがなくなる。


「お前は上から、そっちは下から、残りはこのまま俺様に続けぇぇ!!」


「まずいっ! このままでは捕まる!」


 三方向からの進軍に絶体絶命。


 そう思った瞬間――


「こっちです」


「ぬおっ!?」


 横から急に凄まじい力で引っ張られた。


 予想外の衝撃に俺は為す術もなく倒れ込んだ。


「痛い……って、やば!?」


 床に伏したの俺の耳は確かに聞き取った。


 すぐ側まで迫る無数の足音を。


 しかし――


「お静かに、大丈夫ですから」


 周りに男達の姿はなく、その代わりに一人の少女がすぐ側に立っていた。


 長く伸びた前髪から覗く紫色の目が、俺を静かに見下ろしている。


 口元に人差し指を添え、音を出すなと警告してくれている。


 いまいち状況は読めないが、とりあえずは救世主の指示に従うことにした。


「隊長、罪人が消えました!」


「馬鹿野郎! 人が急に消える訳がねぇだろ!」


「あ、窓が開いているでござる! 新道殿はここから逃げたのでは?」


「ここは二階……ありえる! 行くぞテメェら!」


「おぉぉぉぉぉ!!」


 凄まじい咆哮と共に幾つもの着地音が聞こえてくる。


 どうやら二階から飛び降りていったらしい。


 普通に怪しいこの空き教室を無視して。


「馬鹿で助かった……」


 一時はどうなるかと思ったが、何とか生き延びる事ができた。


 そしてそれは間違いなく目の前の少女のおかげだ。


 しかし素直に喜べない状況でもある。


「た、助かったよ……」


「いえ、気にしないでください。簡単に予測できたことですから」


「予測……?」


「得意なんです。得た情報を分析して予測するのが」


「そ、それはまた凄い技術だな……」


「凄くなんてないですよ。特に今回に限っては事前の情報が沢山ありましたから」


「そ、それはどういう……」


 そう、問題はただ一つ。


 助けてくれた相手が――


「だって私――貴方様の事をずっと見ていましたから」


 元ストーカーの黒井さんなのだから。

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