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23話『明るい自分』

 無事にアザラシのぬいぐるみを手に入れた後、九条はそれを俺に押し付けてトイレに向かった。


 行列ができるほど混んでいるので、俺は先に集合場所に戻る。


 するとそこには、スマホを弄っている西崎さんだけがいた。


「宮原は?」


「トイレだって」


「そうか……」


「…………」


「……………………」


 気まずい。周りが騒がしいせいで、俺達の間の沈黙が際立っている。


 しかし無理もない。


 なにせ俺と西崎さんは今日が初対面。


 それもさっきまでの行動を考えるに、西崎さんのお目当ては宮原ただ一人。


 西崎さんからすれば俺などその辺に転がっている石ころのようなもの。


 いや、もしかすれば宮原とのお出かけ邪魔する憎むべき相手とすら思われているかもしれない。


 だからこそ俺からは話しかけられない。そして西崎さんはスマホを弄っている。


 沈黙が支配するのも必然だ。


「…………………………」


 しかし気まずいものは気まずい。


 ここは俺から話しかけるべきか。


 そう悩んでいると、西崎さんがスマホをバックにしまった。


 そしていきなり頭を下げてきた。


「あの、今日は本当にごめん」


「え?」


「気分悪かったでしょ。折角四人で遊びに来ているのに、私の勝手な行動のせいでバラバラになってさ」


「あぁ……」


 やっと西崎さんが謝る理由を理解できた。


 どうやらあれは自覚あっての行動だったらしい。


「私って本当は明るい性格じゃなくてさ、今のこの感じが素なんだよね」


 そう言われてみれば、確かに今の西崎さんからがギャルの波動を感じない。


 どちらかといえば大人しい雰囲気だ。


「そうなのか……でもなんで自分を偽るような事を?」


「宮原君ってほら、人気者で凄く明るいじゃん。私はそんな彼の隣を歩きたい。でも、暗いままの私じゃ絶対に無理だから……」


「無理? でも宮原が明るいだの暗いだの気にするとは思えないけどな」


 もしも気にするような人間なら、間違いなく俺みたいな根暗を遊びには誘わないだろう。


「そうだね、宮原君は気にしないと思う。でも、周りは違う。いかにも暗そうな人が皆の太陽である彼に馴れ馴れしくしていたら、裏でフルボッコにあうと思う」


「フルボッコ……」


「まぁフルボッコは言い過ぎだけど、嫌われて無視はされるだろうね。女子って怖いんだよ。弱い者にはとことん強くいけるから」


「マジか……」


 俺はあまりの恐怖に震えが止まらない。


「だから私は明るい自分を演じているの。高校デビューってやつだね」


「演じてか……そんなに宮原の事が好きなのか?」


「え、いや、好きとかじゃなくて……ただ仲良くなりたいというか……」


「じゃあ付き合いたくはないのか?」


「付き合いたいに決まってるよ……って、あ!?」


 自分の心に嘘はつけないらしい。


 しかし俺は良いと思う。


「西崎さんは誇るべきだ。好きな人の為に明るくなろうと頑張っているんだから」


「が、頑張ってるとか……そんなんじゃないよ……」


「いや、頑張ってるだろ。今日だって少しでも距離を縮めようとしたんだろ。心の中では俺達に悪いと思いながらも、それでも積極的にアピールをした」


「でも、そのせいで新道君や九条さんには迷惑も掛けたし……」


 西崎さんはそう言って目を伏せた。


 どうやら思ったよりも気にしているらしい。


 優しい子なのだろう。ただ俺からすれば――


「気にしなくてもいいぞ。少なくとも俺は楽しめた。多分九条だって満足している」


 九条もさっきまでぬいぐるみを抱きしめて喜んでいたし。


「そっか、ありがとね。そう言ってくれると少しだけ気が楽になったかも。それにしても……」


「なんだ?」


「新道君ってさ、九条さんのこと――好きだよね?」


「……は?」


「だってさ、ずっと九条さんの事ばかり気にしていたよね。水族館に来るまでもそうだし、アザラシのショーを見ている時なんて、アザラシよりも九条さんの方ばかり見てたよ?」


「あぁいやそれは……」


 これまた説明が難しい。


 確かに俺は九条の様子をずっと気にしていた。


 しかしそれは俺のお願いで付いてきてもらった手前、少しでも楽しんで欲しいと思ったからだ。


 アザラシのショーに関しては、我慢できずにはしゃいでいた九条を宮原達から隠そうと必死だっただけ。


「誤解だ。俺が九条を好きだなんてありえ――わぷっ!?」


 事件が起こった。俺が誤解を解こうとした瞬間、何故か西崎さんが俺の口を手で防いだ。


 凄まじい勢いだ。一瞬で鼻と口が塞がれた。


 このままでは俺は死ぬだろう。それぐらいの強さで塞がれている。


 確実に西崎さんは俺をヤル気だ。


 俺がそれを確信した時だ。背後から声が聞こえた。


「ねぇ……どうしたら少し目を離しただけで、そこまで仲良くなれるのかしら?」


 九条の声だ。それも驚くほど冷たい声。


 それを聞いて俺は理解した。


 命の危機が更に増したのだと。

年末年始が終わってしまったので、ここからは一日一話投稿となります。


働きたくない……

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