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21話『ギャル崎さん』

 日曜日のお昼頃。


 俺は九条と共に隣町駅に来ていた。


 用事は勿論、宮原との約束だ。


「えっと宮原は……うわ、いた……」


 集合時間まであと五分なので、真面目であろう宮原は先に来ていると思った。


 そして予想通りに宮原はいた。


 集合場所の駅前の時計台。その前に立っている――無数の女子に囲まれて。


「ねぇ、私帰ってもいい?」

「やめてくれ、俺も帰りたくなってきたから」


 今からあそこに向かうと考えるだけで気が滅入る。


 どうしたものかと眺めていると、宮原の方がこっちに気づいた。


 すると周りの女子達に手を振って、眩しいほどの笑顔と共に駆け寄ってきた。


「お~い新道君~! こっちこっち!」


「そんなに叫ばなくても分かってる。明らかに目が合っただろ」


「はは、ごめんね。来てくれた事が嬉しくて!」


「そりゃ約束したしな……来ないわけにはいかないだろ」


「それもそうだね! それで新道君の友達は……え、九条さんなの!?」


 俺の後ろで不機嫌そうに立っている九条を見て、宮原は心底驚いたように目を見開いた。


 流石の宮原にも予想できなかったらしい。


「なに? 文句でもあるの?」


「いや、文句なんてないよ! ただ新道君の友達が九条さんとは思わなかっただけなんだ」


 そんな悪意のない宮原に対し、九条はどこまでも喧嘩腰だ。


「友達? どうして貴方がそれを判断するの? 私と彼は友達ではないわ」


「え、そうなの? でも、友達を連れてくるって話だったから……」


「この朴念仁に友達なんて居るわけがないでしょ」


「おい……」


「だから私が仕方なく、困り果てていた彼に救いの手を差しのばしてあげただけよ。理解した?」


 九条は一方的にそう言って、そのまま興味を失ったようにまた俺の背後に回った。


 俺の事を勝手にボッチ宣言した挙げ句に、空気を悪くして後は放り投げやがった。


 もしかしたら連れてくる相手を間違えたかもしれない。


「まぁそういうわけだ。少し気難しい奴だが、よろしくしてやってくれ」


「気難しいだなんてそんな! 僕としても九条さんとは遊んでみたかったんだ!」


「おぉ……見てみろ九条、これが完璧美少年――膝裏っ!?」


 目指すべき人物をただ紹介してやっただけなのに、九条の蹴りが俺の膝裏を襲った。


 それから数分後、最後の一人にして宮原の友達がやってきた。


「あ~もう集まってんじゃん! もしかしてアタシ遅刻しちゃった感じ!?」


 叫ぶようして現れたのは――まさに金髪のギャルだった。


 背中まで緩やかに伸びた茶色の髪、色からして地毛ではなく染めたものだろう。


 それだけならギャルとは特定できないが、スカートが明らかに短い。


 そして極めつけにはルーズソックス。あれはギャルしか履かないはずだ。


「あ、西崎さん! 大丈夫だよ、僕たちが早く着いただけだから」


「え~よかった~マジ準備に手間取っちゃてね~。ていうか~なんで休日なのに制服で集まるってなったの! マジウケるんだけど~!」


 宮原のフォローも流石だが、西崎さんとやらも中々のギャルレベルだ。


 あれはもうギャル崎さんだ。


「ウケる……ってことは面白いって事だよね? それならよかった! 僕としては制服の方が学生っぽくていいなって思ったからさ」


「学生っぽい……それだけの為の制服だったのか」


 俺はてっきり制服で集合と聞いたので、何か学生でしか入れないイベントに参加すると思っていた。


「はぁ……馬鹿らしい」


 そんな声が背後から聞こえたが、俺は何も聞いていないことにした。


「制服いいじゃんね~これで写真を撮れば学生時代の思い出ってあとで分かるし~」


「なるほど、そう言われれば確かに」


 納得して頷いていると、西崎さんがこっちを見て笑った。


「ちょっとやめてよ~確か新道君だっけ? なんか~その反応の仕方ぁ~若者のノリを真剣に分析するおじさんみたいだよ~」


「おじさん……」


「あ、でも別に馬鹿にしている訳じゃないからね! ただ珍しい反応でウケるってこと~」


「なるほど、これがウケるというものか」


「だからそれがおじさんみたいなんだって~」


「……おじさんか」


 そんな絡みの末に俺達は歩き出した。


 目的地は事前に聞いていたとおりの水族館らしい。


 それはいい。ただ問題は――グループが二分されていることだ。


 最初は皆で歩き出した。しかし宮原達と俺達の間に少しずつ距離が作られていく。


 決してそれは心の話ではなく物理的。


 どうやら西崎さんが宮原の腕を引っ張って歩くのが原因だ。


 その証拠に宮原は定期的に後ろの俺達を見ては申し訳なさそうにしている。


「もうこれ帰ってもいいんじゃない?」


「そういうな。仮にこのまま宮原達とはぐれたとしても、俺達は俺達で水族館を楽しめばいい」


「つまり貴方は……主人である私と水族館に行きたいと?」


「あ……うん、そうそう、行きたい行きたい」


「蹴り飛ばすわよ」


「すみません……」


 そんないつも変わらぬ会話を繰り広げていると、目的の水族館が見えてきた。


 子供から大人まで、果てには老夫婦が仲良くチケットを買っている。


 その列に並びながら、俺はずっと気になっていた事を問う。


「なぁ九条よ、正直に答えて欲しい」


「あら、何かしら?」


「俺ってその……おじさんっぽいかな?」


「あ、もしかしてあの女に言われた事を気にしているの?」


「まぁ……」


「それなら安心しなさい」


 俺の不安を察してくれたのだろう。


 九条は優しげな笑みを浮かべ、そして温かな声で言った。


「私は最初から――爺臭いって言っていたでしょ」


「安心要素……カムバック!!」


 こうして俺は泣く泣く大人チケットを一枚買うのだった。

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