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16話『お誘い』

「新道君は明日と明後日、どっちか空いていたりしないかな?」


 学校の休み時間。


 暇なので自分の席からボーッと外を眺めていると、宮原が友達かのような気軽さで話し掛けてきた。


 恐るべし爽やかイケメン。


 ちなみに今日は金曜日なので、明日と明後日は休日だ。


「あるといえばあるし、無いといえばない」


「もしかして謎解きかな?」


「いや、深くは考えていない。それで用件はなんだ?」


 おそらく遊びの誘いなのだろう。


 相変わらず酔狂な奴だ。


「僕は気づいたんだ。いきなり大人数での集まりに誘うから新道君は断るって」


「いや、普通に用事で……」


「だからこうしよう! 僕と新道君。そしてお互いの友達を一人ずつ連れてきて、計四人で土日のどちらかに集まって遊ぼう!」


 逃がさないと言わんばかりに肩をガッツリと掴んでくる宮原。


 その瞳はどこまでも真っ直ぐで、本気でただ遊びたいだけだと訴えかけてくる。


 流石にここまで清らかな善意を向けられては、朴念仁と呼ばれる俺も降参するしかない。


「はぁ……流石に三回連続断るのは悪いしな」


「それってつまり……」


「あぁ、俺なんかでよければ休日のどっちかに付き合おう」


「ありがとう新道君!」


 それから宮原と話し合い、日曜日のお昼頃から遊ぶ事に決まった。


 急な用事や聞きたい事が出来たときの為に電話番号を交換した。


 学園に入って初めての番号、これには俺も少しだけ頬が緩む。


 しかしすぐに俺の顔には絶望に歪んだ。


 さっきは軽く流したが、今になって受けた提案の難しさに気がついたのだ。


「お互いの友達を一人ね……」


 友達。それは親しい間からの相手。


 根暗ロボットと呼ばれた俺にそんなものが存在する訳がない。


 しいて上げとすれば九条なのだが、どう考えてもこういう集まりが嫌いだ。

 

 しかしこのまま一人で行くぐらいなら、玉砕覚悟で声だけ掛けてみるべきか。


 そう悩みながらも隣の席に見ると、九条は休み時間だというのにノートを開いて勉強をしていた。


 黙々とノートにペンを滑らしている。その手は中々動きを止めない。


 凄く集中して勉強をしている相手に声を掛けるのは気が引ける。


 そんな風に躊躇っていると、九条の方からこちらを見ずに声を掛けてきた。


「行かないわよ」


 宮原との会話を聞いていたのだろう。俺のお願いを先回りして断ってきた。


「そう言わないでくれ。俺には九条しか頼る相手がいないんだ」


「貴方に頼られるのは悪い気はしないけど、こういったのは駄目よ。だって今回は貴方の友達として行くことになるでしょ?」


「そんなに俺の友達と紹介されるのが嫌なのか……」


 昨日は色々あって少しぐらいは仲良くなったと思ったが、どうやらそれは俺の勘違いだったらしい。


 少しばかりのショックを受けていると、九条は呆れたように溜息を溢しながらペンを置いた。


 そして憂いを帯びた表情でこっちを見た。


「貴方……友達がいないの?」


「失礼な奴だな、まぁいないけど……」


「じゃあなんでさっきの提案を受けたの? 普通に断ればいいじゃない。友達がいないんだから」


「ぐっ……」


 全くもってその通りだ。


 しかし九条は分かっていない。


 正論とは時として人を傷つけるものなのだと。


「九条だって友達いないだろ?」


「私はただ作っていないだけよ。完璧美少女である私は一人で全て完結するの。そこに他人が入り込む余地なんて微塵もないんだから」


「掃除すら出来ない癖に……」


 俺をボッチ扱いした意趣返しにボソッとそう呟くと、九条は無表情で恐ろしい事を口にした。


「はい侮辱罪で死刑ね。今すぐドラム缶と生コンクリートを用意しなさい」


「事実を言っただけで死刑かよ。あと誰が自分で自分を沈めるための道具を用意するんだよ」


「すぐにそうやって口答えばかり。貴方なんて精々友達の一人も連れて行けずに恥を掻けば良いのよ!」


 九条はそう言って机の上の消しかすを指で弾き、不機嫌そうに勉強に戻った。


 消しカスを飛ばしてくるなんて子供かよ。


 しかしこれで唯一誘えそうな相手を失った。つまりは絶望というわけだ。


「仕方ない」


 こうなればクラスの男子に手当たり次第に声を掛けるしかない。


 そう考えて実行した、その結果――


「宮原と? ここ二日間連続で遊んだからいいや」

「これ以上宮原と遊んだら俺たちまでイケメンになっちまうぜ!」

「ていうか、お前って誰だっけ?」


 惨敗だった。何人かを誘ったが、大体同じ理由だった。一人酷いのもいたけど。


「どうしたものか」 


 このまま無策で男子を誘っても意味がない。それを理解した俺は色々と考えた。


 そしてその末に凄まじい電流が俺の中に走った。


 そう、天才的発想に辿り着いたのだ。


「遊ぶ相手は宮原というイケメンなんだ……それを餌に女子を誘えばいいじゃないか!」


 言い方は悪いが、これは誰もが幸せになる作戦だ。


 俺はボッチという不名誉な噂は立てられずに済むし、誘われた女子もイケメンの宮原とお出かけができる。


 つまりはWin-Winだ。


 しかし誘う女子は誰でも良いというわけではなく、宮原に好意を寄せていて、自分からは声を掛ける勇気がない相手に限定される。


「ふむふむ……」


 俺は軽く教室を見渡してみて、それに該当する相手を探す。


 そして見つけた。宮原に話し掛けてるわけでもなく、それでも自分の席から眺めている女子を三人。


 まずはその中の一番席の近い子に狙いを定め、声を掛ける為に近づいた。


 そして肩を叩こうとしたその瞬間――背中に軽い衝撃が走った。


「ん、なんだ?」


 なにかが背中に当たる感触がした。


 誰かのイタズラだろうか。そう思って振り返ると、そこには人差し指をくいくいと自分の方へと折る九条の姿があった。


 ちなみに俺の足下にはペンが落ちていた。


 おそらくあの動きはこっちへ来いという意味なのだろう。


 しかし今は忙しいのでそれを無視して、改めて女子へ声を掛けようと手を伸ばす。


 するとまたも寸前で背中に衝撃が走る。


 ただ問題なのは先程のペンとは違い、結構しっかりとした衝撃だったことだ。


「なんだよもう……」


 さっさとこっちに来いという圧を感じる。


 なにせ俺の足下には教科書が転がり、それを投げたであろう九条の手にはバッグが握られている。


 戻って来ないと次はこれを投げると言わんばかりに。


「何か怒ってるな……面倒くさ」


 俺は女子に話しかけるのを諦め、渋々と席に戻るのだった。

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