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13話『面倒くさい奴』

 放課後になった。


 チャイムが鳴ると同時に椅子から立ち上がる九条。


 俺は慌ててそんな彼女に話しかけようとしたが、それよりも先に爽やかイケメンこと宮原が現れた。


 昨日と同じ展開だ。

 しかし少し違うこともある。


 話しかける相手が九条ではなく俺だということ。


「新道君、少しいいかな?」


「宮原か、どうした?」


「これから男子だけで親睦会があるんだけど、今日はどうかな?」


「また親睦会……?」


 親睦会というのは二日連続で開くものなのか?

 男子だけとはいえだ。そもそも人は集まるのだろうか?


「新道君が来てくれればクラスの男子全員が集まることになるんだけど」


「嘘だろ……」


 それはつまり、俺が断れば全員集合の実績が失われるということだ。

 責任重大ではあるが、既に俺には九条との約束がある。


「悪い、今日も用事があるから行けそうにない」


「ほ、本当に? もしも何か行きたくない理由があるなら相談して欲しいな。僕に出来ることならなんだってするよ」


「いや、本当に用事があるんだ」 


「そっか……あ、でも、用事が終わった後で合流したりとかはどうかな?」


「え、あ、いや……用事がいつ終わるのか分からないからやめとく」


「それなら――」


 中々引こうとしない宮原。

 どうやって諦めてもらおうか考えていると、隣の席の九条が勢いよく立ち上がった。


 そして射抜かんばかりの鋭い目を宮原に向けた。


「いい加減にしなさい。そこの間抜けは用事があるって言っているでしょ」


「え、九条さん?」


「間抜け……?」


 おそらく九条は助け船を出してくれているのだろうが、とある一言がどうしても引っかかる。


「貴方が遊びに誘って、そこのそれが断った。これ以上話を長引かせる必要がある?」


「えっと……確かにそうだね、ごめんね新道君」


「え、まぁ気にするな、うん……そこのそれ?」


 どうやら話は一段落が付いたらしい。


 これもハッキリと言ってくれた九条のおかげだ。


 気持ちがスッキリとしないのも彼女のせいではあるのだが。


「隣町駅で集合ね。ダッシュよ」


「はいはい」


 去り際にこそっと呟いた九条はそのまま教室を出て行った。


 どうやら一緒には行きたくないらしい。



 それから俺は気持ち早足で駅に向かって電車に乗った。


 その結果――


「よう、九条」


「なっ!?」


 九条と同じ電車に乗り合わせた。


 しかしそこまで不思議なことではない。


 九条の方が先に教室を出たとはいえ、俺は早足でここまできたのだから。


 つまりこれは偶然ではなく必然だ。


「ちょ、ちょっと……話しかけないでよ。クラスの誰かに見られたらどうするのよ……」


「別に大丈夫だって。クラスメイト同士が同じ電車に乗ることなんてよくあるだろ」


「それはそうだけど……会話をしている所を見られたら困るでしょっ」


「俺は別に困らないけど」


「私が困るのよ!」


 九条が叫んだ。静かな電車の中で。


 そのせいで皆の視線が俺達に集まる。


「どうしたんだろう? 喧嘩かな?」

「ていうか、あの子めちゃくちゃ可愛いな」

「学生さんだよね。元気だな~」


 明らかに俺たちに向けられた声に、九条の顔がみるみるうちに険しくなっていく。


「貴方のせいよ……どう責任を取るつもりなの?」


「責任って、叫んだのは九条だろ」


「叫ぶ原因を作ったのは貴方でしょ……もうっ」


 不満を口にするが、流石にもう怒鳴りはしないらしい。


 脇腹を軽く肘打ちされたが。


「それにしても意外だった。まさか九条から遊びに誘ってくれるなんてな」


「勘違いしないで。今日の貴方の役目は道化よ」


「道化?」


「言い方が気に入らないなら役者でもいいわ。今日の貴方はそう、忠犬クロ公のぬいぐるみが凄く欲しがっている人の役を演じてもらうわ」


「え、別に俺はいらないけど……うぐっ!?」


 心の底からの感想を口にすると、またも鋭い肘打ちが脇腹に突き刺さった。


「人の話を聞いていたの? 役を演じるの。演技、分かる?」


「演技ね……なんでまたそんな面倒な事を」


「簡単な話よ。私ってほら、属性でいえばクールビューティーじゃない?」


「ふ~ん、そうなのか」


「そうなの! そんなクールビューティーでパーフェクト美少女であるこの私が、もしもただ一人で必死になってぬいぐるみを取ろうとしていたらどう思うかしら?」


「別になにも思わないけど。あとビューティーと美少女って被ってないか?」


「黙りなさい! これだから変人は……」


 あからさまに呆れた様子の九条。


 そんな彼女に俺は言いたい。九条にだけは言われたくないと。


 しかし俺も馬鹿じゃない。これ以上怒らせれば俺の肋骨が粉々に砕けるだろう。


 仕方ないのでここは受け入れることにした。


「変人で悪かったな。それで結局?」


「要は私がぬいぐるみ一つに必死になるのはキャラじゃないってことよ」


「だから隣の俺が欲しがっている事にしてくれと」


「分かっているじゃない。賢い子は嫌いじゃないわ」


「それはどうも……」


 全てを理解した俺に九条は満足げに頷いている。


 これでやっと九条から怒りの気配が消えた。


 そのせいなのだろう。俺の気が緩んだ。


 そしてその結果、俺の口から本音が漏れた。


「九条はなんというかあれだな……本当に面倒くさい奴だな」

「死になさい」

「――ぐはっ!?」


 こうして俺の肋骨は粉々に砕けるのだった。

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