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9.事後処理

 がらんとして寒々しい居間で、伯父を見つけた。

「秋彦君か」

 古いちゃぶ台いっぱいに、書類が広げられている。どうやら会社関係のもののようだった。

「文子がまだ具合が悪いからね。こっちでやろうと思って」

 葬式の準備も進めておかなければならないし、と疲れた笑みで彼は付け足した。秋彦は、静かにその隣に座る。

「何かお手伝いできることがあれば……」

「いや、大丈夫だよ。それよりも、もしよければ麗子についていてやってくれないか」

 思わずどきりとした秋彦に、伯父はゆっくりとうなずいて見せた。

「義母はああいう人だから、生きていたら決して許さなかっただろうけれど、君の気持ちはわかっているつもりだ」

「伯父さん……」

「六年前に何もできなかった償い――といってしまうのも都合のいいことだが、麗子には君が必要なのだと思う」

「……」

「君達には伏せておいたが、もうしばらくしたらあの子は葛城氏に嫁がされるところだったんだ」

 秋彦は、目を細めた。

「悠紀子から聞きました。それで」

「ああ……どうして急に来てくれたのかと思ったよ」

 微かに笑みを浮かべて、利明は続ける。

「義母の意向でね。もちろん麗子は反抗していたが」

 娘を無理矢理結婚させる。現代では考えられないことだが、あの祖母ならばやりかねなかったと思う。何らかの手段を使って、強制的に麗子を従わせていたに違いない。

 例えば、かつての彼女の恋人だった男。

 あのあと二人は別れることになり、彼はその後隣の市へ転勤していった。静かに暮らしているようだが、ヨシならば金の力と古くからの人脈にものを言わせ、彼を追いつめるのも可能だったろう。

「葛城氏も最初は渋っていたが、結局説得されたしね。もし今回のことがなければ……」

 葛城氏というのは、ヨシの昔からの知己でこの辺りの有力者の一人だ。二年前妻を亡くしてからずっと仕事に忙しくしていたのだが、麗子とは十歳ほどの年の差がある。

 資産の面でも人物的にも、何も欠点はない。強いて言えば、おっとりしすぎて押しに弱いところだろうか。

 けれど……。

 秋彦は勢いよく立ち上がった。

「麗子達の様子を見てきます」

「ああ、ありがとう。頼むよ」

 利明は、傍らの電卓に手を伸ばした。

「今まではお義母さんがやっていたことだけれど、これからは私一人でやらなければね」

 大変だよ、という言葉とは裏腹に、彼の表情はどこか晴れ晴れとしていた。

 ヨシは会社勤めをしたことなどない。なのになぜか、利明の仕事ぶりにうるさく口を挟んでいた。

 はいはいとうなずきながらも、そんなとき利明がじっと唇を噛んで暗い顔つきでうつむいていたのを、秋彦は覚えている。


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