10.秋彦
「け、結婚!?」
若葉は素っ頓狂な声を上げた。布団の上に半身を起こしていた悠紀子がびくりと震え、朱鷺弥は妹の頭を後ろから軽くはたいた。
「いたっ……」
「病人の前で大声出すな」
「……ごめん」
「ううん、いいの」
まだ完全に気分がよくならない様子で、悠紀子はそれでも微笑んだ。
何か調査の参考になれば、と彼女のほうから朱鷺弥達を部屋に呼んだのだ。真新しい手首の包帯が気になったが、朱鷺弥は彼女が話すままに榊原家の人々についての情報に耳を傾けていた。
「でも、麗子さん十も年上の人と結婚だなんて……」
「まだ正式じゃなかったけどね。それにお祖母様がこんな事になったわけだし……」
悠紀子はうつむく。
「秋彦兄さんが来てくれたのも、私が教えたからなの。兄さんは昔から、お姉ちゃんのこと好きだったから、助けてくれると思って。三年前にもプロポーズしたのよ」
「えっ?」
「お祖母様に猛反対されて、そのときは駄目だったんだけどね……」
いとこ同士は結婚できるが、ヨシは秋彦と麗子では『世間体がよくない』からといって反対したという。そのときにはもう、知り合いの葛城氏と麗子を見合いさせる腹づもりだったのだろう。
悠紀子の部屋を辞し、二人は無言で廊下を歩いた。相変わらずしんとしている。
麗子は、六年前のことから祖母を許せずにいた。榊原夫妻は私生活でもそうだが、とくに利明のほうは仕事面でも何かと制限を受けていたらしい。秋彦は無理矢理麗子と引き離された。
悠紀子には、何もないのだろうか。
「朱鷺弥……」
若葉の部屋に入り、襖を閉める。躊躇いがちに妹が口を開いたのは、そのときだった。
「悠紀子ね、自傷癖があるの……」
やはりそうだったのか。
黙ったまま目で促してやると、若葉はすがるように見つめ返してきた。
「恋人のことで、何か悩んでるみたいだったの。話してくれなかったけど……。おばあさんのことだけじゃなく、そっちでも何かあったのかも」
「わかった。直接は無理かもしれないけど、調べてみる」
秋彦あたりなら、何か知っているかもしれない。
再び廊下へ出て、朱鷺弥は秋彦を捜し始めた。




