永遠の狂気
展望台へと続く中央のエレベーターが止まった。
ドアが開くと、そこには車椅子に乗った男がこちらを向いていた。
「ようこそ、我が城へ。ここまで余所者が辿り着いたのは、はじめての事だよ」
「この街に設置している監視カメラで君の事は見させて貰ったよ。なかなかやるじゃないか」
「可愛い兵士たちを倒すなんてネ、あそこまで仕上げるのには苦労したんだよ」
亡霊は静かに言葉に耐える。
「しかし面白い劇を見せて貰ったよ、退屈してたんだ」
「この街は平和でねぇ…そろそろ新しい商品も必要だったからさ」
強く歯を食いしばり、亡霊は疾走する。
ぐっ、と加速する片腕を突き出した。
「そんな下らない事のためにこんな事を…!!」怒気が篭る。
「くだらなくないさ。下等市民たちが暴れる、人が死ぬ、苦しむ。
そんな人材をモルモットとして売り飛ばす」
鈍い、衝撃。
車椅子の背後から出た2つの義手が直撃を阻む。
「幸い塀の外は、塀の中よりも人が多すぎる」
返すように4つの義手が襲いかかる。
「弱者は強者が支配しなきゃならない!」
義手は計6本。玉座のような形の車椅子は軽自動車程度の大きさだ。
ヒャハハハ!!!!と叫ぶ王。
雨のように上から降り注ぐ連打を、亡霊はバックステップで避けていく。
義手のリーチは前に5m。後ろから生えているので後ろには1m長くリーチがあると推測した。
また、義手の大きさを見ても亡霊のように手首の方からワイヤーを伸ばすタイプではない。
さながら球体関節の千手観音像のよう。
「お前のせいで何人も傷ついて倒れていった」
攻撃を掻い潜り、徐々に近づいていく
「知性が無ければ人間ではない。私は止まる気はない!」
「見ろ、街で暴れているのは、私ではない」
「詭弁だ!間接的に手を出してるのはお前だ!」
横からくる三発、一発を弾く。
「むしろ彼らの抑えつけられた暴力性に、
正当な理由をつけてあげたまでだよ。」
「幾ら文明が進もうと、内に秘めた狂気を人は捨てきれない。崇高な理念こそあっても、新しい技術で人を嬲りたくて仕方がない」
二発目を弾いたところで、亡霊の腹に一発が直撃する。
「理性があるから人は自分を抑えられる。しかし知能が低ければ低いほど暴力で訴えようとする。
これは私の世界だ。この殺戮兵器に親和性があれば肉体が弱かろうと無知蒙昧どもに復讐することができる」
強烈な一撃をもらった亡霊は砂ぼこりと共に床に伏せていた。
「君のこの街での戦闘はずっと見ていたよ。
君かて恵まれた肉体ではない。機械への親和性だけでここまで来たようじゃないか」
「これが人類の次の形とは思わないかね?文明と野生の融合。私のモルモット達は強かっただろう。この殺戮兵器は何も持たない我々に付随する新しい牙というわけだよ」
「しかし見込みがあるな、渇血兵士の代わりに面倒みてやってもいいぞ?」
膝に腕を添え、亡霊はゆっくりと立ち上がる
「ごちゃごちゃうるせぇよ」
王はニヤケながらも、
「君のそのタフさ、体の割に大きなアルマを支えてる理由は知っているよ。
その服の下に着込んでいる補助用のスーツ。
中の世界で普及しているモノよりも旧式。
補助筋肉や装甲強化として作用するようだねぇ。そのアルマも見たことない旧式。何物かは知らないが、"中"の人間だったからここまで無双して来れたんだねぇ」
図星だ、と下衆のように顔をくしゃくしゃに歪める王。
それを無言で亡霊は見つめる。
「ずいぶんと静かだなぁ、私は無視されるというのが大嫌いなんだよ。
私の部下になるつもりもない反抗的な目、残念ながらそろそろ時間の無駄だから
終わりにしようねぇ!!!!!!!」
今まで不動だった車椅子が高速で迫る。
「この街の王、この世界の王となる私の最大級!!!塀の外では私以上の存在はいない!!!!!勝利者は常に私である!!!!!!
故に『グランド・チャリオット』!!!!!!!!」
彼の戦車が、地響きを轟かせて近づいてくる。
ギリギリまで引きつけ、咄嗟に避ける。
しかし後ろからを義手達がカバーして攻撃を仕掛けてくる。
「結構隙がねぇな…でも!」
そう思った矢先に、綺麗なUターンをする。
「残念だったねぇ、常にこれに乗っている。小回り効かない事が弱点だと思ったのか???」
戦車を全身に受ける。
耐えられない衝撃、全身を駆け巡る血液が加速していく。
そして自由落下、床に倒れるとぶつかった部分から発熱。
奴に見破られている通り、亡霊のタフさと大型アルマ『doxa』を操作できているのは着込んでいるスーツのお陰であった。
つまりこの街の者達とは違う、先の技術というアドバンテージで戦っていた。
この街の最高峰、むしろ塀の外最大級の力を持っているといっても過言ではない『グランド・チャリオット』
最終的に義足ではなく、コンソールに瞬間的に入力する技術力。
そして手足のように使っているほどの熟練さ。
性格がどうであれ、彼の強さは紛い物ではなかった。
地に伏せてたら次は全身が轢かれて死ぬ。
針の刺すような痛みが続く体で立ち上がったのは、痛み以上の恐怖があったからだった。
「なるほどな…兵士たちや森野がお前に逆らわなかったのは、単純な強さでか…」
頭からも血が垂れる。
「その通り。力が無くて苦しんだなら力をつけるまでって事だなぁ!!!!」
咄嗟の判断でワイヤーを離れた床に突き刺し、離脱。間一髪
(しかもこいつ慢心してるようで油断がない。
自分に一切の過信はない上で豪語する。
今回は本当に詰んだかもしれないなぁ)
亡霊は冷静に周りを見渡す。
エレベーターがない。逃げれない。
結末は近いことを悟った。