奴隷の夢
戦いは続いていた。
渇血兵士の男3人、女2人。
エムナが一人を倒したからまだマシではあるが、彼らがまだ言語を話すからこれが現実と感じれるが、動きはまるで歴戦の獣のようだった。
そして全員、戦闘しながらも戦闘不能となった1人を視界の端に捉えていた。
女性の兵士の蹴りをいなすと、彼女から語りかけてきた。
「手加減しているだろ?雑巾野郎」
見た目や格好は男女の差は少ない彼らだが、見破れないものではない。
それであっても女性であることで手を出すのが躊躇われた。
「そういうのはいらない、なぜならッ!!!」
咄嗟に顔を横に振るが、さっきまでいた場所にはストレートな上段蹴りが入っている。
「そういうやつから死ぬからだ」
直撃していたら、やられていた。
しかし、ここで時間を取られるわけにもいかない。
本気でやると、リミッターを外さなくてはいけない。それほどに彼女らは強かった。
何か聞こえる。
ユティが力ない声でこちらに呼びかけている。
「どうした?」「どうしたの?」
察したエムナと声が重なる。
「彼女たちは…」
熾烈な攻防が続きながらも、耳を傾ける。
「足が、ない」
はっとして、足を見ると
たしかに太腿から下が義足となっていた。
それならぱっと見ただけでは力を持ってることは気付かない。
しかし6人が全員足を切り落として義足を付けている。
エムナは攻撃を避けているが、ショックを隠しきれない様子だ。
異様な光景に戸惑いながらも、疑問は口から出た。
「その足はどうしたんだ・・・」
「捧げたよ、王にね」風を切る足が迫る
「我々は王の為に戦う奴隷の兵士」亡霊の背後からもう1人が蹴りを入れる
亡霊は背中から押されて吹き飛ばされた。
「・・・もともと足はあったって事かよ」
王は生まれつき両足が無かった。
異端児として迫害を受けてきた王を、父は捨て、母は7歳より家に匿った。
しかし人一倍学力のあった王は、マキナの操作技術を磨いて塀の外で屈指の存在となった。
塀の中では義足の操作が臨床段階であった。
筋肉の動きや、当人の元来の操作技術との親和性。
そのテストプレイヤーとして15の歳に王は選ばれた。
そこで内部とのパイプを手に入れたとされる。
素養があり、パイプを手に入れた王は最新技術を取り入れて塀の外での資産家となった。
しかしその本質は、迫害を受けた事を忘れておらず黒い感情が渦巻いていた。
塀の外には貧民が沢山いる。彼ら奴隷兵士は買われた子供達であった。
資産家となった王は自分と歳が近いものの足を切り落とし、自分に移植しようとした。
だが次第に足を切り落とす事が目的となっていた。そして自分の兵士として扱う為に、義足を取り付けている。
「なんて酷い事を・・・」
亡霊は哀れんでしまった。
「我々は何も感じていない。貴様らも亡きになった時、私の食料となるのだから」
鮮烈な連撃をエムナは直撃した。
「我々はご飯を与えられない。生死の境でこそ人は強くなるという王の思想だ。飢餓状態にしてある、王の兵士は強くあらねばならない。弱者の中の強者、生きる為に誰かを倒す事」
「我々はたらふくお肉を食べたいだけなのだ!!!!」
ねちゃ、と口を開きながら襲いかかってくる4人。
彼らは狩りをしていた。
生きる為、食欲を埋める為戦っている。
きっと彼らは親に売られたり、ホームレスとしていた子供達。
未来があると思わず生きてしまった存在。
それを拾って貰った恩義を、狂った奴に感じてしまっている。
女だから手加減というのは、彼女たちからするとありえないもの。
慢心するほど甘く生きていないのは事実だ
。
そして最初にやられた兵士を捕食しようとお互い牽制しあっているからこそ、抜け駆けされないように見張っている。
なにもかも意識が違う。
どうすればいい。
いま、入り口ではサンタナが戦っている。
街ではこの塔の主人が仕掛けた混乱が起きている。
市民は主犯が誰かを知らない。
ユティは負傷して伏せている。
エムナもこんな話を聞いてしまい、集中出来ていない。
ここで俺たちは終わりなのか。
いや、違う。
この狂った元凶を断ちに来た。
俺はまだやらなきゃいけないことがある。
故に、
『亡霊』だッ!!!!!!
人体相手には使えない出力で、
亡霊を中心に放たれたワイヤー攻撃が
奴隷兵士たちの義足を破壊していく。
奴隷兵士たちは早すぎたその攻撃に
呆気にとられながら、受け身をとれず地面に倒れていった。
「お前たちの夢はこの後叶えてやるよ、
それまで少し眠っててくれ」
ユティの元に、エムナと駆け寄る。
ユティの持っていた応急キットで処置を行う。
「痛みはあるけど、立てないほどではないから・・・」
「エムナ、ここでユティの回復を見ててくれ。君の実力ならココは任せられるから」
「でも・・・」2人して呟く
「サンタナもきっと来てくれる、だから・・・」
独りで塔を登っていく。
途中であった機械室を起動してエレベーターの電気をつける。
奴隷兵士たちがここの主人の最終兵器だったのだろう。あれ以降に誰ひとりいない。
エレベーターを抜けるととうとう最上階の展望台だ。
いつもこの街の高くに、展望台だけは鈍く明かりを放っていた。
みんなの思いを、勝手ではあるが背負っていると自負している。エレベーターが階層を上がるたびにこの街でみた光景が浮かんでは消える。
そして最上に達した。