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ファンタズマキア  作者: 9489
5章「???」
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gaze diary

今から5年前。


塀の外、エリア40。

塀の中から遠く離れた土地では機械技術が発展していなかった。

塀の中の一極集中。塀の中の恩恵を受けられないものたちが集まって地方都市のような様相をしていた。


16歳の時に、政府主導の機械適正検査でA判定。

エリア40では珍しく、選ばれたときは学内全体では大盛り上がりだった。


しかしその後の眼の手術の失敗により、塀の中への招集が立ち消えてしまった。




そんな周りからの失望感を感じることはなくバーンアウトは学校を卒業した。





「これからどうするかぁ」


眼を悪くしたことで機械に接する仕事はできなくなってしまった。

最低限の操作はできるのだが、精密な動きを必要とする仕事となると難しい。


両親とも健在だが、期待に応えることができなくなったことで少し蟠りがある。

兄弟もいるので負担を軽くするつもりで、卒業後は家を飛び出した。


寂れた街で廃品回収の仕事をして、狭い部屋での質素な暮らし。

職場関係も良好、勤勉なことも評価されていたある日。


会社のおじさん達と酒を飲んでいると、外で喧嘩が起きた。

あまりの喧騒に外に出ると、酔っ払ったおじさん同士が争っていた。

仕事で体を動かし、家では筋トレをしている。

腕っぷしには自信があったのでその場を仲裁することができた。


それを端から見ていた胡散臭い男が名刺を差し出してきた。


「何かようですか?」

そう返すと、怪しげな格闘大会に出てみないかという誘いだ。

怪しい感じはしたが、楽しそうだと思って受け入れた。


とある歓楽ビル、その地下に伸びる階段を降りると

そこには地下闘技場が広がっていた。

薄暗く明かりも多くはないが、観客が多く熱気に包まれている。


「飛び入り参加枠として、君には早速戦ってもらおうか」

話が早い、と感じながらも興奮に圧倒されて快諾した。



相手は少し年上のように見えるガラの悪い男性。

この街では良く見る人物像。


「いくぞオラァー!!」


勢いよく来るテレフォンパンチに「鈍い」と感じて

即座にカウンターを入れた。


一発KO。

いきなり現れたニューカマーの勝利に観客は熱狂している。

高揚感に酔いしれ、少し遅れて小さくガッツポーズをした。


そこから後日も頻繁に呼ばれ、

一人、一人、また一人と薙ぎ倒していく。

ファイトマネーも貰い、地下闘技場の勇士となっていった。




数か月経ったある日。

怪しげな男がいつもと違う雰囲気で話しかけてきた。

「この闘技場のチャンピオンとやってみないか」


この闘技場の魔物、

赤髪、緑眼の暴君「グリーン・アイ」


超攻撃的な姿勢と、強靭なタフネス。

そして頭脳的な立ち回り。

弱点らしい弱点のない、圧倒的な存在。


頂点と戦える高揚ではない。

自分を鍛えていって辿り着いた先。


バーンアウトが欲しいのは名声でもない。

突き詰めたストイックさからくる自己研鑽。

「是非、やらせてください」


試合当日。

今までにないビッグイベントに戦う前から会場には割れんばかりの歓声が轟いている。


リングに上がると、その後により強い歓声に包まれてグリーン・アイが登場した。


大手を振って、歓声を煽るようにゆっくり歩く。

そして相対。


「お前が今日の獲物か!」


セコンドから貰った紙コップの水をバーンアウトの顔にかける。

「活きがいいみたいじゃねぇか、お前の事はよく知らないけどかかってこいよ」


バーンアウトは挑発行為に無言で睨み返す。

こいつは潰す、そう誓ってゴングが鳴った。



突っ込んできてパンチの連打。

両腕でガードするが一発一発が重い。


「いうだけはある」そう噛みしめながら一歩引く。

するとグリーン・アイも二歩ほど引いた。


そして間髪入れずに詰めての殴打。

緩急をつけている攻撃、捌き切るのは難しい。

そう思った矢先に腹部にブローが入る。


ボディーが空いたところで右ストレート。

バーンアウトが吹き飛ばされる。


強い。

自分の中のギアを上げて立ち上がる。

隙を見て連撃を入れるが、ダメージとしては薄い。


だんだんと眼が慣れてきて攻撃を追えるようになったが、ダメージ蓄積が大きい。

攻防が続いたが、強者の試合は音楽のようなものだ。

互いのリズムで踊る武闘。


そのリズムのズレを狙ったようにグリーン・アイの一撃を喰らってしまった。


地面に倒れるバーンアウト。



「俺のことを知らないと言ってたくせに、しっかり分析しているじゃん・・・」



心を読んだような攻撃、身体の至る所が悲鳴を上げている。

強さは認める。ただ越えなくてはいけない。

そうしないと自分を許せない。

燃やし尽くさなくてはいけない。

バーンアウトは自分の魂に火を着けた。


ゆっくりと立ち上がる。

グリーン・アイは背中から立ち上る陽炎が見えた。


「ここから変わる」


そう確信し、暴君は出し切るように殴打する。

優勢なのは自分だが精神的に押されている、と。

そう感じているのはこの場所では自分しかいない。


バーンアウトはさっきまでと打って変わり、防御態勢を取らない。

グリーン・アイの殴打を正面から受け止める。


バーンアウトは笑顔だ。

瘦せ我慢ではある。だが追いつめられても余裕な表情をしている。



また互いに撃ち合う。


グリーン・アイも後ろに引く余裕が無くなっていた。

そうして縮まる差。


グリーン・アイはそんな中で渾身の一撃をぶち込む。

しかしそこで久々に両腕でブロックする。


「俺は、俺の護れる範囲だ」


グリーン・アイの両腕を弾き返すと、胴体がガラ空きになった。

「これはさっきのお返しだ!」


カーブを描くように振り切った拳が、グリーン・アイの顔面に突き刺さる。


後ろから地面に倒れこむと、沈黙。






・・・・・


・・・・


・・・


・・





5秒ほどの間があった後、レフェリーが叫ぶ。

「勝者、バーンアウト!!!!!」





最大限の歓声。

リングの暴君を打ち破った『覇者』として称えられる。




救護班に抱えられ、グリーン・アイは去っていく。

意識はあるみたいだが、無言のままだった。



そこから1年近く、地下闘技場のチャンピオンとして君臨した。



そんなある日。







「俺、辞めます」

そうバーンアウトが告げた。


運営の人達はびっくりしたが、意思は固い。


「もうやり切った気がするんです、もっと他の世界を見てみたいと思いまして」


バーンアウトが登場するだけで多大なる歓声。

興行としても大金が入り込むほどの大成功を納めている。

グリーン・アイを下した後から今日まで無敗。


しかし自分が井の中の蛙のように感じていた。


怪しげな男もとい運営の男は名残惜しそうにしながらも、

「君はまだ若い、もっと凄くなるだろうよ」

そう背中を押してくれた。


出発の日は大勢に見送られた。

一度は皆の失望を受けた身、それが声援に変わっていく。

自分が間違えない限り。


そう胸に誓いながらバイクに跨ったのだった。

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