ignition next fuse
スノウに誘われたデート。
気分転換として乗ったはいいが、どうも切り替えられない。
そりゃあそうだ、仲良かった女性が散ったばかりで浮かれた気分にもなれない。
ただ、それでも色んな人と話すだけで気は紛れるだろうか。
「と言ってもここらへんには何もないねー」
廃棄された都市、人がいないわけではないが剥き出しになった舗装されていない道路にシートを引いて廃品を売っている物乞いのような人が多数だ。
「外の街並みと似た感じだなぁ」
「え、亡霊さんは外行ったことあるの?」
大きい目が更に光る。姫は自分の国の外で精一杯か、と格差を感じた。
(でもこの子も実験児だったんだよなぁ…)
自分が過去に受けた事を、少なかれ体験しているのか。と亡霊は石ころを軽く蹴った。
「チッ、腹立たしい」
2人を尾行する影。
スノウについてくるなと言われたグレイだ。
最近のスノウはやけに元気で、亡霊を目で追っている。
元々飼っている鳥が窓の外を見るような複雑な気持ちが胸を握りしめる。
「俺は目の前にいるのに・・・」
最近は白天華もスノウが持つようになった。自分達を繋いでいた糸も切れかけているような不安。
「そもそも、もうココ(H.C.)にいる理由なんてないだろっ…国は取り戻した、あいつ(マジェスタ)も死んだ、俺たちは元々関係ないだろ・・・!」
勢いよく叩いた壁に亀裂が入る。
「ミスティも立て直すとか何とかよくわからない動きしてるし…早く白雪合に帰ろうと言う子だと思ってたのに…」
また同じように叩いた拳。
「あっ、血が出てる」
誰かは他人の空似だろうか。
何のために俺は戦うのだろうか。
過去を受け入れたいからなのか、未来を取り戻したいからなのか。
何かが揺らぎそうだと顎をさする。
「…さーん!」
「……れいさん!」
こじんまりとしたオープンカフェに座っていた。
歩き疲れたから寄ろうと行った先。
そこで深い思考に入ってたようだ。
「ん、あぁ、ごめんごめん」
上半身を乗り出してしかめっ面をするスノウ。
愛嬌塗れの彼女からは、こんな表情も出来るんだなと感心してしまった。
「故郷をどうするか、って話だっけか」
「そうなんだよ!色々な流れで巻き込まれてここまで来たけど、迷ってるって話!」
実は白雪合での戦いから2週間程度しか経過していない。
これからの統治政策と、スノウがH.C.に所属していたが為に社としての統治となるか、国の企業となるか、はたまた提携として共存するか。それをマジェスタと考えている時だった。
国として所属するのであれば、その母体である国家の所属となる。
権限を持つ代わりに、それ相応の制限が厳しくなる。
そもそもこれまでのような運営が出来なくなってH.C.はH.C.ではなくなってしまう。
逆となると明確な反逆国となる。
あの規模の攻撃を受けて壊滅した今となっては選ぶことはありえない方針である。
「わたし、どうしたらいいのかな?」
一国がその双肩にかかっている。
(これは、俺はなんて答えれば正解だ…?)
今の国家は腐っている事は自分が一番よくわかる。
しかし、それは自分と世界との話。突き進む道に道連れにすることではない。
「スノウは、どうしたいの?」
先日誰かから掛けられた言葉のように思う。出来るかどうか別として何がしたいのか、それが大事だと思った。
「わたしはね、もうちょっとみんなと一緒にいたい。もう会えなくなった人がいたと考えると、好きなみんなとはまだ離れたくない!」
周りの囲いに甘やかされているだけではないようだと失礼な事を思ってしまった。
「じゃあ、いいんじゃないか。それで」
出来ることなら力を貸すよ、とぎこちなく微笑んでみせた。
ありがとう、亡霊といると安心する。
スノウはこそばゆい気持ちになった。
「ごめん、ちょっと待っててね」
落ち着くために飲みすぎたか、席を立った。
ドアを出ると、品のない男に絡まれた。
「可愛いねぇ、俺達と遊ばない?」
「最近質のいいオンナ見てねぇんだ、いいよなぁ」肩を掴んでくる所々歯の欠けた男。
「やめてください・・・!」
肩の手を振り払うが、亡霊が近くにいることもあり白天華を席に置いてきた事に気付いた。
飲食店ということもありトイレは死角だ、
亡霊も見えないから気付きようのない。
(どうしよう…)
そう思った時に知らない声が聞こえた。
「か弱い女の子に群がるのやめろよ、嫌がってるだろ」
手には通常より大きめの緋色のグローブ型、そして太腿まで伸びた黒いメタリックなホッパー型のアルマ。
程よい筋肉の乗った見知らぬ男からは強者の風格が漂っていた。
「邪魔すんなよ」
その辺にあるアンプルを投げつけると、男の左眉を中心にガラスの割れる音がした。
眉から一直線に血が落ちていく。
「いてぇ」
能天気なセリフ。
尚も退かない男を見てならず者達は怒りを露わにした。
「こういう正義感振りかざすサワヤカ野郎が嫌いなんだよーーー」
脚に着いたアルマ。勢いよく飛び蹴りが刺さり、店の前の通りまで転がっていく。
そしてもう1人がそれを追いかけて追撃に向かう。2対1だ。
その後スノウも走って外へ出て行った。
「・・・!?」
何が起きてるんだ、事情を飲み込めない亡霊は席を立ち、会計をした。
硬い土の上で大の字になっていた男は立ち上がる。
「言うほどだな、お前たち」
腕を胸の前に出し、
「正当防衛って知ってるか?ここまで為すすべもなくやられたんだ。たっぷりと燃え散って貰うぜ」
両の拳をぶつけた瞬間、男を取り巻く焔の渦が形成された。




