座礁クラブ
人が10人入れるかどうかのカウンターと席。
廃アパートとなる前は小さな中華料理屋だったようなつくりをしている。
奥の方には腕を組んで座っているミスティが居た。
カウンターの中にはガスマスクをつけた男。
ミスティの隣を1つ開けて座るエイトが落ち着かない素振りでいた。
無口な2人の重々しい空気に天井を見たり忙しない。
ドアを強く開けてシックスが入ってきた。
長い黒髪の隙間から黒い眼帯が見える。
「んで、主催者さんはまだ来てないんか」
真剣な表情。まだ完治していないが無理矢理出てきたようだ。
左目は失明、合わない距離感に苦戦しているようだ。
「兄貴、あんま無茶しないでくださいよ…」
エイトが応答してすぐに主催がやってきた。
「遅くなって申し訳ないっす」
両膝を軽く曲げ、そこに手をつけて謝る男、カフカ。
H.C.崩壊から3日。
カフカが持っていた亡霊のインカムから飛んできた救難信号を頼りに、過去に使われていた廃線となった地下鉄線路を抜けてバビロンから2つ離れた街「ナーロック」にやってきた。
この街も過去に『お上』の粛清を受けて機能不全となった廃都市。
人口減少から再開発が行われないまま、忘れ去られた街。
「地下のルートさえ押さえておけば実はこの国どこでもいけるんすよ」とカフカ。
廃線となった地下通路も、大体が問題があって塞いだものだ。
物理的には処置をせず、国家が提供する公共サービス一覧から消えただけ。
へぇ〜と相槌を打つエイトの横で
「そんな事聞きたいわけじゃねぇんだ。俺たちを集めてどうするっての」
会話でも斬り込むシックス。
カフカはその答えを話し始めた。
「H.C.はまだ終わらない。いや、俺は終わらせるべきではないと思うんす」
想定内の質問、しかし想定外なのは
「お前、H.C.の所属じゃないよな、社長は俺がケリをつけた」
「俺たちのH.C.はここで終わった方が良い思い出で済むと思うが?」
H.C.の立ち上げからずっと見てきたシックスの発言はごもっともだ。
苦難苦渋を呑んできた道は平坦ではなかった。これ以上立ちあがると、これ以上なにかを失うかも知れない。
「いや、それでもアンタ達にここで終わってほしくない!」
「それはいくらでも言えるさ、俺たちはみんな傷を負ってるんだよ」
カフカは所謂部外者だ。
今こうして集まってないと失った事を気付いてしまうからな、と眼帯を摩る。
「…」
沈黙が駆けていく。
ガスマスクから漏れる呼吸音だけが等間隔で流れていた。
「…俺はまぁみんなでいた方が楽しいし、このまま解散…ってのも何も筋通してない気がして嫌だけどさぁ」とエイトが割って入る。
「第一、マジェスタさんみたいに仕切れる人いないんじゃないの」
200名規模を背負って走り続けたのは紛れもなくマジェスタの采配のお陰である。
今ここにいるのは…
「私も、このまま止まるのは嫌です。だから、その、なんて言えばいいかわからない
けど…抗っていたいから」
か細くも、凛々しいその声はミスティだった。
「H.C.と同じ感じで復活…とまではいかないんですけど、仲間達は守りたい」
絶大な守護の力を持つ彼女の強さはこの精神から来てるのかもしれない。そう思わせる言葉だった。
シックスは目を丸くしていた。
「ミスティちゃん、あんま話さないけど結構男らしいこと言うのね・・・」
じゃあわかった、と告げ
「やろうか、復活。お前も共犯だから覚悟しろよ」
指をさす先にはカフカ。
エイトは後ろから肩を組んできた。
「よろしくな、新入り!!!」
「んでリーダーだがどうするよ」
シックスが言うとみんなが固まった。
「え、兄貴じゃないんすか?」
「…私もそう思ってた」
頭を掻きながら
「いやー、俺は外野からとやかくいいたいしそういう仕切るの無理だからさ」
「トムでいいんじゃね」
自分に振られると思わなかったトムはびっくりした態度をとった。
「シックスさん、同感すね。俺もトムさんだと思って」とカフカ。
「ちょ…!違う…!俺は!」
「「「はい決定〜〜!!」」」
エイトも乗っかると背中を押す形になり、トムが2代目社長となった。
「大丈夫ですか…?」
「聞いてくれなさそうな奴らだから仕方ない・・・その代わりお願いがあるんだ」
どんちゃん騒ぎをしている3人を横目にトムがミスティに向かい合うと、
「ミスティ、君にNo.2。つまり秘書をやって欲しい」
それは、俺たちが先に進むために必要な事だ。明日に繋げる為には絶対に。




