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ファンタズマキア  作者: 9489
5章「???」
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消失の時代

身体に血液が巡る感覚。

目を覚ますと顔が強張っていた。



出血しつくし、膨れ上がった血管が皮膚の下で硬化している。

適切な処置を行われたようだが、顔中が切り傷と打撲だらけのようだ。



2日。亡霊が眠り続けた期間だ。

狭い診察室のような所に、ベッドではない台の上で寝ていたようだ。



朦朧としていた頭を動かし、何があったか思い出す。







H.C.に迫り来る天使



崩壊するH.C.ビルから脱出したこと



サンタナを前に怒りを示したこと



強く握るアルマの感触



眼前に迫る悪魔



目の前が赤く染まっていくこと





そして、エムナ



エムナ。



「うわあああああああ!!!!」

台から落ちる亡霊。



慌てて駆け寄る足音、ドアが開き



「大丈夫?というか生き返った?」

マルシー。彼女が看てくれていたようだ。



「今は、一体どうなっている!!エムナは!!」

頭を軽くはたきながら淡々と彼女は話す。



「色々あってここは隠れ家よ、バラバラになった人もいる。そして残念ながらエムナは亡くなっちゃったよ」



亡霊は静止した。

そうだよな、あの一撃で既に、

「トムしゃんが手を尽くしてたけど、やはり心臓の一部も抉れてたみたい」



「何故そんな平然として!」

「この2日たくさんの人が生死不明となってる、オフホワイトが目を覚ましたのだって奇跡だから感謝しなさいよね…!」



よくわからないテンションだが、彼女も壮絶な場面を見てきたんだ。

亡霊が寝ている間に。



「シャッチョさんも、バンビおねーたまも死んじゃった。6の人も片目失ってるし大変なのよー、あんたも目を覚ましたのなら早く行動!輸血液と抗生剤早く持って他の人の看病よ!あたしゃ忙しいのよ!!!」



背中を押されて廊下に出される。

なにもまだわからないのに



「わかんない、じゃすまないのよー!誰も今なんてわからないわ!突っ立ってるだけならミスティッちゃんが話したがってたから会いにいきなさい!」



一人でいたら、今を考えたら絶対よくない方向に向かってしまう。

ここまで話しかけてきて、つっかかってくるのは彼女なりの気遣いのようだ。



変なことしたらまた同じ状態にしてやるー!と後ろから聞こえた声に元気を貰い、気がつけば戻っていたインカムでミスティに連絡すると屋上に辿り着いた。









・・・


「目を覚ましたんだね」



おかげさまで、と夜になりかけた街を見て気付く。

「…バビロンではないな」



「…そうね、あの後わたし達は命からがらバビロンを去った」

「あそこから2つほど街を離れた街、そこにある廃アパートにいま潜伏してるってわけ」





「……無理にでもついていけばよかったね」

亡霊の顔を見たミスティは哀しそうな声色で言う。

「…いつもの事だよ、最近は特にな」



「…それでも、仲間が傷つくのは見たくないよ」

「はは、ありがと。仲間だと思ってくれて」



沈黙が流れる。

亡霊は背筋がむず痒くなって、言葉を放った。



「俺は生き残ってしまった」


「たくさんの人が亡くなったらしいじゃないか。その時点で俺は死ねなかった。俺が死ねばよかったのにな」

洪水の様に溢れ出す。


「エムナが死ぬ必要はなかった、俺の因縁で死んでしまった。それも俺のせいだ!彼奴は俺の全てを本当に奪おうとしている!!」



「俺には成し遂げなきゃいけない事があった、でもそこに辿り着くまでには沢山の犠牲が必要なのかもしれない。やっぱり俺は独りで・・・



セリフの途中で乾いた衝撃音が響き渡った。





ミスティの平手打ち、彼女のマスクには涙が付着していた。



「別にあんたが悪いんじゃない、色々重なってこうなって・・・そもそもサンタナが原因じゃない」

「私は頑張ろうとしている、みんな前を見て歩いてる、あんたがこんな気持ちじゃあさぁ・・・」



後半はもう声にならない言葉、何故ミスティが泣いているかはわからない。

亡霊は理由もなく「ごめん」と呟いた。



「・・・エムナちゃんの気持ちが思いやられるよ」



ミスティは小さく吐いた





すると後ろを向き、

「私達は前に進む、その為にやる事があるの。忙しいから先に行くね」



屋上のドアを開け、ミスティは消えていった。





この世界では生きていくだけでも誰か傷付いていくのか。

文明が如何に生活を豊かにしてくれても、大小問わず争いの実は落ちている。



ヒルコも、エムナも、マジェスタもバンビも

突き進む道の中で散っていってしまった。





「潮時かなぁ」



「さぁ、どうでしょうか」

独り言に返事があった。



「隣いいすか」

傭兵のカフカ。ここの隠れ家も彼のツテのようだ。



「煙草、どうすか」

煙草を差し出してくると



「いや、身体に悪いだろうし今日日それを塀の中で吸ってる人いるんだなぁって」

「落ち着きたい時には吸うと冴えるんすよねぇ」



「なんだそれ、早死にするぜ」

「さっきまで三途の川居た人には言われたくねっすよ」



「どーせ死ぬなら身体に悪い事やって死んでもバチあたらねぇと思うんすわ」

「毎日いてぇ思いして戦ってきたもんな、ありかも」



「じゃ、貰います?」

「んや、いいよ」

「ちぇっ、独りだけで吸うの申し訳ない気持ちあるんすよ」





後で知ったが、亡霊を担いでH.C.残党に逃走経路と隠れ家を提供した。

誰よりも汗だくで動き回っていたようだ。



最初にあったのは戦場だったけど、何となくコイツに助けられたんだなと亡霊は感じ取っていた。



何かあったらH.C.で拾うつもりで渡したインカムのお陰で逆に助けられたようだ。

飛んでくる情報と、電波妨害範囲外にいたことが奏して位置探索機能でサンタナとトムの位置を飛んできたようだ。



そんなH.C.も解散してしまった。

今の俺たちはただ理由もなく身を寄せ合っているだけ。



街で最強だったとしても俺たちは弱い。

繋がりも一瞬で切れる。





握り締めた拳を見て思う。

たった一人の策略で全てが終わった事。

口に出さなかったが信頼していた友人に裏切られた事。



そしてその裏にいる自身を憎み続ける知らない存在。

自分の過去。





「…チッ」

一人になった屋上、辺りはもう暗くなっていた。

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