退屈
眩い光、それは闘争の終わりの合図ではない。
シックスが切り裂いたもの、それは夢幻。
そして一瞬の間。
手応えを感じなかった彼はその事に疑問を感じた。
マジェスタを貫こうという意思での一撃。
どこで、なぜ消えている。
いつ本物と電気分身と入れ替わった。
そう思案したが事実は事実だ。
次の瞬間にはシックスは今までで一番の雷に打たれ、身体を焦がした。
雷帝の一撃。
「thunder judgement(雷帝の裁き)」
幻のマジェスタを切った時に霧散した時に、微粒子となった電子の膜をシックスの身体に張った。
そして其処にありったけの雷を注ぐ奥義だ。
シックスは最高戦力と評される個である。
強者との戦うセオリーは土俵に上がらない事。
マジェスタは分身と本体で代わる代わる入れ替わり戦っていた。
遠距離型の銃が武器である手前、相性がいい戦い方だ。
そして雷帝の裁きは範囲が広い為、ある程度マジェスタが距離が離れた時にしか使用できない。
つまり分身を離れた位置に誘導し超速でシックスを遠ざけたから発動出来たのだ。
何故シックスがこの攻撃を受けたか、理由は簡単だ。
マジェスタが今まで一度も誰にも見せたことの無い技だからだ。
分身弾を撃つ事さえも、限られた人物しか知らない。
また存在しない弾数制限の事も伝えている。
それは自分の底を知られない為に常に隠してきたから。
彼は王でありながら、いつ自分が討ち取られるか常に不安だった。
そして其れは現に今日起きた。
それがシックスであったとしても返り討ちに出来た。
親友を葬った彼の心に広がる感情は、達成感だった。
彼はずっと孤独だった。
シックスはふと思う。
地面ってこんな熱かったか、倒れている身体の末端は夜風に当たって冷えている。
それよりも全身が痺れるように痛い。
指一本動かす気力が無いほど痛みを感じる。
完敗のようだ。マジェスタにここまで信頼されていなかったのかと、反逆してそれに気付いた。
「…一人でバカみてぇだな」
親友だと思っていた、だから一人で突っ走る彼を看過出来なかった。
瞼が重くなっていく。
気が遠くなっていく。
「悔しいなぁ、チクショウ」
シックスは気を失った。
それを確認したマジェスタは倒れた男に声をかけた。
「愛の前では何もかもが無力だ」
…マジェスタはサンタナの事を
「!!」
すると
シックスが立ち上がった。
上半身をだらん、と下げて長い前髪で表情は見えない。
しかし先程まで纏っていた生気ではないものを纏っていた。
オーラとして見えるのなら、それは青紫の瘴気。
眼光は紫に光を灯した。
すると5m離れたマジェスタの身体に衝撃が走る。
とてつもなく早い一撃を右頬に叩き込まれたみたいだ。
それに気付いたのは床に叩きつけられたときだった。
さっきまでのシックスではない。
「あいつもこんな奥の手を隠してたとは」
やっぱり、信頼しなくてよかった。
戦いはペースだ。
シックスを一回伏せた精神的優位性がマジェスタが優位であると自信付けている。
分身を5体、全員が雷を纏いシックスに迫るが地面に落としていた剣を振り回すと一瞬で霧散した。
「痛みを感じていないのか…?」
振り回す彼の表情は変わらない。
…鬼神だ。
そう思う頃には離れていたはずのシックスが近くまで迫っていた。
痛覚は鈍っているが、感覚は研ぎ澄まされているのか。
圧倒的な暴力の旋風にマジェスタは身体中を幾度となく斬られた。
切断まではいかないが、裂傷まみれとなった。
「これはまずい」
自分の血を見ること、それはマインドを冷静にしてくれる。
しかし冷静になってわかるのは自分が一瞬で劣勢となっている事だった。
自分を貫こうと再度来る剣撃、
感じる圧でマジェスタは敗北を悟った。
いや、敗北どころではない。
死を迎える事を。
好きな人が逃げ延びた世界、
彼が生き延びれば幸せだ。
そう始めて感じさせた男。
シックスの強さは驚異だ。
ここで仕留めなきゃ
「サンタナはやらせない、お前も道連れだ!!」
至近距離で頭に向けた銃。
そして手加減もなく引き金を引く。
銃声と風を切る音が響いた。
マジェスタの左胸には剣が
そしてシックスの左目は穴となり、血がこびりついている。
「ぐっ…」
マジェスタは口から大量の吐血をした。
一撃で死ななかった事、シックスの脳天を撃ち抜かなかった事。
それらはシックスが直前で正気に戻って止めるために力を込めたからだ。
「殺す気はない、ただ止めたかっただけだ」
左目から垂れた血は、涙のようだった。
「俺はマジェスタと出会えてよかったよ、お前には信頼されてなかったみたいだが俺は毎日楽しかった」
「お前があいつに感じていた感情が、そんな気持ちとは思わなかった。邪魔してすまなかった」
シックスはマジェスタの気持ちを気付けず、立ちはだかった事を謝った。
でも、と続けて
「俺はここが好きなんだ。だからお前が降りたかったのなら止めただろうけど、H.C.辞めることはなんだかんだで受け入れたと思う」
「で、次どうなるんだよなんて悪態ついてたと思うよ。お前の代わりに上に立つ器じゃねーしなぁ」
「新しい世代も好きなんだよ。だからあいつらの居場所まで奪おうとしたことは許せなかったんだ」
「誰にも迷惑かけなかったら、同性愛なんて何も思わないさ。だって俺達は友達だろ」
マジェスタが隠していた後ろめたさ、バンビを抱いても満たされない気持ち、スノウを美しく感じるからそうではないのかもしれないとも思っていた。
しかしサンタナに抱擁された時に気付いてしまった気持ち。
今まで満たされなかった気持ちを得た男は、玉座に座り続けることより一個人としての快楽を追った。
それはなによりも動物らしい事だ。
最後の最後でそれを得たマジェスタは幸せだった。
「H.C.はここで終わりだ、俺はこのまま生きる」
無くなった片目を抑えて、シックスは屋上を後にした。
あと数分の命、
魂と肉体をつなぐ糸が細くなっていくことを感じる。
何かさっき放送があったことは聞こえた。
それはバンビの声だった。
でもどこか遠い世界の放送のような、
このビルも、自分自身もここで終わる。
幾多の夜を共にした女が側にいた。
「…いいのか」
声を掛けると頷く。
「あなたが私を思っていなかったとしても、私は私のしたいようにする」
「あなたがいない世界はまた退屈になるから」
そうか、ここまでの覚悟だったんだな。
あちこちで爆発が起きてるようだ。
ふたりは生き絶えた。
倒れている男に、寄り添うようにいる女。
ふたりは繋がっていないが、繋がっていたのかもしれない。




