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ファンタズマキア  作者: 9489
4章「さよならH.C」
38/51

彼女は悲劇を愛している。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ヘレナ・コーポレーション ビル

30階建



1階 バー

2階 ラウンジ

3階 事務室

4階ー10階 倉庫

11階ー15階 兵士居住区

16階 研究所

17階 レクリエーションルーム

18階 病院窓口

19ー23階 病室

24ー26階 幹部居住区

27階 管理室

28階テラス、会議室

29階 社長室

30階 屋上

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


何故そこまでに執着するのか。



自分しか感じないものを見たからなのか、



単なる好意からなのか。











屋上に並ぶ2つの影。







「俺はずっとひとりだった、俺の意図した通りの動きを完璧にこなすのはお前だけだった」



羨望、組織の長に君臨しながらもサンタナに魅了された。



彼の底抜けない優しさ、どこか遠い眼するような顔。





亡霊からも暗い過去は感じるが、彼は子供っぽいと何処かで線を引いていた。

H.C.へと流れて辿り着いた理由も復讐だろうか。彼に好意のあるエムナも同じく浅い。



シックスとエイトは何も考えていない。つるむ分には良いが俺の理念に心酔しているとは感じない。

スノウは可愛いが、周りの取り巻きが面倒だと感じる。

カムルはアホの癖に噛み付いてくる、トムは悪くはないが引っ込み思案で自主性を感じない。



そしてバンビの愛は重い。些細なことで妬いてくる。

普通に回っているように見える組織だが全てが円滑にまわるように立ち回っているのはこのマジェスタであると自負している。



そこで唯一、対等に見てくれたのは新入りのサンタナであった。

「マジェスタさん、大変そうっすね」



ここ数ヶ月、多忙の中でも交流を続けていたこともあり精神的支柱となっていた。







「お前がいなきゃこの組織は意味が無いんだよ」

銃口を向けるマジェスタ。



「すみません、それでもこれ以上はいれないんです」

頭を下げるサンタナ、マジェスタは肩を震わせる。



「カムルの件、感謝している」



自分が依頼した始末。

サンタナはそれをしただけ、たまたまその始末が機防隊に見つかってしまっただけ。



謂わば今のH.C.への攻撃の引き金を引いたのはマジェスタ。

大きくなってきた組織、蔓延っていた反乱因子の親玉を暗殺した。



巻いた火種は勢いよく燃え上がっている。

H.C.は今未曾有の攻撃を受けている。





「残ってくれ、でなきゃ」

撃つと言いたげな銃口。



「マジェスタさん、面倒見てもらったことは感謝してますよ」



大きな地響き。下の階層が爆破されたようだ。

「このままだとH.C.は本当に無くなります。このビルは完全に爆破されてしまう」



向けられた銃口を気にせず屋上の淵へと歩き始める。



「マジェスタさんだけには生き残って欲しいから伝えましたよ。絶対逃げてくださいね」



手を広げたサンタナは、そのまま後ろに倒れるとそのまま落下していった。





撃てなかった、撃つ覚悟が無かった。

マジェスタはひとり佇む屋上で腕を下ろした。









[16階 研究所]

「案外私たちでも戦えるんじゃない?」

サニーが声を上げる。スノウたちラズベリーの4人は各々のやり方で1体の天使と戦う。



すでに3体を倒した。全員どこかに傷をおっているが先日までは非戦闘員だった彼女達。



機密もある関係上、重要拠点となる研究所には金鬼の面々も戦闘をしていた。



負傷者を出しながらも、天使の軍勢に抗っていた。



天使たちも気付いた。たかが200名規模の組織に戦いのエリートである天使が100体も動員される必要があるのか。



しかし見くびっていた彼らは紛れもなく肉薄していた。



H.C.の負傷者84名に対し、起動不能となった天使は41体。

想定以上の戦況となった。



「お嬢ちゃんたち強いねぇ!」

その声はタムラだ。両手に持った根本に続き、重機の様な補助腕が唸る。



「おじさんも背中から色々でてすごい!亡霊みたい!」

フラッフィーが素っ頓狂に話す。



「まさかこんな所で姫にお目にかかるとは思わなかったもんでねぇ、おらっ!」

回転の要領で敵の装甲を砕いていくタムラは張り切っているようだった。



「…スノウは姫さまなんだよね…フフフ」ジュルリ

負傷者の手当てをするマルシーは戦場でもマイペースさを崩すことはないようだ。



研究所では調子が良いが戦況としてはH.C.が不利であった。

それを裏付けるように下の階が爆破されると、ビル全体に衝撃が走る。





ガラスは割れ、

衝撃で吹き飛ばされる。





何処からか用意されたミサイルを撃ち込まれたようだ。

普段の機防隊では行わない、局地的な爆破。



無抵抗で鎮圧が難しく、さらに抵抗が激しく和解の余地がない場合に特例として使用されるものだ。





「こういうとき彼らの飛ぶ機能は羨ましいわね」

サニーが言うように、天使の装甲にはダメージはなく爆破前に指令があったのか宙に浮いていた。





16階でもガラスや瓦礫が当たったものもいる。

10階に打ち込まれたミサイルは6階から14階を消し炭にしている。



一斉に逃げ出した天使を見て、危険を察知したものもいるが概ね戦闘継続は出来ないほど負傷している。







サンタナの指示で、ユティを連れてビルの外に出ていたエムナはそれを目の当たりにした。



「いったいどういうこと…?」

ビルに打ち込まれたミサイル。



ユティを守るように言われた彼女は、戦いの波に呑まれユティと逸れてしまっていた。

「ユティちゃん大丈夫かな…」



どうやら天使たちは女性を積極的に狙っているわけではなさそうだ。隠れて移動はしてるものの、見つかっても攻撃してこなかった。



「気味が悪いよ…はやく誰か何とかしてよ…亡霊…」



すると屋上から飛び降りる人影をみた。

特徴的な腕のアルマ、きっとサンタナだ。



「サンタナと合流してからユティちゃん探そう!!!」

そうと決まればサンタナを追っかけなきゃ。

隠れていた瓦礫から跳躍し、ビルへ駆けていく。





[16階 研究所]

走る3人と、蛇に乗った1人。

皆彼らの姿はよく知っている。



「ミスティ!!!」

「亡霊!!!エイト!!!!」



22階から階段の敵を蹴散らし、今一番勢いのある彼らはやってきた。



「あとひとりだれ?」「知らない」



涙を腕で拭うワッチ。両肩を叩く男たちはドンマイと言いたげな顔をしていた。



「これから目立っていけばいいのよ、いつでも武勲はあげられる」

「そーだそーだ。俺も亡霊も適当よ、テキトー!」



ニカッと笑う男達。まだこの階は平和ではない。





「しゃあ!!!」

天使に飛び蹴りをかますワッチ。



「倒せてねーじゃねーか!」

すぐに追ってエイトが斬りとばす。



「俺も混ぜろよ!!!!!」

久々のアルマを装着し、すぐに飛び出る機械腕はあっという間に天使を撃破する。



「2人で1体と俺1体ってところか!」



亡霊が半笑いをしながら前を見ると、ミスティが2体を圧倒していた。





「私の勝ち…」

亡霊とワッチを護ってた分、その実力はとても高い。



「なんだぁ、こういう勝負には乗るタイプね」

「うわー、俺もひとりで倒さなきゃ」

「水…水補充させてください…」



わいわいがやがや。

彼らが来てから、空気が変わった。





「お前らうっせーぞ!!」

タムラの怒号、だが、



「お前らみたいにイキイキしてる奴らを見ると俺らもやらねぇといけねぇよなぁ!!野郎ども!!!」



オォーッ!と金鬼たちが雄叫びを上げる。

すると彼らは天使に向かい突撃する。



タムラは亡霊に近づき、

「もう一人で戦うんじゃないだろ、士気はこうやってあげるんだ」



今まで一人で戦っていたことを見透かした老兵はさらにこう言った。



「お前らも今士気を高めあったから強い。思いの力は本来の自分の実力を120%出せるようになるってな。心って不思議だよな」



「口下手だからあんまうまく言えねぇけどよ、この場は若いもん。つまり亡霊、お前が仕切れ」



片耳で聞いていたようだったミスティも頷く。



「いいじゃん、亡霊。今日は命令多いし流れで突っ走れ!!!」

エイトも飛び跳ねながら答える。



「あぁ、じゃあいくぜ!この場は俺が取り仕切らせてもらう!!!」



大声は思ったより澄み渡った。鉄のぶつかり合う音をあげながら、先ほどまでの人の声は無く、亡霊のみがそこにあった。









「咄嗟の流れだし、病み上がりだからお前らに言う!命令だ!!!死ぬなよ!!!」





各々態度で返事を返していく。

天使達を押し返す、そして死なずに自分を、隣人を、H.C.を守り抜く。







「まだ戦いは終わっちゃいねぇ。ここから変えていくぞ!!」

膨れ上がる士気で弾けたそれは揺るがない。







[28階 管理室前 廊下]

シックスを追ったパークスは、廊下の先にいる男を睨み、舌打ちをする。

自分達の故郷を奪った存在、悪魔のような殺戮者。



しかし疾駆するシックス。

「危ないですよ若!!!」



いくらシックスが強かろうと、メシアには苦戦する事が想定される。

勢いで突っ込むと、答えは明らかだ。



相対し飛びかかるメシア。

心は踊っていた。シックスと交えてみたかった。

H.C.で最高峰の兵士、一個人でここまで天使も捌いてきた事も知っている。



地を蹴り近付く剣士、タイミングよく手をかざして爆破する。

そして爆煙の中で尻尾を突き立ててシックスはおしまいだ。









そんな刹那。



宙を舞っていたのはメシアだった。

瞬間に六撃。頭部、胴体、両の手足。

同時に走る痛みを感じている間に、叩きつけられた地面。



自分の敗北を知覚した頃にはシックスは更に上の階を目指していた。





数刻して追いついたパークスが見下ろして吐き捨てた言葉。

「うちの若の実力を見誤ったようだ・・・」



身体を蹂躙する屈辱にメシアは叫んだ。

「なんだよ、殺せよ」



「若があんな簡単にお前を倒せたんだ。俺はもう若の下の一兵士でしかない」

「若が一瞬でお前を倒して先に進んだ。それ以上に俺は何もしない」



故郷を滅ぼされた事、そんな事は若が勝った時点でもう良いのだ。

自分達の復讐を一瞬で成し遂げた。

倒れている彼にとどめを刺したいと考えるほど、パークスは冷めてはいなかった。



「このまま俺たちは先に行く。このままお前は変わらないとロクな死に方しないぞ」

憎き相手にする最大限の譲歩、生きて罪を償って欲しいとパークスはその場を後にした。









「クッソ!!!!クッソォォォォ!!!なんだよ!!!!また負けかよ!!!!!」



大の字のメシアの精一杯の怒号は誰もいない空間に消えていった。

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