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ファンタズマキア  作者: 9489
3章「白雪合編」
28/51

薄雪の香

夢を思い出すんだ。

慣れ親しんだ街を離れて、どこか遠くで海沿いの家に住む。

そこは明るくて、僕と君以外の足跡はない。

影もなく、ずっと踊り続ける君を見続けるんだ。







その為に俺は







最上階、ウエディングドレスを身に包んだスノウがいた。

その左手には、刀を握ったメシア。

「とうとうお前は俺の元に戻らなかったな」



「…それを返せ」

グレイは静かな怒気を含んだように搾り出す。

スノウの刀、いつもスノウから手渡されていた自分の刀。



「これは元々お前のものじゃないだろ?人を盗っ人扱いはやめてくれよ」

何より、と続け



「俺からスノウを奪ったのはお前じゃないか」

切っ尖をグレイに向ける。



「スノウを自由にするためには必要だった」



そうかい、と後ろを向くメシア。

その腰から飛び出た尻尾。

躱そうと体をひねったグレイの左肩を抉る。



「じゃあ何故一緒にこの国を変えると立ち上がった。何故城を落とす作戦に乗っかった。スノウに出会ってから色に染められて逃亡したのはお前じゃないか」



さらに振り返りながら右肩から左脇腹に一閃。床に紅い粒子が付着する。



そんな事か、と鼻で笑うグレイにメシアは掴みかかった。



「スノウを見たときにお前についていこうって感情が消えた、仲間なんてのはどうでもいい。この人なら全てを許してくれるだろうという心の支えが出来たのを感じた」



「そして俺たちが下から見ていた狭い国、その上の姫に出会って、彼女もこの狭い所に押し込まれていた一人だと気付いた時に放っておけなかっただけだ」

肩口から流れている血を手に溜めていたグレイはメシアの目にそれを掛ける。



幼少期から共に過ごした友が普段行わない姿、誰かを思う力が今までと違う彼の動きなのか。

不意をついて奪った刀で、元婚約者を斬り伏せる。







「利用されてばかりのスノウを、俺は救い出す」



力一杯振り上げた斬撃で、男は地面に引き摺られる。





「てめぇ!!!!もうゆるさねぇ」

立ち上がったメシア。手加減はしないと言った形相。



結婚相手と仲間を同時に失った後からメシアは狂ったような行動を行うようになったらしい。

母性本能をくすぐる顔と精神年齢から、下町育ちの割に甘やかされて育った。

しかし人望の軍配がハーザクに上がったせいでガルムのリーダーとはならなかったが強さとしては1,2を争うものであることには変わりがない。



変わって冷静な目をしたグレイと、

すでに因縁の戦いは始まっているのだとスノウは固唾を飲んだ。







ーーー

ーー



肩で息をする影が2つ。

ハーザクの背中に背負っていたものはタービン、ギリギリの戦闘でとっておきのとっておきにしていたようだ。



稼働時間と、操作や速度に難が残っているそれは奥の手だ。前に争った街での戦利品。







けたたましい音をあげるタービン



「ブルブルうっせーなぁ」

「俺が一番わかっている、さらに振動もきついぜ」



傷だらけの笑顔。だが手は止めないし、抜かない。

天使と戦った。流石に強かった。

しかしアレのような規則正しい動きではない下町仕込みの力と技。亡霊は向き合う彼に微かな尊敬さえも抱いていた。



数人しかいない少数精鋭、そこから1つの国を落とすまでに至った事。

仲間はどうであれ、彼が戦う理由は信頼と情熱。

「メシアの裏でやってることはわかる、だがガキのころからのダチなんだ。歪んだ理由もわかる。いつか報いは受けるさ」



何故ハーザクはメシアを止めないのか。

メシアはハーザクの前ではそんな態度を取らない。

「あいつだって悪いことをしているという自覚はある、だから」





空から急襲する、

それを間一髪で避けるが

「見て見ぬ振りをするのも友達だろ、そして一緒に責任を取る。縛り上げたくないと理由で悪行を黙認してる俺も同罪だ」



横一閃に振り回す尻尾。構えていた腕に振動が伝わる。



「必ず道を逸れることがある。でも俺たちは人なんだ。逸れてもその先で一緒に歩けばずっと寂しくねぇさ」



吹き飛ばされた体で襖が折れている。

宙を飛ぶ獲物へと加速した腕が迫り、

地面へ叩きつける。



「それがお前の強さか、仲間を背負って生きている。ばかだな」

口からの血を拭うと







エイト、



ミスティ、





シックス、エムナ、ユティ、







ヒルコ、マジェスタ、







サンタナ







「…でも悪くねぇ、メシア(アイツ)は気にくわないがお前みたいな奴が一緒にいて幸せ者だと思うわ」



瓦礫に埋もれたハーザク。

ゆっくりと立ち上がると、お互い同じことを目で訴えた。



「そろそろ限界だ、次が最後の一撃となるだろう」



邪魔くさそうに背中のバックパックを投げ捨てると、髪をかきあげてハーザクの黒縁眼鏡が煌めく。



コントローラーを握る手を離し、太腿が手汗を拾う。

足に力を溜める。ふくらはぎが熱を持ち始める。



最大値まで溜まった後にくる僅かな間、

ここまで何度拳をぶつけてきたか。



真空状態が支配する。





つま先が弾ける、同じタイミングだ。

クローが回転する。そして昂ぶったそれは飛び出していく。





叫び。



飛び出したそれは男の肩を穿つ。



苦悶の表情の男の視線の先。

宙に浮いていた亡霊の左足を挟み込む。



捩じ切るように回転。

足が使い物になくなる未来が過った。

そして振り回されるが、

襖や柱にクローを伸ばし、

強引な蜘蛛の巣を形成する。



回転を強制で止めたが、ギチギチに伸ばして戦場の柱や瓦礫にワイヤーを伸ばして固定した所為で攻撃手段を失った。



「…そもそも足がいてぇ!!!!」

こういう風にデスロールを回避する奴がいるなんて。

グローブ型のアルマをつけているハーザクは攻撃できる状態だが、手を下ろした。



「いいよ、これは引き分けにしよう」



すると入り口に見えた影。

大きな手甲型のアルマ『Hanged terminater』

数分間の戦闘を約束された終焉者がこちらに迫っていた。



「!」

亡霊の足から鋏を外し、自分に近づける。

その間にパンチが迫る。一度倒した相手。

しかしリベンジマッチは相手がこちらの動きを分かった上で、恨みや復讐心で精神面が強くなる。



ラッシュ、間髪入れず。

「亡霊をいじめんといてくれや!!!」

サンタナは亡霊を助けにきたようだった。

飛ばされるハーザクは満身創痍だ。



「…あの傷から復活したんなら弱ってるところに攻めるなよって言い訳は通じないか」

立ち上がると鋏を開き、サンタナを捉えようとするが逆に掴まれた。



ギギギギと音がなり、小規模な破裂音。

鋏を無理矢理壊された。



「亡霊、最後に言っておく」

最期を確信したハーザクは言う



もっと別の場所で会いたかったと、出かかった言葉を下げ



「お前は俺みたいにはならないだろう、だが俺は嘘はつかない」



サンタナの破壊的な一撃で場外へと飛ばされていった。



「亡霊、助けに来たぜ」







気のいいやつだった、

でもここは戦場だ。

またどこかで会えるはずだ。

先まで戦った男が居た場所に一瞥し、



「…おせーよ」

仲間に悪態をついた。

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