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ファンタズマキア  作者: 9489
3章「白雪合編」
26/51

torture

格好つけてミスティを先に行かせた。

2対1、銃と鉈を持った元味方と背中にイソギンチャクを背負う美意識の高そうな男。



「ほらっ!くらいなさい!!」

飛び上がりながらエイトに雨のような触手が降り注ぐ。



滑り込むようにして逃げるが、全ては避けきれず胴体に鈍痛が走る。

リーチは5m、数は50本程と言ったか。

一本一本の威力が高いわけではないが、小さな一撃は毒のように蓄積される。



「…ハズレくじなのはわかってるけどよぉ」

それが特に自分が不利な条件なら尚更。

逃げ込んだ先に鉈を横に降るハーム。

しゃがんで避けていたエイトは其処から飛び前転。



「前転ってそもそも痛ぇよな」

なんて独り言を言ってる間も無く一本の大きな一撃。

まとまった触手、それはサンタナの一撃と見紛うものだった。



咄嗟に剣を構えて防いだが勢いを殺しきれず、全身に衝撃が走る。

「いってぇ…これは無理ゲーじゃね」



でも、と次に続いた言葉は

「俺、追い詰められねぇと本気出せねー性分なんだよ。後ギャンブルめっちゃ好き」



賭け金が底を尽きる。

相手は十分に強い。やっと火がついた導火線、自分の得物を見る。



「…さぁ、勝たせてもらうぜ」

いつもとは違う冷えた口調。頭の中では色々なものが駆け巡る。



「何言ってんだおまえ、この状況で!」

ハームが話し終わる前に背後にエイトが居た。



一閃。勢いよく弾き飛ばされたハームは壁に頭を打ち付け気絶した。



「これ以上賭け金減ったら明日が怖いってな、リスクは減らしていくよ」



2対1は不利だ。

普段は気楽な任務をこなすエイトは一人じゃなかった。









元々はある街の教会で孤児として引き取られた少年。

8番目の入居者「エイト」

この頃から兄と言える男と一緒だった。

ある日に教会は街への大規模な襲撃で失ってしまった。

仇討ちとして兄貴分は2年間行方をくらませた。



エイトは日銭を稼ぐ為に、秘密裏の賭博場に出入りし始める。幸い運の神に愛されたは食い扶持が無くなることは無かった。

戻ってきた兄貴と入ったのがH.Cだった。



彼は気楽だ。でも自分の引き際が分かっている。自分の戦場をわかっている。



「これはギャンブル。さぁ」

上体を後ろにし、砲丸投げのように構えると、持っている十字剣「ステークス」を投げた。

回転しながら飛んでいく大型の手裏剣のようなそれはチワワへと向かう。



これが、奴の作戦か。

迫り来るそれは威力を上げて。



チワワは横へと避ける。

「簡単な結果だ」



避けた先には既にエイトが迫っていた。

其処には投擲したはずの十字剣。

何故。鳩尾へと突き刺さる。

スキンを着てるから死にはしない。

だがスキンを着てなかったら魂は抜けていた。



「jesus」

エイトは倒れるそれに対して哀れむように唱えた。





……

この三日間は拷問だった。



メシアが来る度、同じ様な問答。

否定すると鞭打ちや殴打。

これから長い間悲劇を受けるといえそうな優しいものだった。



左目の部分は水膨れが収まり、皮膚の再生が始まっている。

肉体的な痛みは構わない、だが



「…グレイ!!!」

格子の向こうにはスノウが居た。

後ろに手錠をつけられ歩く彼女と僕は触れ合うことの出来ない鳥籠の小鳥のようだった。



「ほら、久々に見る家来の顔はどうだい?」

下卑た顔で笑うメシア。

スノウの肩に手を置き、嘲笑いに来たようだ。



「てめぇ!!!!くそッ!くそッ!!!」

手錠が壊せないのはわかっている、しかし暴れる心臓に合わせて動かないと気が済まないのだ。



「わかりやすー。安心してよ、グレイ。今はスノウは最上階で元の暮らしをしているよ」

「そういえばそろそろ考える時期かと思ってね」



封筒に入った手紙。

わざわざ手紙を書いてグレイの足元に投げつけるというだけで中身が何かわかってしまった。



「ああああああ!!!あああああああああああああああああ!!!!!」



「ごめんね、スノウ。友達がうるさいから部屋に帰ろうね」

獣のような唸り。痩せ細っていく身体が憎らしい。









………



廊下を駆ける亡霊は横から飛んできた腕に吹き飛ばされた。

襖を巻き込みきりもみ状に転がる。



「こんちわーっす、お相手願いま〜」

強面で猫背の青年。黒い年季の入ったブーツは地を蹴る。

起き上がった亡霊は天井に手を伸ばし、飛び蹴りを避ける。



「ここを守っているって事はお前はここの幹部ってことか」



「いや、違うなぁ。俺は傭兵。金の良い雇い主なもんでね」

たしかに他の兵士とは毛並みの違う動き。

いくつかの戦線を潜り抜けてきたであろうフットワークだ。



「つっーことでよろしく!!」

シンプルな二本の前腕。自立起動しているところを見るに流行りの第5世代のものだろう。



腕の動きさえ見ていればなんて事ない、とは思っていたが二本の自由に動くそれは巧みに動いていく。

緩急、視線ずらし、死角からの攻撃。



この男の経験値が見て取れる動きだ。

他に特に能力がないのだろう。

その分不測の事態に起こりづらい。



独りで戦ってきたからこそ、シンプルな機構はメンテがしやすい。

基礎をマスターしている事がどれだけ厄介か。

(こいつは…)



そう、亡霊の戦い方と同じだ。

それが自立起動か、ワイヤーでの操作か、それだけだ。



黒金の前腕に乗っかり、腕とともに突撃してくる。

「そんなものもありかよ!」

亡霊はワイヤーを壁に付けて、それを巻き取る事で高速移動を実践している。



しかしこの傭兵は腕に乗る事で、さらに自由な移動を可能にしている。



「やっぱそうか、俺たちはミラーマッチってわけだ」

傭兵は喜ぶ。幾多の戦い、自分より高性能のものを屠るのは容易かった。

それらは力に溺れる。幾らアルマが強かろうと操作する人間には同時に処理できる数には限度がある。



また、死角は必ず存在する。

象には蟻が見えないように、人が足を刺す蚊を認知しにくいように。



何かで人は情報を捉えている。

視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚。

動くものには目線が行きやすい。

そうして亡霊は背中、アルマを装着している隙間に衝撃が走る。



「ッッ!!!」

背中、いつのまに。

一瞬の注意、前を見た頃には傭兵の蹴りが胴体にめり込んだ。

大きく地面に叩きつけられる。

視界がぐるぐるとする、心拍数が意図せず上がる。



倒れた五体に間髪入れず降る二発。

断続的な攻撃はこちらに思考のいとまを与えない。



「しんっ・・ど!!」

血反吐を吐く。亡霊の秘儀リミットカットをしても当たるかわからない。

そもそもリミットを掛けるのは対人だから以外にも僅かな操作ミスが命取りになる。



むしろ普段から制限をかけてる以上、不慣れな操作な事には変わりがない。

最悪、今のようにペースを乱され続けると無駄にエネルギーの消費することになる。



「案外脆いもんだぁ、こんなもんか」

近づく男に腕を放つが、宙に浮く腕に阻まれる。

自動防御、予想以上にこの腕は厄介だ。





「…ならば答えは簡単!」

それを掴もうとしなる亡霊の手。

蛇のように暴れ、逃げる腕を追う。



しかしそれはワイヤーのない腕。

自由度の違うそれには辿り着かない。



「ハハハ、無駄だよムッ」

視覚からの攻撃。地面から隆起した腕。

それは明確に傭兵の顎を捉える。

弾けるように宙を舞うと、重力のままに落ちた。



「やるじゃん。片手で腕を追い、まさかの床をぶち抜いて下から攻撃とは」

口を拭うと、髪をかきあげ立ち上がる。



目が変わった。

片手に乗り、片手は眼前に迫る。



「無線にも良いところはあるが、有線は何処にあるかは俺次第ってなぁ!!」

亡霊はそれを弾き、右腕のワイヤーを鞭のように左に薙ぐ。



「鞭による範囲攻撃か、たしかに俺の唯一負けてる点かもしれないな」

すると左斜め前から迫るそれをジャンプ、足元を鞭が通り過ぎ、また腕に着地。



「だが俺の熟練度、舐めんなよっ!!」

すると上体を回転する亡霊。

回転に伴い、地面に刺した腕も勢いよく跳ね上がる。

下斜めから来る左腕の上昇気流。



亡霊を起点とした暴風の中に傭兵は居た。

「これは避けらんねぇわ」



直撃し飛んだ上体に回転した右腕がぶつかり、そこから地面に辿り着くまでに数十回は巻き込まれた。





「あー、一撃必殺の技もあるんだね。てっきり技巧派だと思ってたわ」



大の字に倒れる傭兵が語った。

「俺はあんたらを知っている。仕事柄もあってチョイと裏を見た人間だからな」



無言で腕を組み、睨みつける亡霊。

「なんつーか、普通の人とちげーんだろ。被験児っていうのか」



「あってみたかったぜ、メロウさん」





かつてそう呼ばれた



亡霊の名前を呼んだ。

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