cold blood×hotshot
目覚めは冷水を顔に掛けられたとこから始まる。
「おはよう、ぼっちゃん。久々の白雪合はゆっくり寝れたかな?」
声の主はメシア。体の節々が痛む。
グレイは冷静に辺りを見回す。すると足に鎖をつけられ、大の字になっている自分を認識した。
俺が捕まってるという事、
「・・・!!!」
「慌てるなよ、スノウは生きている。お前の仲間も全員地下牢に打ち込んでいるさ」
「スノウを離せ!!!」
「わかってるだろ、"いま"はスノウを殺さない。それはお前が一番よくわかっているはずだぁ」
怒りで体が沸騰しそうだ。
すると熱湯をかけられる。
「っあ・・・!!!ぁあぁああああああ!!!!!!!!」
「グレイって声あげれるんだねぇ、これは長年連れ添っての新発見」
スノウを…スノウを離せ!!!!
「俺も鬼じゃない。グレイ、お前戻ってこないか?そしたらスノウは殺さない」
「殺したとしたら、殺そうとしたらおれがお前を殺す!!!!滅多斬りにしてやる!!!!!」
「おーこわ、親友が友情じゃなく恋人を取るなんて俺可愛そうだよねぇ」
猛獣の如く手足を動かすが、目の前のメシアには手が届かない。
「所詮は友情ってそんなもんだよねぇ。スノウが可愛いかって横から奪い去ったのによくそんな目をできるなぁ」
「君も俺も、同罪なんだよ」
ちがう、ちがうっ、おれは・・・・!!!!
……
…
「埃臭くていやんなっちゃうわね」とバンビ。
作戦前に確認した城の見取り図から言うに、ここは地下牢だろう。
戦った兵士たちは皆生きている。
五体満足とは言えないが、息がある。
一番酷い負傷をしているのは横で目が覚めないサンタナ。
頭部と脚にはえげつない擦り傷が出来ている。
(人間があんなミキサーされる様子みたら誰でもトラウマよ…)
それはそうと、心で呟き
(スノウちゃんとグレイくんは最初からここに連れてこられていないみたい…スノウちゃんはわかるけど、グレイくんがいない理由が私たちが生かされてる理由ってとこかしら)
昔の仲間だと言っていた事から察するに、グレイを引き戻そうとする為の人質ということか。
日が進むに連れて誰かに危害がいくだろう。彼女は生唾を飲んだ。
「見えてきた!あれが故郷か!」
バイクを駆る亡霊は後ろに乗るミスティに問いかける。
「そうよ、早くスノウを助けなきゃ」
「わーってる、任せろ!」
気がつけば近くなっていた2人。
より一層アクセルに力が篭る。
森を抜けて、城門を突破する。
バイクだと城までは近い。
「はー、いいねぇ。俺らもおなごと2ケツしたいもんですなぁ」
抜き去られた車の運転、シックスは過ぎ去っていった亡霊にボヤく。
「まぁ俺でもいいじゃねーっすか師匠!」
「やっぱ持つべきものは良い弟子だなぁ!」
シックスが嘘の男泣きをする仕草をしているのを尻目にエイトが呟いた。
「あれ?そう言えば電磁バリアってドーム状じゃないんすね、今ならヘリでも入れそう」
城門を潜り抜け、爆走、中央突破。
乱入者に対処すべく白布の兵士が飛び出る。
だが、亡霊達は
降りるのをやめない。
ブレーキはかけない。
アクセルは鳴り止まない。
中庭に達する頃には、バイクから飛び降り亡霊はワイヤーを伸ばし石垣を駆け上がる。
ミスティは飛び上がり、地面に着く前に蛇を形作る。
乗っている蛇が蠢き、城の裏に移動していった。
それはスローモーションでの出来事だった。
飛び立つ時にハンドルを思いっきり左へ切った為に横飛びで投げ飛ばされたそれは、
必要以上に兵士たちを巻き込んだ。
4階のへりに着地した亡霊は後ろを見て、
「おぉ、スペアってとこかな?」
ボウリングのポーズを取り、呑気に呟いた。
ミスティとは一度上下で攻める、そうするとどちらかは幹部級に当たるはずだし片方は囚われている仲間達を助けれると踏んだ。
上から監視している方が戦況が見やすい。
攻められると逃げ辛いが、攻められても御し切れると考えるボス級が待ち構えているのは容易。
(それよりもただでさえ危険な戦地に突入だ、救援が来やすい下層にミスティを活かせたほうが生き残りやすい)
なにより女の子に危険な目に合わせたくなかった。
(…でもミスティの力だと敵はいないだろう、そっちは任せたぜ)
4階の廊下、屋根裏から降りてきた兵士と向き合いながらやがて鉄がぶつかりあう音がした。
城の裏手、入り口なんて無いのは知っていたミスティは壁を壊し中に入っていた。
久々に戻った城を、早速壊すのは如何なものか。反省しながら蛇に乗る。
ミスティのアルマ「オフューカス」
六角形の破片を脳波で操作するものだ。
単体ではただの鉄製の宙に浮く板だが、それを組み上げて形作ったりする汎用性の高い能力だ。
六角形の鱗を隙間に撒き散らしながらソナーの様に動いてると、動きを察知した。
この城の地下なんて普段行くことが無かったから何があるかわからなかったが、それはずっとスノウの護衛として育ったから見る必要のなかったもの。
罪人を捉えておく地下牢だった。
そもそもスノウがいた時のこの国には罪人といえる罪人がいなかった。
長い歴史の中で使用用途が無くなってしまったものだが、そこに皆が囚われているようだ。
地下牢の前にはみんなのアルマも残っている。
電池は抜かれているようでただのガラクタとなっているが、エイトたちが来れば車にチャージャーが積んでいる為、みんなの充電には時間が掛かるがどうにかなる。
「おっ、お前はミスティじゃん!」
快活な大声。ミスティは大声でうるさいこの声が嫌いだった。
「…ハーム、無事だったんだね」
「おかげさまで!やっぱお前女だったんだなぁ!」
舌なめずり。情熱的な目線で睨みつける。
「他のみんなは?」
「他のみんなはいいじゃないか、ミスティおでと一緒にいかないか?」
肩を掴まれると、ハームは顔を近づける。
「…どういうつもり」
「おでは気付いたんだぁ、あまりマジェスタに好かれていないってことになぁ」
大袈裟に手を動かす、壮大な語り口はマジェスタを模倣しているようだ。
「マジェスタの下にいればいつか上に上がって、H.C.のトップになれると思ってたんだ」
「でも結果はどうだ?そうじゃなかった、好かれてないから変な任務しか割り当てられない」
「…あんた率いてたチーム何度も台無しにしてるじゃない」
「俺についてこれない奴は無能なんだよ、リーダーを引き立てるのが部下の役目だろ?」
だったらマジェスタさんの為に動きなさいよ、と出掛かった言葉を留める。
「…意味もなく色んな所に喧嘩を売ったりしたじゃない」
「組織をでかくする為には炎上マーケティングも必要だろ?どうせ取り込むチームは一度潰した方が従わせやすい」
「マジェスタさんはそんな事したいわけじゃない!!」
ピストルをミスティの左肩へ撃ち込む。
「甘いなぁ、あいつはそんなんじゃない。何れこの世界を牛耳ろうと考えててもおかしくない。おでの実力が恐ろしいからルーキーにも入れなかっただろう!!!」
宙に浮く鱗で弾かれた銃弾。
「落ちてるね、あんた」
ミスティの鱗が一直線に飛んでいく。
ハームは片手にあるナタを盾にする。
「まぁそういうな、スノウを守る聖焉騎士団の団長となったおではいまやサンタナ、グレイも従えるリーダーといえる」
「冗談、そんなわけ」
「満場一致なんだよ、お前もこっちに来い」
濁った眼でこっちを見る。
「マジェスタの首を取るぞ」




