そんな日。
はじめての仕事。
エムナと2人で地下区域の探索に向かう。
この街で昔機能していた地下鉄のりばを歩く。
「なんでそういえば俺についてきたの?」
思っていた疑問をぶつける。
「え、何いきなり!」
顔を赤らめるエムナ。
「いや、だって俺は元々塀の中に帰るつもりだったし、危ない事だらけなのにさ」
「なんか、放って置けないというか…亡霊はいつか私の前から消えてしまいそうな気がしたから…」
「そりゃ人はいつかは消えるさ」
戯けてみせるが、彼女は俯いたままそのまま歩く。
仄暗い道を更に歩く。
「ちょっと…!もうちょっとゆっくり…!」
「あっ…ごめん」
2人で一緒にいるんだ、側で歩かなきゃ。
すると騒つくような音が走る。
トンネルの天井部。音は4つ。
暗闇に慣れてきた目で既に捉えている、
奇襲だ、だが容易だと避ける。
エムナを庇うように前で構える。
「リハビリといこうじゃねぇか」
「お前ら何者だ?ここは漆黒の縄張り」
「《シャドウリーパーズ》の支配下」
「余所者は排除」
背中から生えた触手のようなアルマ。
1人4本で全員同じ型式のようだ。
「ヒャハハハハハァ!!!」
腕を構え、放出するように前に突き出す。
音と共に迫り来る4本の触手。
造作も無く片腕で防ぐ。
すると横から1人が空いた腕を絡める。
「捕まえたぁ、嬲り殺し確定っ!!」
残りの2人もエムナに襲いかかる。
「女だぁ、いただきぃ!!!」
秒にも満たない程の時間。
4人とも地に伏せていた。
「なんだ、しょうもねーじゃん」
「えっ、移動時間の方が長かったよね」
エムナもスーツをつけて初めての戦闘だったが想像以上の機動力を得たようだ。
本人が自分に目を丸くしている。
この街は治安が良くない。
武装したものたちが徒党を組み、それが縄張り争いや略奪を繰り返している。
軍事結社とはいうものの、会社というものが形を無くした政府によって生かされているのみだ。
徒党を組んで悪さをするものとは意識が違うだけで根本は変わらない。
しかし良くしたいという善意の元でマジェスタはヘレナコーポレーションを立ち上げたそうだ。
市民生活を脅かしたりするような存在からの守護。
今回は地下のルートを通って薬物の流出が起きていたので調査に向かった。
公安部に匿名で通報し、その場を離れる。
その後情報端末を見ると逮捕されたらしい。
地下区域から簡易的な生産所があったそうだ。
武力を使って物事を解消している時点でこの組織も天使の執行対象だ。
しかしそこはうまく逃げ切って、天使が見つけられない悪を裁くのが今の俺たちらしい。
全てが正しいとは思わないが、歪んでいるこの世界では信じてもいいと思える信念だった。
「大丈夫?…何考えてんの?」
不思議そうに顔を覗き込むエムナ。
社屋を後にし、甘いものを食べにいこうとせがまれたんだったっけ。
流れてついてきてしまった彼女たち。
この組織に居れば一先ずは安全だと言える。
サンタナやユティ、そしてエムナが傷つきませんように。
「ん?いや、なんでもない」
「へんなの」




