悪魔と死神
悪魔と死神。
共に畏怖されるもの。
根源の性質は似たものの、異なる魂を備えている存在が対峙している。
瞬時、亡霊が地面を蹴り跳躍。
我々の見たことの無いラッシュを叩き込む。
最大限の力。
油断もない彼はそのまま伸ばしたワイヤーで悪魔を絡めとり弧を描きながら頭上へ。
それも過ぎて、加速した状態で地面へ叩きつける。
しかしまだ終わらない。
悪魔の首を掴み、高く掲げていく。
打撃に得手のある天使の装甲。
一度相対しているからわかる。
ここで一気に気道を塞ぐ。
だがクロー部を両手で掴み、ゆっくりと広げた。
そのまま生卵が落ちるように着地。
亡霊の腕は伸びきったまま。
「しまった!」
加速して近付く悪魔。強烈な蹴りが胴体に刺さる。
くの字に折れ曲がり吹き飛ぶが、追撃の腕が迫っていた。
痛みで身体が軋む。ダメージ量としてはスハと戦った以上の威力。
怒りと悲しみで脳内麻薬が放出している亡霊は、意外にも頭は冷えていた。
そのまま腕を横薙ぎ、悪魔もそのままなぎ飛ばされる。
勢いよく振り下ろす腕。ハンマーのような一撃も手応えを感じた。
「す、すごい…」ユティは呟くと
「私たちとは違う次元で戦ってる。それほど亡霊たちは違う何かでぶつかってる気がする…」
「・・・」
じっと交戦している2人を見つめるサンタナ。
ぶつかり合う魂。
亡霊は言うまでもなく怒り、嘆き、弔う為に戦っている。生半可な力ではない。
その果てで悪魔を殺してもいいという気迫が取れる。強くて当たり前だ。
しかし、それに付いて行っている悪魔。
他の誰かを狙わないほど、亡霊をターゲットにしている。そしてその力は冷静でありながら苛烈である。
過去に天使を倒した。でもここまで執拗に狙ってくる事に違和感を感じる。
縁故であるのか、逡巡する過去を探してみても今は目の前で相対している事実そこまで気が回らない。
だが確実に、個人として敵に見ている。
それはとてつもないほどの恨みを持って。
「お前は何者だ」
問う。
しかし解は反撃と共にかき消える。
そしてこれは天使でありながら天使の力ではない。
チューンされているそれは1.25倍に性能があがっている。
それを扱える身体能力も。
「聞こえないならこいつでもくらいな!!」
腰にマウントされていた銀の筒、もといスタンライフル。
先の戦闘で奪い取ったものだった。
数発撃ち、悪魔に電流が走る。
その隙だけで十分だと伸ばしたワイヤーで包み込む。
両腕のワイヤーに巻きつけられ身動きが出来なくなったそれは、亡霊を睨みつけて足をバタつかせる。
「終わりだぜ」
力を込めてワイヤーが動く。
拘束したワイヤーが這いずり回り、蛇のように絞め落とす。
装甲を削る様な轟音。
拘束された状態での衝撃と摩擦熱は計り知れない。
ギャリギャリと響く音が小さくなる。
それが終わったとき、悪魔は力なくうな垂れた。
終わったと思いワイヤーを巻き取ると
数秒経って悪魔が生き返ったかのように動き出す。
「グッ、どういうことだ、抑えきれないっ!」
力任せにワイヤーを伸ばし、やがて引きちぎった。
1.2倍どころの出力ではない。
悪魔は跳ね上がるように接近。
眼前に迫ったそれの頭に銃を突きつけた。
「ハァ…ハァ…やってくれるじゃねぇか…お前だって限界のはずだろ…」
スタンライフルはゴム弾の弾頭に鉄を仕込んでいる。
鎮圧用とはいうが至近距離だとコンクリートも穿つ。
引き金を引くが先か、こいつがその覚悟を乗り越えて攻撃してくるか。
お互い、硬直。
何を考えているのか。
動いて死ぬか、
やめて生きるか、
死ぬ前に殺すか、
殺す前に死ぬか、
一瞬に満たない永遠が、支配する。
それを破ったのは風。
「そこで何やってんだ!!!!あぶねーから早く逃げろ!!!!」
若い男が駆け寄る。
「そろそろここら辺に機防隊が来るからよ、こっちだこっち!!!」
悪魔は男に視線を映す
「あー、やめとけやめとけ」
「今日の俺は運が良いんだ。あんたも機防隊だろうけど見逃してくれ!!!!」
そういうと男は亡霊の手を引き、走り出す。
サンタナ達も間の抜けた顔をしていたが、自体を察してこっちに向かって走ってきた。




