追跡者
暗いトンネルを照らす光はすぐに後ろへ消えていく。
叫び、泣き疲れた一行は疲れ果てていた。
『恐らくヒルコは、生きていない』
彼が過去にしてきた事は許される事ではない。
サンタナは、震えながらも強い口調で
「だ、誰かが復讐をするためにヒルコは残ったって事かよ…!」
エムナは、赤い目をしているがすんなりと納得している表情をしていた。
それを聞き、ユティは静かにえづく、
亡霊はその発言が、頭からすり抜けていった。
「…ご主人様は、塀の外を立て直そうと本気で考えてくれました…」
「あなた様方と出会わなければ、こうはなっていないでしょう。それを見過ごしてきた私共にも原因があります…」
タニタさんは、ヒルコの母が亡くなった後に気にかけていた貧民街のおじいさんだった。
ヒルコが育ち、暴走しても片時も離れず見てきた存在。
非戦闘員との事で、最上階の下の階層で避難していたそうた。
ヒルコが鬼の如き行いをしても、タニタさんといる時だけ人間であったみたいだ。
いきなり車に内蔵しているレーダーに後ろから赤い点が付いてきていた。
わずかながらこの車より早い速度でこちらに向かっている。
「俺たち以外の通行はないはずだ!」
「でもなんで!通行証は…」ユティがつぶやく
「誰かはわからない、けどこの速度と雰囲気。やばい奴ってのはわかるぜ」
亡霊は背後からの圧を感じていた。
そしてゲートが開かれる。
塀の中に突入。満を持す感じは1ミリもない。揺れ動く心情に体力が取られる。
そして後ろから来ていた影が車体に重なる。
「みんな、逃げろ!!!!!」
サンタナが叫びながらドアを蹴破る。
後ろを見るとエムナは呆気に取られている。
片腕でドアを壊し、もう片腕でエムナを引き摺り車外へ飛び出す。
上からの落下音と共に運転席はひしゃげる。
そして間も無く、車体は爆発四散。
ユティはサンタナが抱きかかえて外に出たみたいだ。
そして車体の上。黒い煙に包まれ、赤く揺らめいた存在。
最早それは炎獄の悪魔の様相をしていた。
タニタさんはどうあがいてもあの車体の下にいる。
悲しい事に空気で感じた。
さっきまでいた人達があっさりと死んでいく。
悪魔はこちらを向き、片手にぶら下げた球体をこちらに投げつけた。
床に落ちたそれは、行き遅れた仲間の頭部だった。
ヘルメットの中身はわからないが、
今、あいつがその奥で笑っている事だけはわかる。
頭に血がのぼっていく、激情が止められない。
この堕天使の羽を捥げるのであれば、弔いの炎で全て燃やしてしまおう。
「構えろよ、ここ最近で一番キレてるぜ。
手加減はしねぇから、恨むんだったら自分を恨めよ」
魂の死んだ男が悪鬼に吼える。
因縁の火花が弾けた。




