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ファンタズマキア  作者: 9489
1章「塀の外」
10/51

旅立ち

騒乱から6日。



街は復興に向けてせわしなく動いていた。



ユティの肩の傷も、痕は残るものの問題ないとの事だ。

亡霊も気力で意識を保っていたので、塔から出てすぐに気絶していた。



騒乱も、あの後にヒルコより全体に周知されて収束に向かった。

王はゆくゆくは逮捕される事となっていたが混乱を避けるべく復興が落ち着くまでは私的自治組織によって監視されることとなった。

また、被害者達へは彼の資金から賄われた。



曲がりなりにも裏社会の王を務めていた男だ、腕利きのメカニックによってアルマの修理もされた。





そんな急務を処理しながら時間を開けた王と塀の近くで会う事となった。



「やぁ、久しぶり」と言葉を交わす。

「君は塀の中に行きたいと言っていたね」

うなづく亡霊。

「明日塀の中に行こうと思ってね、もし良ければその時に一緒にいかないかい」



4人は電動車椅子にのるヒルコの話に耳を傾けた。



「行くのは明日の午前3時。塀の中に入るには限られた時間しか入れない」

「今回は申請して15分間だけゲートが開く、ゲートをくぐるとトンネルを車で移動する。運転は執事のタニタがやってくれる」



白髪の老人紳士が軽く会釈する。



「言っておくが塀の外に近い。塀の中とはいえ治安は悪いから注意しろよ」



会釈や相槌、各々が同意の意思を示す態度を取った。





「それじゃ、ひとまず解散!」









ーーーーーーーー



ーーーーー



ーー





AM2:30。

廃墟の塔から100m程度の場所。



亡霊はゲートの付近に腰を下ろしていた。

寝起きの眼に、夜のひんやりとした空気が肌を撫でる。



ユティとエムナは談笑をしながらこちらに近づく。ふたりとも微かに熱を帯び、石鹸の匂いを漂わせている。





サンタナは?と問うと、塀の中に向かうから色んなところに挨拶回りに向かっているとの事だった。





そもそも3人が塀の中まで来るのは想定外だった。



サンタナが「俺も付いていく!」と言った時、ユティは「サンタナが行くなら・・・」とすんなり受け入れた。



そして意外だったのはエムナが乗り気だった事。

「もっと広い世界が見たい」との事だ。





塀の中は、塀の外より発展している。

生活の質も違えば、技術も違う。

どれだけ早く適応できるか。そして塀の外寄りで治安が良くないということは争いに巻き込まれるかもしれない。



幾らみんなが強かろうと、技術力はそれを軽く越えてくる。

なるべくは身を潜めて、静かにしていたい。



そして久しぶりの中の世界。

記憶があまり思い出せないが、俺はここに戻らなくてはいけない事だけは覚えている。

妙な心臓の動悸がして落ち着かない。



AM2:50

サンタナがきたがヒルコがまだ来ていなかった。



「あいつがいねーと話にならねーなぁ」とサンタナが笑う。

タニタさんがいうには、忘れ物をしたから先に向かってくれと言われたとの事だ。



車に乗り込み、助手席に誰もいない高級車内は少し気まずい空気だった。



すると背後に破裂音がした。後ろに座っているユティとエムナのさらに後ろ。

強化ガラスのその向こう、塔の最上階で火が上がっていた。



呆気に取られる暇もなく、車は走り出した。

ゲートが開かれ、車体認識音が聞こえたが

それをかき消すほどみんなが叫んでいた。

「タニタさん、止めてくれ!!!!塔が爆発した!!!!ヒルコが!!!ヒルコがあぶない!!!!」



しかし前だけを見てアクセルを踏み込むタニタ。



バックミラーを見ると、涙を押し殺している執事がいた。



「ヒルコ様は最後に人間として立ち向かったのです、主人のわがままを聞く事が使用人の仕事ですから…」

水滴はゆっくりと零れ落ちる。





悲しみを乗せた車は、振り返る事なく進んで行った。











ーーーーーーーー



執事に嘘をついて我が城に戻った。

「やっぱり主人が城を開けるわけにはいかないからね。悪いが私は引きこもりなのだよ」



エレベーターから出てくる人影



・ ・

返り血を浴びている そ れ を良く知っている。

「天使が何の用かな?」



ところどころ赤く装飾された機防隊が佇んでいた。

ヒルコはさらに言葉を投げかける。

「君は亡霊にやられたはずだよ、少なくとも金も払った君が私を襲う理由はないはずだ」



でも・・・と付け足し、

「不可解な点はあったんだよ、街に仕掛けたいくつかの監視カメラが戦闘前に壊されていた」





つまり君は、前までの中身とは違う、そうだろう。







車椅子を加速させ、突撃する。

が、すでに横に移動していた血塗れの天使に車体ごと吹き飛ばされる。



車椅子から転げ落ちるヒルコ。

口から血を垂らしながら這いつくばってもなお言葉をやめない。



「正体が誰かは検討はつかない。しかし君は危険な瘴気を放っている。先日までの私と同類だ、これから先に行かせるわけにはいかない!!!!!」



眼前までじりじりと歩いてくる天使が、

ゆっくりと顔を近づけてくる。



「ツイ 数日デ 人ガ 変ワッタ ツモリカナ、

オレ ガ 断罪シテヤルヨ」



機械音声、

天使のヘルメットに内蔵された変声器。



こいつは誰だ。

何が目的だ。

ただ言える事がある。



こいつは亡霊を追い続けている。



でもそれも終わりだ。

もう彼らは塀の中へ向かっている。



塀の外で一緒に逝ってくれよ。

手に握られたスイッチを押す。



ざまぁみやがれ、あいつらとはもっと早く出会いたかったなぁ。





自分が人からされたこと、

自分が人にしてきたこと。



知らない誰かから、何もしていないのに笑われてきた。

胸を張れる生き方ではないほど、無関係な誰かから奪い取った。





流石に罪を重ねすぎたと自笑するが、

いい最期を迎えたと胸が晴れやかになった。





……

………

そして光は消えた。

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