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すくうもの 〜令和怪奇跡〜  作者: ももすけ
第1部 黎明編
23/133

黒と白の境界線①



 暗い空、暗い町並み。この復讐劇の舞台はなにも照らさない。月も誰も見ていない。だからこそ、戦う意志は黒く溶け込む。勇気と復讐の思いを心に焚べて、闘志は高く燃え上がる。



「サトル、冷静さを欠くなよ」



「バクだって冷静に考えてみろよ、鬼に復讐する時点で冷静じゃないだろ」



「フフ、その調子だ」



 鬼のいる霊園の看板が見えた。追い風に乗り高度を上昇させる。白い霊剣・鏡花旅楽きょうかたびらはあえかに光をたたえている。



「ヤツは透明になっていると思うか?」



「昨日のコトでアイツも疲れているハズだ。見かけたなら、問答無用で斬りかかれ」



「鬼だな」



「ワタシは口だぞ? 目には目、歯には歯。鬼には鬼ってな」



『ねむりの丘』と一文字ずつ書かれた看板を飛び超えると、綺麗に整った霊園が一面に広がった。通路の上空から一瞬スローの視界を発動させ一瞥すると、忌まわしき鬼はいた。供え物のミカンを喰っていた。油断している。



「鬼には鬼、ねえ。オレとアイツの違いは?」



「アイツは疲れている、キミはワタシに憑かれている。それだけさ」



「はっ、そりゃ違いない!」



 目を見開き、笑みをこぼした。サトルは脇目を振らず急降下、声を殺し、鬼に対し霊剣を大きく横薙ぎした。


 

 がしかし、寸前で気付かれ空を切った。



 攻撃を外したサトルは小さく舌打ちをして、墓石に囲まれた石畳の通路に足を擦りながら着地し、右足を軸に、左足を伸ばして回転しながら慣性を相殺した。



「キサマ……何故生きている? あの傷が一日も経たず治るとは」



 鬼は面食らった顔をした。



 クセで履いてきたローファーから焼け焦げたにおいが鼻につく。サトルは納得した。かわされた原因は、自身が風に重なってしまったからだ。復讐は順風満帆にはいかないようだ。



「いや、念を入れてよかったよ。まだ疲れがとれなかったからなあ」



 鬼はそう言うと、屈んで何もない石畳から何かを掴む動作をした。武器を持ったに違いないが、透明である以上リーチすらわからない。



「俺は持っているモノも透明にできる。これがなにを意味するか、よくわかっているだろ?」



 得意げに笑い、その場でなにかを振り回す仕草をした。こうなってしまえば大きく距離をとらなければならない。サトルは距離を取ろうとしたが、周囲の墓石は壊れていない。



「アイツ、ホントになにか持ってるのかな?」



「どうかな。カマかけてみるしかないな」



 鬼のただならぬ警戒心も相まって疑念が晴れない。距離は十歩分といったところだ。サトルは躊躇せず鬼への距離を詰めると、両腕を交差させるように振り抜いた。



 その行動を目の前で見せられた鬼は、当然のように後ろへ跳んだ。



「粉が舞っている……なんだ、目くらましか」



 目くらましではなく、透明の能力を見破るために、ガやチョウのりん粉を撒いた。『見えないが確かにあるもの』を炙りだすには最適だと思ったからだ。



「だがこの風の前では無意味ではないかね!?」



 得意げに持ったフリをしている。



「言ってろ」



 一瞬でも、たった一粒でも鬼の得物に触れればよかった。優雅に舞いながらも地に落ちたりん粉はなにも形作らず、風に運ばれた。



 鬼はなにも持っていない。そうとわかればやるコトはひとつ。懐に潜り、鬼をたたっ斬ればいい。サトルはさらに距離を詰めた。鬼はまたも苦しい顔をして後退する。



 堂々巡りにらちが明かない。霊剣の柄頭に指先から伸びるクモの糸束を接着させ、ヨーヨーのように振り回したが、墓石が密集する霊園では直線的にしか動かせない。素直な軌道はかわされてしまった。舌打ちまじりに巻尺を戻すように手元へ帰した。



「クク、さて、次はどうする?」



 なにも応えず、サトルは鬼に向かって一直線に走りだした。

 


「バカめ! 考えなしに突っ込むなどなあ!」



 鬼は満足げに笑い、墓石を殴った。



「墓を壊しやがって、バチ当たりなコトをする」



 サトルは避けず進む勢いを殺さない。剣の腹で受けるも、力負けして額に直撃した。しかし、ひるむことなく肉薄し、鬼を斬りつけたが、胸元をかすめただけだった。



「傷つき損だな、全く憐れだよ」



 鬼はそう言いながらも苦しそうな顔をして胸を抑えているが、見るからに傷らしきモノは見えない。



「昨日もそうだが、息の根止めてもないのに獲物の前でよく笑えるモンだ」



「弱い者イジメ! これが楽しくてしょうがなくてな」



「おまえも弱いからか?」



「なんだとッ!?」



「冗談だよ、冗談。そんなコト言う筋合いはない。なんせオレはおまえに負けたんだからな……」



「キサマ……。ハッ! なんだその煙は!? 傷が治っている!?」



「でも、それは過ぎたハナシ。次はオレが見下す番だ」



 鬼のサトルを見る目が変わってきた。その赤い双眸は明らかに恐怖を映している。



「そのチカラがわかれば、キサマなど容易く……」



「透明の能力……。その痛がりかつ臆病な能力せいかくで、どうせ昔はビクビク隠れてたんだろ」



「ぐぅ……ッ!」



「図星か? 余裕がなくなってるぞ」



「黙れえッ!」



 怒り心頭の鬼はなりふり構わずサトルに殴りかかった。バクのチカラを借りずとも躱せられる攻撃だった。腕を大振りして、確実に一撃で仕留めるつもりだろう。



 次々と繰り出される拳をあしらい、反撃の隙をうかがう。



「はやくくたばれ! 避けるだけの能無しニンゲンッ!」



 鬼は手を止め、落ちている墓石の破片を蹴り上げた。それはサトルの手の甲に刺さり、拍子に霊剣を落とした。



「どうした、必殺の剣を拾ってみろ」



 鬼は得意げに言いながら、剣を足元へ寄せた。拾う隙をついて、サトルに一撃を入れるつもりだ。



 鬼の挑発に対し、サトルはおもむろに両手をついて屈む。クラウチングスタートの構えだ。



「よーい、ドン」



 尋常じゃない速さでサトルは鬼の腹に膝蹴りを入れた。バクのチカラを借りて蹴ったのだ。いざとなれば雑居ビルよりも高く跳べる脚力だ、ただでは済まないだろう。鬼は予想通りうめいている。



「ゆ、ゆる、許さなーいッ!」



 攻撃はさらに激しさを増す。



「おい、サトル。これを見ろ!」



「なんだ!?」



 焦るバクの声がした。隙を見て振り向こうとすると、風に乗って紙が墓石に張り付いた。紙には『うしろにいる』、その端になには『メリー』と書いてあった。



「なんだってッ!?」



 理解してしまった。視線を鬼へ戻すと、いつの間にか現れたメリーさんが鬼に霊剣を振り下ろしていた。



「うがあああああッ!」



 鬼の叫びと同時に右腕が宙を舞ったが、それは地面に着かず、跡形もなく消え去った。それよりも、サトルにはメリーさんが気がかりだった。



「メリー! どうして!」



「サトル兄ちゃんだけでこんなコトしないでよ! わたしだって……友達を助けたいんだよ!」



「だからってオレの復讐の片棒を担ぐんじゃない。メリーさんには関係ないんだから!」



「そんな理由じゃ納得できないよ! せっかくわたしを覚えてくれる人ができたのに……失いたくないからッ!」



「キサマ、茶番は終わりだぞッ!」



 まさに鬼の形相といえる表情で、左手だけでメリーさんの頭部をがっしり掴み軽々と持ち上げた。霊剣はその場で音を立てて落ちた。



「空妖め、どこからどうやって来たかは知らんが、おかげで立つのも一苦労だ。だが片腕だけでもこいつの命など軽く潰せるぞッ!」



 五指を丸めると、メリーさんは悲鳴を挙げる。



「よせ、やめろッ!」



「やめてやるともッ! キサマの命と引き換えだッ!」



 鬼の足元がおぼつかない。バランスが取れないせいだろうか。しかしこの足を蹴るにしても距離が遠すぎる。なんにせよ、鬼が力を込める方が速い。



「冷静になれ、動きをよく見るんだ」



「わかってる。わかってるよ!」



「一応言っておく。メリーのな」



「……まさか」



 バクとのチカラの共有を解いた。



「サトル兄ちゃん……気づいてっ」



「妙なマネをするなよ、ニンゲン。すぐに殺してやる」



 鬼がじりじり近づく。この間に、どう助ければいいのかを考えたが、それはあっけなく叶った。メリーさんはせわしなくまばたきをしていた。まるでなにかを伝えたいように。その意味がすぐに理解できた。



「なんだッ!? 消えたぞッ!?」



 メリーさんは目の前の鬼に捕まってなどいない。既にとなりに瞬間移動している。



「モールス信号……。気づけてよかった」



「わたしは信じてたよ!」



「言いたいコトはいくつかあるが、これだけは言っておかなきゃな。おかげで助かったよ、ありがとう!」



「どういたしましてっ!」



 頭をなでると怯えた表情はどこへやら、すぐにいつもの笑顔に戻った。



「危ないから下がってな」



 メリーさんを遠ざけると、サトルはバクに呼びかけた。



「なあ、あの紙を放ったろ?」



「うん。あのアカリという娘が託したんだ」



「明璃が!? ……で、どんな反応してた?」



「初対面のハズだったが、臆せず突っ込まれたぞ、紙を」



「マジかよ、慣れるの早すぎだろ」



「無駄話はいいだろう。ワタシももうだいぶ疲れたからな」



「っと、そうだな」



 向き直ると、鬼はどうやらメリーさんを握っていたツメが、瞬間移動の際に掌に刺さったようで、その部分を指の腹で抑えていた。あまりにも滑稽な姿だった。



 サトルは再びチカラを借り、クモの糸で霊剣を引き寄せて構えた。



「……なぜだ。どうしてなんだ。今まで俺は生きてこられたのにッ!」



 せわしなく赤い目を震わせている。戦意が喪失したようだった。



「太陽からも、人間からも、火の雨からも、度重なる災害にも逃れたのに。ポッと出のちっぽけな人間と空妖に追い詰められねばならんのだ!? どうしてキサマに出会ったんだ、なぜ俺は独りなんだッ!」



「理不尽なのはお互い様だろ」



 鬼は残った片腕だけを頼りに向かってきたが、身体のバランスが取れないようで、自分がバラ撒いた墓石の破片につまづいて転倒した。



「独りでは生きられない人間如きに、この俺が敗北するなどッ! ありえんがアァァ!」



「待ってろよ、コウ。お前に巣食う、その怨魂を断つッ!」



 今度こそ、サトルは自らの手で望んだ結末が迎えられると思った。だが、しかし――



「待ってくれ、サトル!」



「……コウ、どうして」



 懐かしい声がした。反射的に振り向く。半透明の人影ながらも、しかし彼の真っ黒な瞳は、なにも透けさせないほど暗かった。



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