表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すくうもの 〜令和怪奇跡〜  作者: ももすけ
第1部 黎明編
12/133

人面犬を追え!③



 帰宅途中にゴミ拾いをしていただけなのに、いつの間にか空妖くうよう――人面犬を追いかけ、挙句の果てには決闘を申し込まれた。



 偶然の出会いは、しかし必定なのか。不可視の縁に操られ、怪奇なモノと相寄る宿命。禅院の呪いは根深いものとサトルは感じた。



「行くぞ……」



 宣言通りに正面切って人面犬がサトルを目がけて突進してきた。これに蹴り上げて反撃を試みるが、人面犬は予測していたように躱して、脛に体当たりをかました。



 バランスを崩したサトルは思うがままに背中から倒れた。



「喉笛噛みちぎって、その息の根を止めてやるッ!」



「ああやってみろよッ!」



 私憤のこもったその牙に、サトルは先刻拾った空きカンをバクから取り出して、容赦なく口に突っ込んだ。ギャアと、人面犬の取り巻きのカラス達が驚いたようだった。



「白昼堂々、おっかないコトを喚けるモンだ」



「まったく、ワタシにいきなり手を突っ込むとは。口内炎が悪化するじゃないか」



「口内炎ッ!?」



「冗談だよ」



 軽口を叩くふたりだったが、余裕というワケではない。耳障りなトゲトゲしい音が眼前でなった。



 空き缶を持つ指の感触も沈む。まさかと思い持ち手を見ると、人面犬が空きカンを噛みちぎり、歪な風穴が空いた。



「なんてアゴの力だ。あのカンがオレの手だったら……」



 慌てて手を離した。



「青ざめたか? しかし、この牙で貫けばもっと青白く冷たくなるんじゃろうがのう」



 人面犬は空き缶を吐き出して、ニヤリと笑った。



「さあ、どうする! ワシの恐ろしさは十分伝わったはずじゃ、まだやる気はあるか!」



「これは大ケガ必至だぞ。霊剣を使うってのはどうだ、サトル」



 バクの提案にはふたつ返事で頷けなかった。サトルには人面犬の言動に違和感があった。



「いや、斬らない。かと言って退くつもりもない」



「ほう」



「なんじゃと? 舐め腐りよってキサマ、本気を出すつもりはあるのか!」



「おまえだって本気じゃねえだろ!」



 サトルの一喝に人面犬はたじろいだ。



「マジで殺る気なら警告なんてする意味がないし、殺ったとしてもなんであの路地でやらなかったって思う。なんせゴミに記載されてた賞味期限が2か月前なんだからな。絶好の殺害ポイントだったのに、それでも及ばなかったのは理由があるはずだ」



「キサマには関係ないわ!」



「わからないか? 出会った時点で、もう無関係じゃいられないんだよッ!」



「うるさいッ、なにをわかったふうに!」



「それが縁ってモンだろうが!」



 サトルは人面犬に体当たりをぶちかまされ、また倒れた。



「また排斥されるくらいなら、言いつけを破っても構わんじゃろう! 覚悟せい!」



 空きカンのように、喉に風穴を空けられ無残な姿には――ならなかった。



「むぐッ!?」



 幼いころ、この空地で友達とキャッチボールをしていたサトルにはわかっていた。暴投で紛失してもいいように、茂みにボールを用意しておく奇妙な暗黙のルールがある事を。



「その言いつけってのが、逃げた理由だな」



 人面犬は徐々にアゴに力を加えているのが、持っているボールを通じて伝わる。じきにボールが潰れるのはわかっていても、サトルは引かなかった。



「軟式のボールくらい余裕だろ。さあ、答えてもらうぜ」



 やがて観念したのか、人面犬は変形しそうなボールを吐き捨てて俯いた。



「ワシにはな、ワシにはなあ……」



「おう、洗いざらい言ってみろ」



「この町に、好きなオンナがいるんじゃあッ!」



「……はぁ?」



 あまりにも予想外の返答だった。当の人面犬は梅干しを食べたような顔をして悔しがっている。どうやら本当の気持ちらしい。



「あーその、なんだ、というと……えーっと、メス犬?」



「メス犬じゃと!? 確かにそうだが言葉を選ぶんだな、この野蛮で粗暴なヤツめ!」



「面倒だな!」



「ああもう、こんなハズでは……。見つかったうえに言ってしまった。今わの際じゃ……。おまえを殺してワシも死ぬッ!」



「結局そうなんのかよ!」



「なるほど、これが『恥ずか死』……勉強になる」



「バクはこんなのを学ばなくていいからな! マジで!」



 屈んだ身体を狙ってわき目もふらず、人面犬は捨て身の突進をブチかました。これまではやはり手加減していたようで、威力はまるで違った。



「うおあああああーッ!」



 万感の咆哮と共に向かってくる牙。力のこもった敵愾心からはむせかえる程の死の予感が、尻もちをついた身体に突き刺さる。



 本気だ。この人面犬は本気で殺そうとしている。だからこそ、今こそ勇気を振り絞る時なのだ――!



「人面犬、おまえも覚悟しとけよ。悶え苦しむ準備を。……やりたかないが、やるしかないッ!」



 バクのチカラを借りて、サトルは目を見開いた。すると、人面犬の動きはスローモーションになった。予測は簡単につく。



「射程圏内だぜ……くらえッ!」



 一定まで引きつけると、覚悟を決めた。目は背けない。今、ここで撃つ。口を十分に湿らせ、そして――



「ペッッッ!」



 人面犬を目がけ、文字通り天に向かって唾を吐いた。山なりに飛び弧を描いたソレは、物の見事に人面犬の鼻頭に直撃した。



「んがあああぁぁぁッ!?」



 飛びつく直前に走るのをやめ、横になり短い前足で鼻を押さえている。



「その反応、曲がりなりにもイヌなだけあるな。どうだ、びっくりしただろ。目は醒めたか? ちなみにこれはカメムシの臭いだぜ」



 おかげで口の中も思いっきり青臭くなった。恐らく、口臭防止のうがい薬を一本丸々飲み干そうが、これは消えないだろう。しかし後悔はなかった。



「くさい、くさい……。どうなのだ人として!」



 涙目でもがいている。



「聞いて心変わりしたよ。オレはおまえを追い出すつもりはない。悪いヤツじゃないみたいだしな。だから化けモン同士、互いに協力しよう」



「協力……裏切りはしないだろうな」



「もちろんだ。約束も町も守らなきゃな、人としてよ」



「都合のいい奴じゃ。よくクサいセリフを言える……」



「口ん中もクサいけどな。あ、バク、もうチカラの共有はいいや」



「フフ、いい戦いっぷりだったぞ」



 バクに声をかけると、左目の熱は一瞬にして冷め、高揚していた闘志も鎮火した。



 立ち上がってふと公園の入り口に振り向くと、小さな子供がふたりいた。兄妹だろうか。遠目ながらも訝しんでいる様子が窺える。



「じゃあ、またな。町が起き始めた。バレないようにしろよ」



「キサマもな。……感謝する」



 手を振って別れ、入口に向かった。



 この休日はかなり疲れた、とサトルは思った。宿命を背負い生きるのは酷だが、ああやって礼を言われるのも悪くない。そんなコトも思いながら、子供達の前を横切ると――



「くッッッさ」



 純粋で無慈悲な一声が飛び出した。



「ホントだー。おにいちゃん、ここで遊ぶのやめよ」



「うん」



 短いやりとりをした後、すぐに去ってしまった。ふたりの去り際の汚物を見るような視線が、いちいち胸に突き刺さった。



「ハハ……、サイコーの休日だ」



「そうため息をつくな、サトル。キミは立派だったぞ。……うわくッさ」



「おめえの能力だろうがよ! やっぱりこんな能力嫌だぁー!」



 やはり、待ち受ける宿命は過酷なようだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ