表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/30

八高線①

本編の内容は実際の取材に基づいたものです。

「さて、やってまいりました八高線高架下だが今回は複数個所回る」


 ホテルに荷物を置いてから千秋さんは大きく伸びをする。

 今いるのは多摩川河川敷、確かに八高線の真下だが事故現場とは違うようだ。


「ここってなにかあるんですか?」


「事故との直接的な縁は薄いな。ただあそこ、高架下にある河川見えるか?」


「あー、なんていうんですか? 水の流れをせき止めているというか調整していると言いますか」


「うん、あの真下は結構深くなっててな。釣り人とか地元の子供なんかが泳いでる。近くに市営のプールがあったんだが時代かな。閉園したらしい」


「へぇ、それで?」


「あの高架下、八高線脱線事故の霊が足を引っ張り水底に沈めるなんて噂があるそうだ。実際は水流の問題らしいがね」


「詳しいですね」


「知り合いの婆さんに聞いた。なんでも私らの親世代……今だと50か60くらいか? そのくらいの人らは市営プールなんかなくてそこで泳いでたらしい。ただ水の事故ってのは多いから教師なんかが脅しの意味でそんな事を言ってたそうだ」


「あー、よくありますね」


 実際私の通っていた小学校も似たようなことを言っていた。

 交通量が少ない広い道路、事故多発地域だったが先生が幽霊関係で脅しを入れていた。

 実際それで寄り付かなくなる子もいたが、肝試しに行く子もいたので一長一短だ。

 ちなみに見えるようになってから足を運んだことがあるが、地縛霊のようなものはいなかった。


「あとは多摩川というのも問題なんだよな」


「と、言いますと?」


「昔から川というのは不浄を流すのに使われてきた。流し雛なんかが有名だが、何かあったら川に流してというのはよくある話だったんだ」


「その、なんですか? それ」


「雛人形、あるいは人型を模したなにかを川に流すんだ。不幸とかそういうのを乗せてな。今じゃほとんど残ってない風習だし、郊外とはいえ東京都内だ。不法投棄扱いされてお縄になる可能性もある。ちなみに不幸や呪いを流すわけだからその人形拾ったら悲惨だぞ」


 そんな風習があるのか……そういえば歴史学の教授がそんな話をしていたような気がする。

 オカルト系の話というのは歴史上よくあることだ。

 だから小話として語っていたのだろうけれど、私は実際に見えるからあまり興味はなく聞き流していた。


「それで、実際どうなんです? 私は何も見えないですけど」


「んー、いるっちゃいるんだが……普通の霊ばかりだな。鎮魂と浄霊は試みるが、正直そこまで大掛かりな事をする必要はなさそうだ」


 煙草を咥えた千秋さんだったが、近くで野球をしていた子供達と監督に睨まれてそそくさとそれをしまった。

 実に小心者である。


「噂があるっていうのは厄介でな、実際にその噂に引き寄せられる霊ってのは少なくない。少なくないが、人の情念に引っ張られるくらいの奴は大したことが無い。つまりは多いだけで弱いのが基本だ」


「基本という事は例外もあると?」


「あー、わかりやすく言うなら餌場だな。徘徊できるクッソ強い霊がいたとする。幸い私は見たことないが、この業界でも歴戦の霊媒師が死ぬ寸前まで追い詰められてどうにか祓ったってやつだ。そういうのにとっては餌場だな」


「餌場……」


「あとは偶然強い情念を持っている奴がいて、そいつが片っ端から食って強力な霊になってしまうなんてこともある。こっちは見たことあるが、ありゃ無理だ。私程度じゃ何もできない」


 千秋さんがそこまで言うというのなら相当だろう。

 オカルトグッズと聞けば何処へでも行く人だ。

 霊現象と聞けば割と簡単に飛びつくこの人がそこまで言うのであれば相当だろう。


「それってどれくらいやばいんですか?」


「普通の霊をペーパーナイフとして、強い地縛霊がナイフだとする。普通の霊はまず傷つけてこないけど、地縛霊ってのはそれなりの覚悟と準備がないと痛い目を見る」


「でも例外もありますよね」


「以前の肝試しや幽霊トラックの話か? あれは鞘に収まっているから安全なんだよ。問題は抜身の奴ら、強い恨みの念を持っていた場合誰彼構わずとなったらな。ちなみに特定の相手、例えば女だけを狙うような奴なんかは危険度がもう一段階上がると思え。十徳ナイフからコンバットナイフに昇進だ」


「それは昇進なんですか?」


「まぁそう思っていろという心構えの話だな。で、私が見たのはマシンガンみたいな奴だった。比喩表現だが、並の霊ってのは人を直接傷つける事はできない。そんなのは妖怪の領分だ。だがありゃその界隈に片足突っ込んでた。うかつに近づけば大怪我じゃすまないような相手だったよ」


「それ、どうしたんですか?」


「さっき言った方法を使った。人型に入れて、川に流した。運悪く拾った奴がいなければ海に流れついて浄化されただろうな。まぁ私の婆様が弟子たちを集めてどうにかしたレベルだ。個人の手には余るね」


「じゃあここの霊は?」


「さっきも言った通り普通の霊。簡単な鎮魂と浄霊でほとんど成仏するだろうな。強いて言うならそれでも残る奴は残る。そういうのも含めて夜に出直すとして、とりあえず近場の拝島橋を先に片付けよう。こっから歩いて10分くらいだ」


「はぁ……鞠をつく女の子でしたっけ。調べた感じ随分と古い話みたいですが」


 インターネットというのは便利なもので、調べれば大抵の情報は出てくる。

 とはいえ遡ってとなるとデータベース化されていないような古い情報までは出てこないという難点がある。

 いつ、どこから、というのを調べるのは浄霊や除霊の基本だがこれに関しては出自すらわからなかった。

 突発的に生まれたものか、あるいはそれ以上に古いかというものだ。


「先に行っておくけど害の無い霊だから放置しても問題ないんだよ。ただそこにいるだけ、そういう類だから何かする必要はないが鎮魂はする。それだけの仕事だ。元々この仕事していた婆さんも近場だからという理由でやってたらしいしな」


「なるほど」


「その後はここに戻って車で待機するか、八王子に行くかだがどっちがいい」


 時刻は13時、ご飯を食べてからここに来たわけだが微妙な時間と言えるだろう。

 鎮魂にかかる時間は1時間と計算して2時、そこから八王子に行くとなれば往復で1時間、ホテルに戻るにも30分はかかる。

 明日も鎮魂にとなればあまり遅くなるのは困るが、かといって時間を無駄にするのもなぁ……。


「ちなみに八王子城址は観光できるから行くなら夜だ。あっちのトンネルや公衆電話も人通りがあるから夜。青梅まで行くのは時間がかかりすぎるから明日の昼前、奥多摩は最終日と決めているからな」


「……この辺り、観光スポット無いですかね」


「クジラの骨の展示やってるぞ。ほら、あそこの看板にも描かれているけどこの河川敷から見つかったらしい。あとはそうだな……立川なんかはアニメとラーメンの聖地だそうだ。聖蹟桜ヶ丘はちょっと面倒だがな」


「……漫画喫茶で時間つぶしますか」


「それ駅前まで行かないと無い」


「……逆にこの辺り、何があるんですか?」


「見たところカラオケがあるくらいだな。歌うか?」


「遠慮しておきます……喫茶店とか無いんですか?」


「無いなぁ……駅近くまで行かないと無いわ。ちなみに駅周辺になれば温泉を沸かした銭湯があるらしい。あとはポルタリングの体験とか色々」


「ここ、本当に東京なんですかね……」


「23区外で、駅から徒歩30分、住宅街ともなればそう大したものはないさ。あぁ、でも一個でかい神社があるね。そこにお参りでもしていこうか。拝島橋からそう遠くない所だ」


「じゃあそれで……」


 なんか、仕事前からずっしり疲れた気がする……。

 東京って場所によってはこんなところあるんだなぁ……。

今回の舞台は東京都昭島市、実際に河川敷からクジラの骨が発掘され「昭島鯨」として有名です。

毎年クジラ祭というのが行われ、現地のボーイスカウトなどが巨大なクジラの風船を引っ張るお祭りがあります。

立川は日本一ラーメンが高い街として一部のマニアの間で有名で、アニメファンにとっては聖☆おにいさんやとあるシリーズ、ガッチャマンクラウズの聖地としても有名ですね。

ゲームだと東京ザナドゥの舞台でもあります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ