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人を呪わば穴いくつ?  作者: 蒼井茜


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祟り神

「あー……疲れた……」


「ですねぇ……」


 湯船につかる千秋さんの隣でシャワーを浴びる。

 表向きは人数が多いからグループ分けして風呂に、そして私の介助のために千秋さんをという事で一緒にお風呂に入っている。

 今までも旅館に泊まったり、温泉行ったりしたから普通に裸の付き合いには慣れてる。

 ベッドに裸でって時はビビったけどさ……。


「で、どうです?」


「封印とか弱まってる感じは無かったし、漏れた様子も無かった。問題があるとすればそうだね……やたら入って来る奴が多かったこと。それと身体を欲しがってる奴が多かったことかな」


「それって……」


「お察しの通りだと思うぞ」


 この業界にはアンタッチャブルとされている霊が何体かいる。

 本来幽霊というのは一定の強さを超えると魔物とか妖怪なんて呼ばれ方をするようになるけれど、それを超えた上位の存在。

 いわゆる祟り神にまで至った存在だ。

 普通そこに至るまでの時間は百年や二百年じゃ足りないが、それほどの時間悪霊として稼働するのには相当な怨念が必要となる。

 だが時間と共に記憶が薄れていくのは人も霊も同じであり、どれだけ強い怨念を抱いていようともそれほどの長期間恨みつらみを抱き続けるのは難しい。

 中にはそれを可能とするような、それこそ一族郎党皆殺しにされたレベルになってくれば自力でそのくらいはできるが基本は無理だ。

 けれどその無理を押し通す方法があり、それが同族喰い。

 怨念を持った幽霊を食べる事で自らの怨念の底上げに使う。

 もちろんデメリットもあるが、怨念の矛先があやふやになるというだけで人間にとって危険なのは変わらない。

 むしろ範囲が広がる分早期対応がもとめられるので、ちょっと噂になったらすぐに除霊される運命である。


 だけど、それを潜り抜けた奴らがいて、祟り神にまで上り詰めた。


「どれですかねぇ」


「んー、今回の感じ本体は出てきていないだろうな。いるとしたら配下、最悪想定しても分霊ってところだろ」


 分霊とは魂の一部をわけた状態の事。

 神社などでもよくあるが、本社と分社の分け御霊というやつだ。


「今の装備で太刀打ちは?」


「無理じゃね? 今回のはご新規さんだけど、それでも祟り神ってことに変わりはないんだから」


「めぼしついているんですか?」


「こんだけ派手に暴れて姿も気配も見せない。そのくせ直接的な害は少なく、物理に干渉できる。それも現代の機械に対応しているとなるとしぼれるし、最近そうなったのは一体だけだからなぁ」


「あー、10年前に謎の死を遂げた一家の?」


「そうそう、調べたらアレ裏稼業の人間でさ。口封じのために家族丸ごとって内容だったわけよ。自分の所属していた組織に裏切られて、何も知らない家族まで巻き込まれたとなればそりゃねえ」


 あー、そんな経緯があったのか。

 現代でもそういうのあるんだなぁ。

 厄介な事に裏稼業って言うのは私達含めて色々存在する。

 例えば有名どころじゃ暗殺者。

 そんなん漫画とかの世界だけだろと思われるかもしれないけど、実は結構いる。

 殺し屋なんてネットで募集かければほいほい出てくるし、ダークウェブならプロも平然と闊歩している。

 スパイとかなんかは言うまでもなく対策法案がある国も珍しくない。

 そして私達霊能者だが、呪いを専門とする者も存在する。

 礼の犬神付きの千寿氏家なんかもその分類になるけど……。


「どの系統ですか?」


「同業者」


「最悪のパターンですね」


「だなー。それも海外のマフィア関係だったから日本から手出ししにくい、結果として下部組織の大半は変死したけど大本はぴんぴんしてるよ。だからこその今なんだろうけどさ」


「今からこの家引き払って逃げたら何とかなりません?」


「ならんなぁ。ターゲットにされてるよ。この部屋そのものは餌場として、あんたも私も殺しの対象として。飛んできたのが服でよかったと思うべきだね。皿とかだったら怪我してたし、刃物だったら洒落にならなかった」


 たしかに、衣類が飛んでくる程度なら大した害は無いだろう。

 鬱陶しい程度で済んだのは行幸というべきか。


「ま、そこまでの力が無かったと考えるべきだけど油断はしない事だな」


「と、いいますと?」


「台所の荒れ方を見たが皿や刃物はあまり飛んでなかった。もとより金属は妖怪を避ける効果があると言われているからね。木っ端な霊じゃ無理だったんだろ」


「なるほど……ところでその祟り神の通り名ってなんでしたっけ?」


「レミングス。まるで自殺するかのような現場を作り出す集団さ。名を与えるのはご法度とはいえ、集団だからセーフとは裏をかいてるよね」


 相手したくないなぁ……。

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