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人を呪わば穴いくつ?  作者: 蒼井茜


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24/30

フラグ

「せんぱい、なんか顔色悪くないですか?」


 大学の学食で適当にメニューを見ていたところ、以前学校の怪談にまつわる鏡の事件で急接近してきた冬香に話しかけられた。

 悪いやつじゃないけど、距離感がバグっているのでソーシャルディスタンスを好む私とはそりが合わないが、当人は知ったこっちゃない様だ。


「……最近引っ越した先のマンション、エレベーターに異常があるから階段で昇降しているから」


 引っ越して約ひと月、エレベーターがいかれた。

 私のせいじゃないし、千秋さんが見ても普通の機械トラブルという事しかわからなかった。

 むしろなんで機械関係に強いのか謎だと問いかけたところ、車をパーツから組み上げられる程度にはその辺熟知しているとの回答があった。

 むしろその理由を問うていたのだが……まぁいいや。


「へー、何階です?」


「3階、普通の人ならちょっと辛いくらいかもしれないけど、私はこれだから」


 杖を指さす。

 今でも定期的にリハビリに通い、また週に二度訪問リハビリを受けている身としては結構つらいのだ。

 それこそ精神が摩耗する程度には。

 たった数日とはいえ、普段以上の運動となるとそりゃもうきつい。

 実のところ学校に来るまででも十分な運動になっていて体育系の授業は見学でもいいと許可が下りている程度には虚弱な私、走れないことはないが余力がなくなり数日は身体の節々が痛むような貧弱体質と後天的な障害から学校も便宜を図ってくれる程度にはか弱い生き物なのだ。

 だがここ数日、その余力を使い果たしてなお家事は怠らないので睡眠だけでは休息が足りていないと言える。

 そろそろ週末だが、休日が楽しみで仕方ないのだ。


「んー、なら私が家事とか手伝いましょうか? 買い物するにしても荷物とかあると大変だと思いますし」


「ぶっちゃけ助かるけど、バイト代とか出せないよ?」


「そこはほら、女子会ってやつで免除しますよ」


「女子会も何も二人きりで?」


「あの、なんでしたっけ、お師匠さん? あの人も一緒にいればいいんじゃないですか?」


「女子じゃないよあの人。ついでに私も女子という年齢じゃないし」


 二十代ならまだ女子と言えるかもしれないけれど、私にとっては十代までが女子だ。

 ……そういう意味だと冬香は一応女子のグループに入るんだな、ギリギリだけど。

 お酒が飲めない相手となると千秋さんもやりにくいだろうし、絶対に来ないだろう。


「じゃあ先輩の友達も……あ、ごめんなさい」


「おいなんで謝った? 喧嘩売ってるなら買うぞ」


 友達がいないのは事実だが、それを謝罪という形で突きつけるな。

 本気で凹むぞ?

 凹んで大人げなく泣きわめくぞ?


「私の友達でもいいんですけど、先輩人見知りしますよね」


「いや別に?」


 千秋さんという最上級の変人と付き合いがあり、その先々でまともじゃない人たちとお仕事をしているのだ。

 今更普通の人が何人出てこようと対して気にすることはない。

 むしろ相手に気遣われるのが面倒だったが、今じゃそれすらも受け入れるようになった。


「誰か呼んでいいなら手伝い何人か呼んで、先輩のお家で週末までお泊りパーティしましょうよ! それで先輩は身体を休められる。私達は楽しくお酒を飲める! ウィンウィンです!」


「……おい、未成年」


「あ、私どのみちお酒は弱くて飲めないのでパスです。他のみんなは成人しています。エロゲのパッケージに書かれてるように」


「……それは信用ならないなぁ」


「なんにせよ、先輩は少し休んだ方がいいですからね。人の手配は任せておいてください!」


「そう? ならお願いするけど……うち今和室入れない状態なんだ。それでよければ……あ、あとおばけ出るからその辺平気な子に限るとだけ言っておく」


「むしろ楽しみですね!」


 ……こいつ、学校の肝試しであれだけ本物に怯えていたのを忘れたのか?

 まぁいいや、そういう話なら厚意に甘えるとしよう。

 この調子だと終末は本格的に寝て過ごすような状態だっただろうしね。

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