日常?
一通りの片づけが終わり、千秋さんとラーメンとお酒で乾杯してから帰宅。
そしてそのままベッドにもぐりこんだ。
その瞬間だった。
ガコンッと大きな音が和室から聞こえてきた。
無視した。
そして滅茶苦茶いい天気の朝を迎えて、枕元に置いてあったぬいぐるみの位置が変わっていたのでベッドに投げて戻しておいた。
まず日課として歯を磨く。
水道の蛇口をひねり顔を洗ってからにしようかと思ったら髪の毛が出てきた。
水力を最大にする。
3分ほどで出なくなったが気持ち悪かったので更に少し時間をおいてから顔を洗い、歯を磨いた。
すっきりしたので朝御飯を作る。
以前は冷凍食品がメインだったが、最近はラーメンの食べ過ぎでお腹のお肉が危ないので自炊をしている。
キッチンの蛇口をいじるとまた髪の毛が出てきた。
「禿げろ」
一言呟いてからしばらく水を流しっぱなしにする。
私達霊能力者の言葉というのは結構危険で、さらりと言った悪口がそのまま効力を持ってしまう事がある。
いわゆる言霊というものだが、千秋さんクラスになれば目の前のふさふさ男性を秒で禿げさせることもできるのだ。
以前それでナンパ男を撃退していた。
私はまだまだ不得手なのもあり時間がかかるが、できないことはない。
幽霊に聞くほどじゃないが、物理的干渉をしてくるなら問題なく効果が出るだろう。
とりあえず朝食は卵焼きと、お味噌汁、そしてご飯と漬物だ。
お母さん特性のぬか床を私も貰ったので美味しいご飯が食べられている。
これでお酒も飲めれば最高なのだが……そう思いながら身支度を済ませて、大学に向かう。
鍵を閉めてティンプルキーを引っこ抜いた瞬間ガチャリと音がした。
閉めたはずの鍵が開いていた。
イラっとしたのでもう一度閉めなおしてから呟く。
「次はお前の尻に鍵ぶち込むぞ」
今度はすんなり閉まったままになった。
大学での生活はいたって普通な物。
講義を受け、ご飯を食べて、そしてたまに憑りつかれてる友人を助けて、また抗議を受けて帰る。
帰り際には千秋さんの事務所に顔を出して報告をするのだ。
「で、どうよ。一晩住んでみた感じ」
「鬱陶しいだけで怖いとかは無いですね。本当に腹が立つというか、鬱陶しいというか、邪魔というか……ここぞという時に嫌がらせしてきます」
「まぁそのくらいしか今はできる事がないんだろうな。で、具体的に何された?」
「蛇口からは髪の毛が出てきますし、カギ閉めた直後に開けられたり、ぬいぐるみの位置が変わってたり……あ、あと昨晩大きな物音がしました。階下の人から苦情が来ないか心配です」
「まぁそんなもんか。けど和室の外でもそれだけ問題が起こるってことは外からも呼び込んでるのは間違いなさそうだな。最悪の場合定期的に除霊する方がいいかもしれん」
うわ面倒くさい……。
私も除霊はできるのだが、正直なところ精度がいまいちなのだ。
千秋さんなら確実に対処できる相手でも、私の場合は鼻で笑われることもある。
「そんな露骨に嫌がるな。今の中途半端な状態で済んでいるのはそれ相応の魔除けがあってこそだからな? 本当に面倒くさいって言うなら和室以外の全部屋に呪物を置くとかしか無いが……生憎貸し出しても問題ないようなのは出払っててな」
「あんなの借りる人いるんですか?」
「意外と多いぞ。ほれ、あそこにあった鏡も貸し出してる」
指差した先にはぽっかりと空いた空間。
先日まではドッペルゲンガーを作り出す鏡が置かれていたが、今はそれが無くなり足跡と鏡の置いてあった部分だけ埃が積もっていない。
……呪物を適当に扱いすぎていないか?
「でも寝室そのもので起こったのはぬいぐるみの移動だけだろ? 大したことなくてよかったじゃないか」
「大したことないって……あの鉈本当に効果あるんですか? 少なくとも実害は出てませんが、一般人からしたら十分な恐怖ですよ?」
「だとしても、これ以上の事は何もできんよ。というかそのぬいぐるみが呪われたらくれるか?」
「いくら出します?」
私の言葉に千秋さんが財布を開く。
まぁさすがに冗談だがな。
なにせそのぬいぐるみは私がお婆ちゃんから貰った物……によく似たもので、本物は私が事故にあった時妙な事が起こりずたずたに引き裂けてしまったらしい。
曰く、身代わりになってくれたとのことだが、その残骸は縫い合わせて今も実家に置いてある。
枕元にあるのは私が欲しいなぁと思ってゲームセンターで2時間粘った末に見かねた千秋さんがとってくれたものだ。
お金を取るつもりは無い。
まぁ……またラーメンを御馳走してもらおうかな。
……ダイエット、頑張ろう。




