新居
荷物の運び込みが終わり、そして開封していく。
千秋さんは細身なのだが、意外と力持ちなので箪笥やベッドを一人で運び込んでいる。
もちろんからくりというか、裏技みたいな事しているんだろうけどさ。
それにしてもなかなか壮観だ。
「買い切り10万か……」
安いと思うのが普通だが、事情を知っているともっと安くてもいいのではないかと思ってしまうほどだ。
むしろ逆に金を貰いたいくらいである。
別に生活に困っているわけじゃないけど、気分的にはそうなる。
「どした? パンツでも無くしたか?」
「いえ、むしろ家賃というか迷惑料を毎月振り込んで欲しい位だなーとおもいまして」
「もらえるぞ? 名目は管理費、月々3万円で4カ月住めばお釣りがくる。まぁこれでも色々中抜きされてるが、ほとんど害の無い部屋に住むだけでそれなんだ。お得だろ?」
「あ、貰えるんですね。ちなみに千秋さんはいくらもらうんですか?」
「残念ながら0だ。私はこの部屋を紹介された立場だから」
「つまり横流し?」
「たまにラーメン奢ってくれたらいいさ。私の場合は3万じゃ割に合わないってのもあるが、それ以上に管理なんて面倒な真似したくない」
「できればほとんどじゃなくて全く害の無い部屋がいいんですけどね……」
「そりゃ無理だ。普通の部屋だろうと幽霊は通るし、虫も湧いてくる。不便な事も、その身体じゃ多いだろ?」
「まぁ……そうですけど」
実際夜中に見知らぬ男性に顔を覗き込まれたこともある。
そういう浮遊霊ってのは結構いるんだが、私の場合ひきつけやすい。
体質的なものもあるが、ほとんどが後天的に身につけたものだ。
一度彼岸を覗き見た反動というものだろうか。
「なによりヤバいのが出たとしてもそいつがあれば何の問題も無い」
刀掛けに鎮座する鉈を指さす千秋さん。
たしかにこれだけヤバい物体があればそうそう変なのは寄ってこないだろう。
防犯ブザーどころか、女児がライフル持って歩いているようなものだ。
つまり危険度がクッソ高いが、女児も女児で使いこなせるとは言っていないという所だろうか。
「こんなの使いこなせる気しないんですけどね」
「振り回せばいい。それだけで並大抵の幽霊はぶった切られる。まぁ……そんな状況にならない方がいいのは事実だが、近くにあるだけでも大抵のは近寄らないな」
実際部屋に荷物を運び入れてから結構騒がしく感じていた。
これは聴覚的な意味ではなく、精神的にというべきだろう。
だが鉈を手元に置いているとその騒がしさがピタリとやむ。
まるでコンサートホールのど真ん中にいるのに、自分の周りだけが静寂を保っているかのようだ。
もちろん離れた場所からは声が聞こえたりするのだが、害はない。
壁の薄い部屋に住んでいるのと大差ない感じだ。
まぁそれはそれでストレスたまりそうだけど。
「ちなみにだが、各部屋にも呪物やそれに準ずるものを置いておいたから一部屋だけ物凄くヤバい所ができる。間違っても装備無しで入るなよ?」
「……ゲームでそういう部屋ありますよね。モンスターが大量に生息している場所。範囲攻撃とかそういうの出来たら経験値稼ぎになるけど、無策で突っ込むと死ぬやつ」
「大体あってる。ストレスはかなり軽減されるだろうけど、危ない部屋が1個できるだけとなれば楽だろ?」
「……どこですか?」
「和室。前に地面に座るのは大変って言ってたから一番使わなそうな場所にしておいた」
たしかに脚が悪い私は床に座るのが大変だったりする。
痛いし、立ち上がれなくなったりするのだ。
だからと言って畳の上にテーブルや椅子を置くのもなぁと思っていたが、そういう事なら別に使わなくていいか。
「あぁ、和室にも一応家具はいくつか置いてあるぞ。それと神棚と人形」
「神棚は分かりますが……人形?」
「順番に説明すると神棚はアレだ。幽霊を逃がさないための物だな。人形は溢れそうな幽霊を詰め込むための物。これもゲームであったけどモンスターを捕まえるボールみたいなもんだ」
「あぁ……知らないうちにシリーズが増えてて困惑しましたよ。私が寝てる間に3つくらい増えてましたからね」
事故にあった時新作が出た直後だったけど、起きたら知らない作品が出てるのよ。
遊んでたオンラインゲームはサービス終了だったり、新パッチが2つ増えてたりして驚いた。
漫画なんかは好きだった作品の作者さんがだいぶ前に亡くなってたりしたのも驚いたなぁ……。
あ、あと発売されないと言われ続けてもファンが待ち望んでたロボットゲームの新作が出てたのは驚いたわ。
しかも大ヒットとはねぇ……。
「まぁ和室に繋がるドアもふすまも全部お札で塞いであるから入れないと思うが、何があっても無策で入るなよ? どうしてもという時はその鉈持って行け」
「何があっても入るつもりないですから大丈夫です。中で千秋さんが死にかけていたとしても無視しますから」
「ひでぇ……」




