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人を呪わば穴いくつ?  作者: 蒼井茜


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12/30

全裸の理由

 その後無事タクシーを拾い、今日はもう仕事も終わりにして早々に酒盛りを始めた私達。

 夜には電車で立川に向かい、先日とは別のラーメンを食べてからホテルに戻ってぐっすり眠って翌朝。


「……なんでまた全裸なんですかね」


「春奈は脱ぎ癖あるから外では飲むなよ」


「気をつけます……そしてなぜ千秋さんも全裸で、同じベッドなんですかね」


「言わせるな恥ずかしい」


「お嫁に行けない!」


「冗談だ。私も脱ぎ癖があるし、春奈はそこに加えて抱き着き癖もある。特に何もなかったよ」


「……嘘だったら旧吹上トンネルにぶち込みますよ? 事務所にある物品全部」


「天地神明に誓って本当だ」


 ふむ、顔色から察するに本当らしい。

 あの千秋さんが真っ青な表情で、恐ろしい物を見るかのように私に視線を送っている。

 よかった……。


「で、今日は奥多摩の除霊でしたっけ。それと機能壊したレンタカーの賠償に関する話も」


 実のところ物品に宿った怨念というのは伝播する。

 あれだけ強力な呪物をいくつも載せていた車だ。

 千秋さんの愛車ほどではないにせよ、相当な念がこもっていわゆる因縁物となっていた。

 恐らく次に乗った人が事故を起こすような、そんなやばい物体だったので早々に処理できたのは行幸だろう。


「あー、その手続きもあったか……アレに関してはこっちのお偉いさん通してやってもらうよ」


「できるんですか?」


「もともとこの仕事は行政から来たものだからな。仲介料を取られているけど、それでもこのくらいの処理は大本にぶん投げても問題ないはず。それに次からは直に依頼が来るだろうからその前段階としてはどれくらいやばいか理解してもらうのにちょうどいいだろ」


「なるほど。でもそんな申請通りますか?」


「問題ない。今回仲介している依頼人の婆さん曰く、今の市長はそれなりに顔が効くらしい。といっても表立っての活躍は少ないみたいだが裏じゃ凄いらしいぞ?」


「へぇ」


 政治というのはよくわからないけどそういうものなのだろう。

 実際汚職政治家云々の話を聞いても、どこから情報が漏れたのかすらわからないくらいには無頓着な人間である。

 だからそういう人たちが裏で何をしているかなど私如きじゃ推しはかることすらできないのだ。

 ならいっそ考えない方がいい。

 世の中そんなもんである。


「興味なさそうにしているが、自立する時までには覚えておくといい。こういうのは経験だ」


「自立したら普通に就職します。一般企業に」


「……それを連中が許してくれるかなぁ」


 連中、というのが誰を指しているのか、というか何を指しているのかは知りたくないが普通の就職位させてほしいものだ……。


「で、奥多摩の除霊はどんな内容なんですか?」


「んー? まぁ珍しくない狐憑きだよ。結構慣れたものだけど今回は依頼元からしてきな臭い」


「と、言いますと?」


「狐憑き。要するにこっくりさんとかで狐に憑かれたって話だが、婆さんの所に話を持ち込んだのは精神科医らしい。お祓いの真似事を頼むって言う内容だ」


「真似事ですか……あ、治療ですね」


「流石春奈、病院帰りの女は違うな」


「戦場帰りみたいないい方はやめてください」


 つまるところこれはある種の治療だ。

 狐に憑かれたという思い込みを、除霊したという思い込みで上書きするのである。

 1を0にすることはできないが1を2にすることは容易い。

 そしてこの業界では0から1を作るのも容易いのだ。

 もともと大半の人間にとって幽霊というのは存在すらあやふやな、それこそ0の存在である。

 だがそこに事実と事象を見せつければ1に変わるというものだ。

 まぁ限度があるし、普通の霊能者なら絶対にやらないけど。


「でも本当だった場合は?」


「昨日無事だった道具を使う。持って行ったのはやばい物体ばっかりだったけど、真っ当な目的で使うものはホテルに残してあったからな」


「まぁ妥当で……いや待ってください。ってことは旧吹上トンネルは真っ当な方法でどうにかするつもりは無かったってことですよね?」


「あるわけないだろあんな場所。更に言うならまともな神経してたら近づこうとも思わないぞ」


「えぇ……」


 そんな場所に連れていかれたのか私。

 そしてそんな場所からタクシー拾える場所まで歩かされたのか……この足の痛みを少しでも味わわせてやりたいくらいだというのに……。


「あのなぁ、今回の仕事はまともじゃないんだ。八高線にせよ八王子城址にせよ旧吹上トンネルにせよ、真っ当な方法が通用するような場所じゃない。そしてそんな方法を取っていい場所でもない。死者の霊魂を慰めるのも、場を整えていたわるのも、やべーのを封じ込めるのも全部普通の霊能者如きがやっていい分野じゃないんだ」


「じゃあ千秋さんは?」


「私は普通じゃない。能力は平凡よりちょっと上程度だが、それでも日頃の行いからこいつなら大丈夫だと思われたんだろう。どういう意味での大丈夫なのかは別としてな」


 あぁ、いなくなっても大丈夫というパターンもあるのか。

 たしかに千秋さんなら……いや、殺しても死なないだろう人だし普通に信頼されてた可能性もあるな。


「まぁ依頼人の婆さんとは長い付き合いだったし、それなりに仲もよかった。今回は普通に信頼してくれたと思っておくさ」


「それがいいですね。疑心暗鬼になってもつまらないです」


「だな。あて、チェックアウトしてさっさと行くか。あと20分くらいで電車が来る」


「あー、奥多摩行きは数が少ないんでしたね」


「まさに田舎の路線だよな。東京だってのに……電車のドアだってボタン開閉式だし」


「あれは初めて見ました。何のためのボタンなのかなと思ってましたが、こういう所で使うんですね」


「田舎ならではの工夫だよな」


 さて、あまり時間も無いしさっさと服着て荷物準備しますか。

 ……流石に少し肌寒い。

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