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人を呪わば穴いくつ?  作者: 蒼井茜


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10/30

一息

 立川で有名なラーメン店に足を運び、そしてふんだん地元で食べているこってり系とは違うあっさりしたそれを胃に収めたところでホテルへと戻った。

 マジで死ぬかと思ったが……明日は今日の比じゃないくらいやばいスポットらしい。

 ついでに言えば奥多摩でのお祓いも相当危険なものだと聞く。

 既に帰りたいというか、そもそも来なければよかったと思うほどに疲労困憊である。


「春奈、コンビニ寄ってくけど煙草以外で何買う?」


「お酒を……酔い潰れたい気分なので」


「明日に差し支えないレベルならいいぞ? ただ……」


「なんです?」


「いや、どうせなら地酒がよかったなと。この辺りは水が奇麗らしくてな、どうにも地下水を水道水に転用しているとか何とかで。水が上手い所は酒も美味いと相場が決まっている」


「さいですか……」


 正直なところ私はお酒に弱い。

 体質的なもので、そして後天的なものだ。

 事故にあう前はパッチテストでしか知らなかったがそこそこ飲める体質ではあった。

 それ自体は今も変わっていないため、そこそこ飲んだところで潰れたりはしない。

 とはいえ、怪我の後遺症や肝臓の一部を摘出した事でお酒が残りやすい体質になってしまった。

 医者からは「聞いたことが無いわけじゃないが」と言われたものの、とにかく酒は控えろというお達しが出ているのである。

 まぁ飲むんだけどね。


「ビールビールっと」


「私は……あ、イチゴのワインって言うのが美味しそうなんでこれにします」


「ワインかぁ、ならつまみはチーズでいいか?」


「そうですね。スモークチーズがあっちの棚にあったはずです」


「あと定番としちゃ鮭とばだな」


「あー、美味しいですよね。スモーキーつながりだとジャーキーも外せないですね」


「ナッツなんかも手軽でいいよな。それから、これも忘れちゃいけない」


 そう言って千秋さんが指差した棚はカップラーメンが並べられたものだった。

 なるほど、お酒の締めにラーメンは鉄則だ。

 美味しいやつを食べたばかりだが、カップラーメンとお店で食べるラーメンは別物だ。

 例えるならファーストフードのハンバーガーとアメリカで食べるバーガーくらい違う。

 アメリカ行ったことないけど。


「やはり豚骨一択ですね」


「だな、しかし豚骨に絞っても数がある。さて、どうしようか」


「千秋さん、へたっぴですね。欲望の解放の仕方がへたっぴだ。こういう時は……こうだ!」


 どさどさと豚骨ラーメンを片っ端から籠に入れていく。

 ふっ、必殺大人買い。

 カップラーメンはそこそこ日を置いたとしても腐らない。

 賞味期限とかは実は結構短いのだがそれでも数カ月は問題なく食べられる。

 つまりここで買って、そして食べきれなくても持って帰ればいいのだ!


「いいね、その心意気! なら私はこうだ!」


 どさどさと追加されるお酒とおつまみ、そしてポテチなどの御菓子類。

 中にはチョコレートや飴も入っているが気にしない。


「あとはやっぱこれですよね」


「あぁ、肝臓をいたわるのは私達酒飲みの義務だな!」


 お酒を飲む前に、という名目で作られたウコンドリンクを二本籠に入れてレジに向かう。

 そっと、そこに目覚まし用のミントガムとタブレットを混ぜてお会計をする。


「あ、204番1カートン。それとチキン二つにメンチカツとコロッケも」


「142番2箱お願いします」


「タッチお願いしまーす」


 店員さんのやる気のない声に従い画面の成人済みを示すそれに触れる。

 そしてお財布からカードを出して、タッチアンドゴーで支払いを済ませて車に戻ると同時にふと後部座席を見た。

 先ほどの霊が渡してきた四角い箱……のような何か。

 実態は電話ボックスの霊を箱状にしたなにかだという。


「あの幽霊、なんだったんでしょう」


「あー、八王子のトンネルの? あれはなんて言えばいいのか……端的に言うならあそこに棄てられたというか、おいてかれた霊魂だな。それがあの電話ボックスを探して彷徨っていた」


「それまたどうして」


「年代で言えば電話ボックスの噂、というか事件の方が古いんだ。ただもうあそこには残滓すらなかった。でもそこに肝試しに来た若い連中がいて、女を引っかけてやることやって捨てた。そのまま女は助けを求めて見知った場所へ行こうとして、トンネルの中でどんっ。あとは目的地に行きたいという思いと、目的地で果たしたいという思いの二つが重なって同時に出現する霊魂として知られるようになった。神様の分社と同じ仕組みだな、恐れられる二つの噂にひっぱられて女は文字通り二つに引き裂かれた」


「それは……」


「同情はするなよ。幽霊相手にそんなことしても碌な事にはならないから」


「わかってはいるんですけどね。内容が内容だけに人ごとに思えなくて」


「だからあの女はその箱をくれたんだろ。縁みたいなものを向こうも感じてたんだろうな」


「縁ですか……それは、ある意味では怖いですね」


「わかってるじゃないか。縁は怖いからな、いざという時はいつでも助けてやるが間に合わない事もあると覚えておけよ。あと有料だからな、社員割引はあるにしてもだ」


「……円も怖いですね」


「むしろそれが一番怖い。円高も円安も怖い……税務署も怖い……確定申告考えたやつはもっとわかりやすく作ってくれればよかったものを……」


 そこから始まった千秋さんの愚痴は覚えていない。

 ただ一つ覚えているのは、しこたまお酒を飲んで酔っ払って、朝頭痛と共に目を覚ましたら2人して素っ裸で一緒のベッドにいたという事くらいだろう。

 ……忘れよう。

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