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異世界アイスクリームおばさん  作者: フクキタル
第1章「アイス、要りませんか?」
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第1章「アイス、要りませんか?」第9話

いつもありがとうございます!

数日後、私は無事に体調を回復して退院することができた。


「まだ病み上がりだから無理はしないこと。

何があったらすぐ連絡してちょうだい。」


っと何度も繰り返して念を入れて私の体を案じてくれるマリアさんと、


「心配しないでください!マリアちゃん!

ヤヤちゃんは私が守りますから!」


今度は必ず自分が私を守ってみせると、広言するマミさん。


「大丈夫かしら…」


でもマリアさんの不安はしばらくこのまま続きそうだ。


「マリアちゃんはこれからどうするんですか?」


っとマリアさんのこれからの行き先について聞くマミさん。

特に決まったことがないのなら一緒に行きたいという眼差しをがんがん送るマミさんだったが、


「私はこちらの用事が済んだら一度東の方へ向かうつもりよ。」


残念ながらマリアさんは最後までマミさんに一緒に行こうとは言ってくれなかった。


マリアさんの今後の予定は一度東大陸に戻って仲に接続すること。

そしてその仲間と一緒に今後の対策を考えると、彼女は私達にそう言ったが、


「でも東は「帝国」と「聖王庁」の土地なんじゃ…」

「ええ。」


私はやっぱり「聖王庁」に追われているマリアさんが東に戻るのは危険だと思っていた。


「でも心配しないで。

こう見えても手伝ってくれる人、たくさんいるから。」


ほのかな笑みで心配には及ばないと、私のことを安心させてくれるマリアさん。

実際、「帝国」の中で密かに彼女に協力している人が多くて、その中には「中央保安局」の関係者などの重役も多数含まれているらしい。

それでも私はここ数日、すっかり馴れてしまったマリアさんが危険な目に遭ったらどうしようと、その心配だけはどうすることもできなかった。


「皇帝」、「(すめらぎ)(つかさ)」。

ヤチヨさんの腹違いの兄である彼は長い間、禁じられていた「魔術殺し」を復活させた張本人。

だから今のマリアさんがいくら「オーバークラス」であっても、「帝国」に戻るのはあまりにも危険。

それでもマリアさんはやらなければならないことがあるから、危険を承知の上で一度「帝国」と「聖王庁」に戻ろうとした。


一体何が彼女をそこまでするのか。

それについた答えを、私はその次のマミさんの口から聞くことができた。


「マリアちゃん…やっぱりまだ「イブ」ちゃんのことを…」


マミさんの口からとっさに飛び出た「イブ」という少女の名前。

一瞬、マミさんは慌てながら、失言してしまった口を塞いてマリアさんにごめんなさいと謝ったが、


「まあな。」


彼女は怒ることなく、ただ少しだけ寂しそうな表情で空を見上げるだけであった。


「お嬢さんも気をつけてね。

後、このアホのこと、よろしく。」

「はい。任せてください。」

「もうー私に頼んでくださいよーマリアちゃんー」


口を尖らせて思いっきりマリアさんへの不満を表すマミさんと、そんなマミさんが頼りなくても、愛しくて仕方がないように微笑んでしまうマリアさん。

言葉で語らなくてもお互いを分かり合える揺るぎのない絆。

マミさんとマリアさんはそうやってお互いを励み合いながらあの戦乱の時代を乗り越えてきたと、私はそう思う。


「二人共、気をつけなさいよ。」

「はい、マリアさんもお気をつけてください。

本当にお世話になりました。」

「あー…」


最後の別れの挨拶を交わす私とマリアさんとは違って、何故か言葉に詰まったようなうじうじのマミさん。

どうやら久しぶりに会ったマリアさんとの別れをすごく寂しく感じているようで、なんだか見ているこっちにまでその残念な気持ちが伝わってくるような気がする。


そんなマミさんのことをマリアさんは、


「何子供みたいに泣きそうになるのよ。もう会えないってわけでもないし。」


っと頭を撫でながら慰めたが、


「ふぇぇー…マリアちゃぁんー…」


お別れの寂しさに最後まで耐えきれなかったマミさんは結局、涙をこぼしてしまった。


友達との別れを寂しがって、最後には涙を流してしまう。

ひたすらの純粋さ。

でも私は泣きたくなった時は泣いてしまう、マミさんのその爽やかたと言ってもいいほどの単純な純粋さを心のどこかで羨んでいた。


「もう泣かない。大人なんだから。」

「大人だってこういう時は泣くんですよぉー…」


思いっきり泣いているマミさんのことに少し困るようになっても不思議ではないというのに、


「ほら、ハンカチ、貸してあげるから。」

「ありがとう…チーン…!」

「ちょっ…!なんでそこにかむのよ…お気に入りだったのに…」


何故かいつもと変わらない、むしろちょっと楽しそうに見えるマリアさん。


「ごめんね、お嬢ちゃん。

こいつ、いつもこんな感じですぐ泣きついて離れようとしなくて。」


っとマリアさんは困った子だわっと笑ってしまったが、その笑みに込められたマミさんへの大切さは言葉にできないほど大きいものであった。


そしてまもなく泣き止んだマミさんを一度だけ力いっぱい抱きしめたマリアさんは、


「達者でね。マミ。」


やっと彼女に別れの挨拶を交わすことができたのであった。


その後、私とマミさんは町の外まで見送りにきたマリアさんと別れてマミさんの次の目的地である西の方へ向かうことにした。

私達の姿が見えなくなるまでマリアさんはずっと手を振り続けて、そのマリアさんのことをマミさんは寂しそうな表情で何度も振り向いた。

そしてついにマリアさんの姿が完全に私達の視野からなくなった時、


「また会いましょうね、マリアちゃん。」


小さな声でそう呟いたマミさんは、心からマリアさんの無事を祈りながら彼女との別れを受け入れるようになった。


「そういえばマリアさんってどうして「オーバードーズ」って呼ばれてるんですか。

まさか薬物とかのドーピング?」


旅路の間、私はマリアさんの「オーバークラス」としての呼称、「オーバードーズ」について自分なりの答えを想定してマミさんに本当の答えを求めるようになったが、


「あ、そういうんじゃないです。

マリアちゃん、最強すぎて大体の毒や薬は全然効きませんから。」


どうやらマリアさんは「バージンロード」の中でも規格外の存在だったようだ。


「そうですね。あまり呪も効かないし、すぐ解呪してしまいますから。

でもドーピングという点では間違ってないかもしれませんね。

実はマリアちゃん、「悪魔化」できてそれで戦っているんですから。」

「「悪魔化」…」


魔女と共に古代からこの星を支配してきたという存在「悪魔」。

でも強力すぎたせいで「ウィッチクラフト」と「帝国」の共闘によってこの土地から姿を消したという彼らは今になってただ言い伝えられるだけの伝説の存在に過ぎない。

でもその存在が実は遠い昔から実在していた本物だと知った時、私は知的興奮を抑えきれなかった。


「確かに角とか、尻尾とか生えてましたね。

後、なんか目も黒くなる時もあって、いかにも「悪魔」て感じ。

でもマリアちゃん、その力を完璧にコントロールしてますし、私も何度も助けられましたから。」


人間離れの強靭な肉体と身体能力。

何より「魔王」並みに跳ね上がる凄まじい魔力。

悪魔の遠い子孫であるマリアさんはその力を自分の意思で一時的に引き上げて振る舞うことができるらしいが、並の精神力では耐えられないほどその力の誘惑は強力だそうだ。

その力に飲み込まれないように力の加減を適切に調整し、自分に使えるように変換して運用するマリアさんの精神力はすでに神の仕業だと、マミさんは感心していた。


「でもそれを使ったのは「バージンロード」の時だけで、聖王庁にいた時はあまり使わなかったらしいです。

悪魔の子孫ということがバレたらまずいし。

何より悪魔化しなくてもマリアちゃんは普通の人よりずっと強いんですから、人相手にわざわざあれを使う理由はなかったのでしょう。」


現役時代、「バーサーカー」以外にも「モンスターシスター」という無茶苦茶なあだ名もいくつか持っていたというマリアさん。

そんな彼女が聖王庁に悪魔の姿で楯突いた時の事件は聖王庁の長い歴史の中で最も不名誉な事件として取り上げられるほど大きな衝撃をもたらした。

だが事件は聖王庁と「帝国」によってもみ消され、そのまま闇に葬られるようになって、今になっては誰も覚えてない。

そしてそのマリアさんと聖王庁が敵対するようになったきっかけとなった「イブ」という少女の存在も。


「マリアちゃんだけではない。

「バージンロード」の皆はとても強くてかっこよくて優しい子だったんです。」


そういうマミさんの表情にはかつて自分と一緒により良い世界のためという崇高な目的のために旅をしてくれた仲間たちへの信頼と愛しさが満ちていた。


かつて自分たちが住んでいる場所をより良い世界にするためにという理念で結成された世界救世プロジェクト「バージンロード」。

その時、仲間たち皆、より良い世界のために命がけで一生懸命頑張ってくれたというマミさん。

その言葉から私はマミさんが今も変わらず仲間たちのことを心から信頼しているということが分かることができて、ああいう形になってもマミさんはマミさんのままだなと安心するようになった。


「帝国」の「姫騎士」、「オーバーロード」ヤチヨさんを含めて「オーバーヒート」、「(さざなみ)珊瑚(さんご)」さん、そして「オーバーフロー」の「月島(つきしま)花音(カノン)」さんまで。

特にカノンさんに至っては「オーバークラス」としての「オーバーフロー」より世界を跨ぐスーパーアイドルとしての「カノン」の方がずっと有名なスーパーセレブの人物であった。


アイドルやそういうことに無頓着な私ですら名前だけは知っている超有名人。

まさかそういう人がマミさんと一緒に「バージンロード」として活躍したとは思わなかった私は、


「全然知りませんでした…まさに「戦うアイドル」ってやつですね。」


なんだかちょっとマニアックっぽいと内心驚いたが、


「あー…実はカノンちゃん、「バージンロード」の頃のこと、ずっと隠してるんですよ…」


どうやらそれには彼女なりの深い事情があるらしい。


「これからはアイドルの時代ですよ、先輩。

そんなわけで私はか弱いアイドルを演じなければならないので、これからは「オーバーフロー」の「月島花音」ではなく、アイドルの「カノン」として生きていきます。」


「バージンロード」解散の直前、マミさんにそう言いつけた後、即アイドルとしてデビューしたというカノンさん。

「バージンロード」として皆で活動していた頃、彼女はヤチヨさんとアイドルにおける価値観をおいてよく揉め事をしたそうだ。


「いいえ。私達は戦士でありながら、この世界の平和を担っている存在です。

なのに皆の正しい手本になるどころか、まさか守るべきの民に媚を売って機嫌を取るなんて。

私は絶対反対です。」


っとカノンさんのアイドル路線に懐疑的な態度を取ったというヤチヨさん。


「はぁ?アイドルだって皆に元気と勇気を分ける立派なお仕事なんですけど?

可愛い女の子には可愛いアイドルの方が絶対いいですから。

まあ、頭のカチカチなムキムキのおひめちゃまには分からないかもしれませんが。」


そしてそんなヤチヨさんに一歩も譲らず、真正面から自分の考えをぶつけるカノンさん。

二人は最初の出会いからああやってずっといがみ合う仲だったそうだ。


「現役時代にもよく二人で喧嘩しましたよねー

マリアちゃんは二人揃ってまだまだガキだから放っておけばいいって言いましたが、二人共プライドが高くて一度喧嘩したらなかなか仲直りしてくれなかったから、マミーはそれがずっと心配だったんです。」


顔を合わせたらすぐ口喧嘩を始めてしまう二人のことにいつもまいったんですって顔で笑ってしまうマミさん。

それでもそれさえマミさんにとってかけがえのない思い出であることを、私はマミさんの懐かしさに満ちた笑みを見て分かることができた。


それからマミさんは私に「バージンロード」の色んな話を聞かせてくれた。

まるであの病室でマリアさんが私にそうしてくれたように、大変だったけど楽しかったその頃の思い出をいっぱい話してくれた。

その話を聞いていれば、私はなぜか腕が疼くなる気がして、


「この話、いつか本に書いてみたいな。」


いつの間にか、それを自分の手で書いてみたいと、ふとそう思うようになっていた。


マミさんの話をもっとたくさんの人たちに聞かせてあげたい。

そういった熱望が私の心から込み上げてきた時、私は無意識に自分の意思で初めてやりたいことを見つけ出してしまったのであった。


それがいつになるかは分からない。

それでも私はこの世界をもっといいところにするために頑張ってくれた人たちがいることを世界中の皆に知ってもらいたい。

そのためにでも私は生きていけばならない。

そしてそれが自分の生きる意味の一つになった時、


「こういうのも…悪くないかも。」


私はこういう生き方もあるんだなと、そう思うようになった。


そしてまだまだ続くマミさんから聞かせてくれる「バージンロード」の話。

私はマリアさんからもあまり聞けなかった一番の謎の人物、「オーバーヒート」の「(さざなみ)珊瑚(さんご)」さんのことをやっとマミさんの口から聞くことができた。


「サンちゃんは「バージンロード」の一番年下だったんです。

ちょっと無口ですが、とても心温かくて、優しい子です。」


マミさんには「サンちゃん」と呼ばれる「バージンロード」の末っ子。

でも彼女は「バージンロード」の中で、最も困難な人生を生き抜いてきた「霧隠れ衆」の「くノ一」であった。


「サンちゃんは「霧隠れ衆」という村で育ったいわゆる「くノ一(くのいち)」です。

でもいつも外に出て自分の夢を叶えたいと思う、とても進取的で冒険心の強い子でした。」

「「(しのび)」とか、本当に実在したんですね…」


私はそれまで忍とか、忍者とかはサンタクロースみたいな存在だったと思っていたが、マミさんはそれは本当に実存する存在で、割と近いところにいると、そう教えてくれた。


闇に隠れて、ただ上からの命令に従って他人を傷つける運命を課せられた悲しき存在「忍」。

そんな閉鎖的な社会で育った忍だからこそ、もっと広い世界に向けて歩いて行かなければならないと「バージンロード」に合流したというサンゴさん。

人々は彼女のことを「新世代のくノ一」と呼んでいた。


今は「霧隠れ衆」以外の少数民族や弱小国の権利保証のために「連合」の政治家として活躍しているというサンゴさん。

彼女は立場上、「帝国」との仲が悪くて、その中で「帝国」のヤチヨさんとはかなり気まずい関係になっているそうだ。


「昔はすごく仲が良かったんです。

でも私のせいでやっちゃんが「バージンロード」を抜けて、そのまま解散になっちゃいましたから…」


ヤチヨさんが「バージンロード」を抜ける前に、彼女を一番止めようとしたのは末っ子のサンゴさんで、マミさんは今もそのことを気にかけていた。

自分のせいでヤチヨさんとサンゴさんが喧嘩までしてしまって、それ以来、合わせる顔がなくて一度も会いに行けなかったらしい。


マミさんは全部分かっていた。

そんなことになったのも全部自分のせい。

もう昔には戻れないということも。


それでも彼女は強く思っていた。


「私、やっぱりもう一度やっちゃんに、皆に会ってちゃんと謝りたいです。」


もう一度皆に会って、自分の過ちを謝りたいと。


マミさんが皆を信頼しなかったわけではない。

マミさんはただ皆が大切すぎて、失いたくないと思っただけ。

その優しさはただひたすら純粋なもので、それにはなんの嘘もない。


でもそれではダメだと、マミさんは自分の過ちを認めた。


「本当の仲間であれば心から相手を信じて、お互いの背中を預けなければならない。

私はそんな当たり前なことも知らなかったんです。」


今度はちゃんと仲間を信じて、背中を任せる。

マミさんはそうやって、


「だからヤヤちゃんも、マミーのことを信じてくださいね?」


もう離れませんからと言っているように、しばらく私の手を握って離してくれなかった。


それはまるでマミさんがマミさん自信に、そして私にも言い聞かせているような気がして、


「はい。」


私も今度はちゃんとマミさんのことを信じようと、そう心を決めた。

マミさんに同じ思いをさせないためにも。


「結構歩きましたね。少し休憩にしましょうか。」


っとマミさんは、バッグの中から取り出した甘いアイス一つを、


「アイス一ついかがですか?」


初めて出会った時の笑顔と一緒に私に渡してくれた。

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