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異世界アイスクリームおばさん  作者: フクキタル
第2章「バージンロード」
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第2章「バージンロード」第40話

いつもありがとうございます!

「カノンちゃんが…ですか。」

「ええ。」


「神社」の皆から「あき先生」という愛称で呼ばれながら、子供たちを教えていた「楪一族」の一人、「天王寺(てんのうじ)」家の一員であった「天王寺(てんのうじ)千秋(ちあき)」さん。

彼女はよそ者である私にすこぶる好感を寄せてくれて、私が神社に馴染めるよう、快く力を貸してくれたのです。


彼女は都会の大学で教授をやっている旦那さんと一緒に「神社」に戻った人で、何年もここで教師をやっていたそうです。

戦争で息子さんを亡くした彼女は自分の生徒たちに亡くなった息子さんの分まで幸せに生きて欲しくて、今も懸命に教壇に立ち続けているらしいです。

だから彼女はいつも生徒たちに優しくて触れていて、自分の生徒たちが大好きだったのです。

私は今も同じ教育者として彼女のことを心より尊敬しています。


楠さんの最側近でもある彼女は「神社」の教育を担当する「天王寺」の当主の秘書まで務めていて「神社」における大事はすべて把握していて、当然私やマリアちゃんの存在も知っていました。

存在どころか人まではなるべく明かさないようにしていた私達の素性まで把握していた「神社」側はそれでも私達のことを受け入れることにしたという事実に私は内心感服していたのです。


「「宮下」家の担当は「情報」。

「帝国」の「情報局」にも劣らないほど我々「楪一族」は他の組織を上回るほどの圧倒的な情報力を収めているのです。」


世界のあらゆるところで情報収集をしている「宮下」家のおかげで「楪神社」は圧倒的に有利な立場を占めている。

有数な情報機関である「帝国」の「情報局」に比べても遜色ないここの情報収集能力に私は何度も舌を巻くようになりましたが、


「でも強さだけでは我々の目指す本当の意味の「無為」には到底たどり着けないのです。」


それだけではダメだって、彼女はそう言いました。


「「無為」というのは自然なもの、つまり水や風のようにあるべきだからあるという生き様です。

我々はその流れに逆らわず、調和してその一部となって生き物として然るべきの生き方を選んで生き抜く。

それにはとてつもない責任感が伴われるから、無法や放任とは全く別のものになります。」


っと簡略的にここの理について説明をしたちあきさん。

それはとてもご立派なことだと、私はそう思いましたが、


「でも今の「神社」の流れは決して良いとは限りません。」


彼女は内心、今の自分たちに不安を抱いていました。


「今、ここは風邪に罹ったような状態で、少し複雑な状況に置かれています。

これを打開するために、「十二家紋」の当主様方はあなた達を受け入れることにしました。」

「風邪…と言いますと?」


「帝国」のお姫様、魔術師、そして「聖王庁」の異端審問官。

そのヘンテコの集まりをこの神社に入れた状況というのは、


「この神社はあまりにも巨大すぎです。」


外でもない、「楪一族」内側の問題でした。


初めては同じ目標、「無為」に向けて頑張る小さな宗教団体に過ぎなかった。

でもいくら自分たちが無為というありのままの素朴な境地を目指そうとしても、外部からの様々な問題は彼女たちを放っておいてくれませんでした。

結局、生き残るために意気投合して力を合わせた彼女たちを中心に巨大な秩序が生まれ、やがて「楪一族」という新たな正義が生まれました。

それぞれに役目を与え、自分たちの意思である「無為」を貫くために彼女たちは自ら新たな正義を打ち立てたのです。


でも時間が経つことによって、神社」の力と社会への影響力が大きくなるほど「神社」は自分たちが作り上げた正義という名前のルールに偏るようになりました。

そして今やすっかり準軍事組織と変貌して、必要であれば戦争も辞さないという覚悟もしている。

邪魔者はすべてねじ伏せても、我々は自分たちが信じる道を進むと発現する極端な考え方をするものもかなり増えて、無為という本来の目的から離れるようになったのが現状。

このままではどんどん道を間違えるものが増えて、取り返しがつかなくなってしまうと、上層部はこの問題を深刻に認識していました。

誰よりも調和と均衡、共存しながら違いを認めて、ありのままを受け入れなかればならない包容力を持つ必要がある自分たちが先頭に立って自分たちの意志を貫くために力に基づいた正義を強調していると、ちあきさんはその事実に悶えていました。


「自衛は必要です。私達に敵はいくらでもいて、守らなければならない子供もたくさんいますから。

ただ必要なのはあくまで自分たちの意志を貫いて、身を守るほどの力で、力だけを振りかざしたやり方では本当の目的に到底たどり着けないと思っているのが私達の考えです。」


軍閥やマフィアだけが問題というわけではない。

少数民族の独立運動のために戦う組織、極端の民族主義者とその全てを利用しようとする見た目だけは真っ当な国々。

ここを巡った全ての威嚇から自分たちの理と小さな命たちを守るために、自衛は不可欠だと、彼女は力の必要性についてはよく理解していました。


「ただ流れているだけの私達を汚すものが現れたら私達は洪水となって彼らの町を沈ませる。

ただ吹いているだけの私達を阻むものが現れたら私達は台風になって彼らの全てを吹き飛ばす。

それが「楪一族」の意志で、力にかける覚悟です。」


でもそれだけでは本当の調和には至らない。

そう思っていた彼女が誰も来ない森の中の湖で歌っていたカノンちゃんの歌を聞いた時、


「これしかありません…」


カノンちゃんの歌なら世界を紡げるかもしれない、そう直感したそうです。


まるで自分のために歌ってくれているような親しくて美しい歌声。

心に響くその旋律に彼女はいつの間にか頬の上に涙を流していました。

誰も来ない静かな湖に響き渡るカノンちゃんの歌は今も自分を感動させていると、彼女はその時の鑑賞をずっと大切にしていたのです。


「カノンはあまりいい生徒ではありませんでした。

プライドが高くて人付き合いが苦手で他の子達との揉め事が多くて、いつも遠ざけられてたのです。

根はとても優しくていい子だったのですが、後ろ盾の楠さん以外は相手してもらえないちょっと気難しくて愛想のない性格の子だったのです。」


そんなカノンちゃんの歌を初めて聞いた時はまさにショックだったと、その日のことを思い出すちあきさん。

彼女はカノンちゃんの歌を皆と世界を紡ぐ、唯一のつながりとも言ったのです。


「いつも自分だけを守ろうとした子がまさかあんな皆への心がこもった歌を歌うだなんて、本当に驚いてしまいました。

同時に、あの子のことをもっと分かってあげられなかった自分のことがあまりにも情けなくて自分は教育者失格とまで思ってしまいました。

全部分かっていたのは楠さんだけで、私はカノンに何もしてあげなかったのです。」


っとその時のことを心から悔やみ続けていたちあきさんは、それからカノンちゃんとの距離を縮めるために自分にできることを全部やったらしいです。

その努力のおかげか、カノンちゃんは少しずつ楠さん以外の人にも心を開くようになって、友達も作れるようになりました。

その間、ちあきさんは本当はカノンちゃんが「神社」のことや皆のことをずっと大切にしていたことに気がついたそうです。


「今は上位巫女の「かんなぎ」となって立派に働いていますが、ちょっと前まではじゃじゃ馬って呼ばれるほどのお転婆娘でして。

でもよく思えばあの子が外で問題を起こすのは、必ず外の誰かに他の「神社」の子が辱めを受けた時でした。

相手が誰だろうと地位や立場など全く気にせず、突っ走って突っ込むからあの子はずっと問題児として扱われました。

助けられた子たちが誰にも教えてくれなかったのはあの子に他の人には言わないでって頼まれたからで、悪童は自分一人で十分って言ったらしいです。」


そういうところは後見人の楠さんにそっくりだと、クスっと笑ってしまったちあきさん。

楠さんはそんなカノンちゃんを知り合いの人に頼んであの「十六夜(いざよい)歌劇団(かげきだん)」に入れようとしたんですが、


「私はまだここで皆を守りたいです。」


っとむしろカノンちゃんの方から遠慮したそうです。


「だから楠さんがあの子をあなた達に任せたのでしょう。

あなたならきっとあの子を別のところへ連れて行ってくれると思って。」

「私が…ですか?」

「ええ。」


っと一度だけ私と目を合わせて初対面の私に対してすごい信頼感を見せてくれたちあきさんは、


「西の森にある大きな湖に行けばあの子の歌を聞けます。」


ずっと内緒にしていたカノンちゃんの秘密の場所を私に教えて、


「さあ、皆、そろそろ戻りましょうか。」


小さな巫女さんたちを連れて下のとことへ行く準備をしました。


「ほら、アイスのお礼しなきゃ。」


っとそのちっこい巫女さんたちに私からのおもてなしへのお礼をしなきゃというちあきさんの言葉に、


「こ…ごちそうさまでした…!」


3人揃って、口を合わせてそう言ってもらえた時、


「い…いいえ…❤お粗末様でした…❤」

「あ…!またミルク、出てるよ…!この人…!」


私はまた溢れてきた愛情を抑えきれませんでした。


「今日は色々お話できて楽しかったです、黒江さん。

ではまたお会いしましょう。」

「はい、私の方こそすごく楽しかったです。」


それから私は本館へ戻る皆を見送りして、


「さて、確かに西の森と言ってましたよね。」


私は早速支度をして今この場にいない、とびきりの歌姫に会いに行きました。

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