表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界アイスクリームおばさん  作者: フクキタル
第2章「バージンロード」
36/41

第2章「バージンロード」第36話

いつもありがとうございます!

卒業式が終わって、皆とのささやかな飲み会をして、家に帰った自分。

結局、フリーン様は最後まで式場に現れませんでしたが、きっとただ急なお仕事ができて参加できなかっただけで、家に帰ったらいつものような笑みで私を迎えて、


「おめでとう、マミ。4年間よく頑張ったな。」


っと無事に卒業できた私のことを祝ってくれるはず。

でもそれは、


「フリーン様…」


自分だけの都合の良い想像であり、自分はただそう思いたく思い込んだことに過ぎないということを、私は認めなければなりませんでした。


「まだ帰ってきてないのかな…」


電気も付けずに、真っ暗になっている部屋を見ながらフリーン様の帰宅を確認する自分。

その時、私は、


「「ミルキーウェイ」…?」


机の上に大事に置かれていた一本の杖を見つけました。


大きな水晶の中に宿られている燦然の星の輝。

宇宙をイメージにしたその黄金の杖はフリーン様が肌身離さず身につける至宝であって、千年以上、フリーン様とともに数々の危機を乗り越えたたった一人の戦友でありながら家族でした。

そんな大事なものを置きっぱなしにして出かけるほどフリーン様が不用心な方ではないということをよく知っていた私は、


「まさか…」


急に押しかけてきた嫌な予感に、そのままミルキーウェイを取って街に飛び出してしまいました。


「フリーン様…!」


彼女が行きそうな場所を片っ端から探し回りました。

お気に入りの街と公園、いい景色が眺められると言った風車がある丘、きれいな川が見える川辺。

でもどこへ行ってもフリーン様の姿は見当たらなかったのです。


そして私は気づいたのです。

これはフリーン様からのメッセージであって、今日がお別れの日であることを。

フリーン様が大切なミルキーウェイを置いて行ったのはそういうことだったのです。


いつか私にフリーン様はこう言いました。


「マミ、私に子供はいないが、私はお前のことを自分の子供のように思っている。

だからこそお前には誰よりも幸せになってもらいたい。

私はお前の幸せを全力で支えることを心から誓った。」


だから私は自分の幸福だけを考えていればいい。

より良い世界のためとか、そういう大層なことではなく、日常で得られる最大限の幸せを手に入れて欲しい。

そのためなら、自分は何でもやると、フリーン様は血もつながってない、弟子の私にそう言いました。


「だがお前が自分の幸福を、命を自ら捨てようとしたら私とお前の関係はそれで終わりと思え。

私は二度とお前の前には現れず、お前も私に二度と会えない。

そのことをゆめゆめ忘れるな。」


それこそフリーン様からの最後通告。

私が世界のためになにかしたいと思うのは、すなわち自分の身を危険にさらすということで、フリーン様はそれが死ぬほど嫌で私にその言葉で夢を諦めさせようとしたのです。


でも私は「グランドフォール」とマリアちゃんのおかげで世界の真実を知り、それをなんとかしたいという夢を結局諦められませんでした。

いつか生まれる自分の子供に、より良い世界を見せてあげたいという夢を。

多分フリーン様はあの時からずっと私がそうすることをとっくに気づいていたと、今になって私はそう思います。


だから私とフリーン様のお別れは必然なことで、止めることもできない運命でした。

私により良い世界のためという夢がある限り、遅かれ早かれ必ず訪れる予言された未来だったのです。


「…今まで本当にありがとうございました…先生…」


そしてようやく先生の気持ちが理解できた私は先生が残してくれた自分への最後のお土産であるミルキーウェイを抱きかかえて、夜中、一晩中ずっと私達のお別れを寂しがって泣き続けたのです。


それ以来、フリーン様がどこへ行って、何をしているのか、その消息について聞いたことはありません。

マリアちゃんのところにも、カトリーナちゃんややっちゃんのところにも行かず、一人で旅をしているのではないかと、私はただそう思うことにしました。

旅を続けたらいつかどこかで会えるのではないかと、漠然とした期待感をこっそり抱いて、もしまた先生に出会ったらちゃんとお詫びして自分を認めてもらいたいと思っているだけです。


***


「それじゃ、行ってきますね。ゆうくん、カトリーナちゃん。」

「頑張って、マミ。応援するから。」

「気をつけるのですわ。」


それから数日後、私とマリアちゃんはついにより良い世界のための一大プロジェクト「バージンロード」の活動を開始しました。

そして旅立つ私達を見送るために駅まで迎えに来てくれたゆうくんとカトリーナちゃんは、心から私達の健闘と無事を祈ってくれたのです。


「浮気しちゃダメですからね?ゆうくん。私、本気で泣いちゃいますから。」

「どんなに離れても僕はマミのことをずっと愛している。心配しないで。」


っといきなり皆の前で私にキスをしてきたゆうくんの大胆さに、さすがの私も真っ赤になって慌ててしまいましたが、


「行ってらっしゃい、マミ。待ってるから。」


ゆうくんのいつもの温かい笑みに心がほっとして、いつの間にか旅への緊張感も吹っ切れているようになっていました。


ゆうくんはこれから東の方に戻って本格的にプロのテニス選手として活動することになっています。

ちゃんとしたスポンサーもできて無事に契約も終わったので、これからますます有名になる。

それはそれで良かったのですが、彼女の立場から見るとやっぱり自分がいない間、ゆうくんに新しい彼女ができたらどうしようっと不安な気持ちもありました。

もちろん私はゆうくんのことを心から信じていて、私だけを愛するというゆうくんの言葉に嘘はないってことは分かっていましたが、不安になるのは仕方がなかったのです。


でもそう思っていたのは自分だけではなく、ゆうくんも同じだったということが後日分かるようになって、


「はい❤ルビーちゃん❤妹の「ダイヤ」ちゃんですよ❤」


その夜、二人目の可愛い娘が生まれました❤


そして、私の大学時代の親友、カトリーナちゃんは実家の「工房」に帰って本格的に錬金術などの研究を始めることになりました。

カトリーナちゃんはとても優秀な生徒で、その能力は「工房」の長老会にも認められて、彼女ならきっとうまくやれると、私は心から信じていたのです。


「マミ。」

「カトリーナちゃん?」


そんなカトリーナちゃんが出発の前に、急に私を呼び止めて、


「辛くなったり、悲しくなったりした時はいつでも帰ってきてもよろしくてよ。」


っと言ってくれた時は、本当に心強かったのですが、あの時のカトリーナちゃんはもう分かっていたかもしれません。

この旅の先で私は必ず傷つけられ、世界に失望してしまうことを。

その時、何も知らなかった無邪気な自分はただ軽い気持ちでそうすると返事をしたのですが、


「こんな形で会いに来てごめんなさい、カトリーナちゃん。」


その数年後、絶望の淵に落ちた私は彼女が心配していた通りになって、自ら彼女に会いに行ってたのです。


「そろそろ列車の時間よ、マミ。」

「あ、はい!今行きます!」


そしてついにやってきたお別れの時間。

私は取り合ったゆうくんの手をなかなか離せなくて、ゆうくんもまた私との別れをとても寂しく感じていました。

あの時だけは、


「いつまでイチャイチャしているつもりですの?いい加減離れなさい!」


っと私とゆうくんの仲を嫉妬したカトリーナちゃんも静かに席を外してくれて、


「それじゃ、行ってきますね。ゆうくん。」


私はゆうくんの唇にお別れのチュをして、やっとゆうくんの手を離すことができました。


「向こうに着いたら連絡するわ。」

「マミのことをよろしくね、マリアさん。」

「お気をつけてくださいまし、阿部さん。」

「達者でね。雄一郎くん、真島さん。」


っとゆうくんとカトリーナちゃんにお別れの挨拶をしたマリアちゃんは列車に荷物を乗せて窓の向こうで私達を見送っている二人のことをしばらくじーっと見つめました。

まるで二人のことを忘れないように目に焼き付けないと言っているように、マリアちゃんの目には懐かしさとちょっぴりした寂しさが宿っていて、そのことに私はふと気がついたのです。


「この旅で私達は脅威と危険などに身を置くことになる。

もし死んだらもうあの二人に会えないから。」

「…初日から縁起の悪いこと言っちゃダメですよ、マリアちゃん…」


もう少し前向きに考えましょうという私の話にマリアちゃんはごめんなさいと今の発言を取り消しましたが、その気持ちが全く分からなくもない自分もまた窓の外のゆうくんとカトリーナちゃんを何度も振り向いてしまいました。


結局、ゆうくんだって私のワガママで望まなかった別れをしたわけで、協力を約束したカトリーナちゃんにだって迷惑をかけることになったんですから。

私はこのプロジェクトの発案者として自分なりに責任感を持っていましたが、やっぱり皆とのお別れが寂しくなるのは仕方がなかったのです。


「あ…!出発しちゃう…!」


一秒でも長く二人のことを目に焼き付けておきたいという私の気持ちと関係なく、ついに動き出した列車。

私は速度が上がってくる列車とともにだんだん遠くなる二人の顔を目で追いながら心の中からずっとこう願い続けました。

二人共、健康であるように、そして必ず無事に戻って二人に再会できるようにと。

戻る時は今よりずっといい世界をお土産として持ってくると心の中でそう誓った私は、やがて完全に駅から離れてすっかり見えなくなったゆうくんとカトリーナちゃんの最後の笑みを何度も振り返ってみるようになりました。


「先生…」


でもその最後の瞬間さえ、私の先生、フリーン様はどこにも姿を見せませんでした。


そうやっていろんな思いを乗せた列車は親しんだ道から離れて私達を待っているやっちゃんがいる西の方へ向かいました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ