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異世界アイスクリームおばさん  作者: フクキタル
第2章「バージンロード」
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第2章「バージンロード」第33話

やっちゃんの機嫌が悪くなったのは確か合唱部の皆のところにやっちゃんのことを紹介しに行った時だと思います。

当時、大会に向けて合唱部の皆は休日にも関わらず猛練習だったのです。

やっちゃんの紹介のついでに、やっちゃんに皆の頑張るところを見てもらいたいと私は早速やっちゃんを部室に連れていき、当然、


「お…お姫様だわ…!」

「え!?本物!?」


大騒ぎになって練習どころではありませんでした。


「握手してください!」

「私は写真とサインを!」


思った通り、やっちゃんの人気はすごかったのです。

皆、少しでもやっちゃんとお近づきになるために自分のことをアピールして、やっちゃんも最初は少し戸惑っているように見えましたが


「いいですよ。」


すぐ笑顔で皆の声援に応えてあげたのです。


「帝国」との平和ムードの立役者の一人であるやっちゃんの人気は「連合」の人達の間でもすごいもので皆がやっちゃんとお知り合いになりたいと思う気持ちは十分分かります。

だから最初に、


「もうずるいね、マミって。一人でお姫様のことを独り占めしちゃって。」

「そうそう。彼氏さんもいるのに浮気しちゃって。」


っと言われた時はなんとも思わなかったのですが


「彼氏…ですか?」


急にやっちゃんの顔色が悪くなった時はさすがに少し焦ってしまったのです。


「どうしたんですか?やっちゃん…顔色、悪いですよ?」


どこか具合でも悪いのかと心配する私にやっちゃんは確かにこう聞きました。


「先輩…もしかして彼氏とか…いるんですか?」


あの時、やっちゃんがどうしてゆうくんのことが気になったのかは分かりません。

確かにやっちゃんに恋人のゆうくんのことを話したことはなかったのですが、私は割と普通なことだと思って特に気にしてませんでしたから。

でもあまりにもやっちゃんが知りたがったので言ってあげようとしたその瞬間、


「おっほほほっ!「帝国」の姫君がこんなところになんの御用かしら!」


ドカンと勢いよく扉を開けて部室に入ってきた女声。

その高らかな笑い声には自信と誇りがいっぱい込められていて、彼女のプライドの高い性格を物語っているようでした。

そしてこの学校でこんなに爽やかで気持ちよく、思いっきり笑えるのはただ一人しかいないということを、部室の皆はよく知っていました。


「ごきげんよう。初めてお目にかかりますわ。

わたくしこそ誇り高き「真島(まじま)」家の次期当主、その名も「真島(まじま)カトリーナ」ですわ!

以後、お見知りおきを!」


朗らかな挨拶とともに部室に現れた上品な女性。

彼女こそ、私の大学時代からの友人で、私のワガママを全部受け入れてくれた親友である「真島(まじま)カトリーナ」ちゃんです。


つややかなプラチナブロンド。

上品に巻いたクルクルとしたきれいで可愛い縦ロールの髪型は彼女の自慢で、何よりもその真っすぐでプライドの高い真っ青な目が私は大好き。

高価のお召し物を身にまとってキラキラした宝石や装飾が大好きなカトリーナちゃんはとてもきらびやかで派手な子なんですが根はとても優しくて、すごくいい子なんです。

人前で物怖じせず堂々と振る舞うその真っ直ぐな性格のせいでたまに誤解されて、ちょっと疎まれることもありますが、それでも私はそんなカトリーナちゃんが大好きした。


「バージンロード」解散後、家族を失い、ウララちゃんともまだ出会ってない拠り所もない私に居場所になってくれたカトリーナちゃん。

彼女には人に言えない大きな秘密がありましたが、それは多分自分も同じであるゆえ、私とカトリーナちゃんは言葉ではなくてもお互いのことを理解し合えたのです。


「人は誰でも大なり小なり秘密を持っているものですわ。

だからわたくしは自分の境遇を悲観したり、自責の念に駆られたことは一度もありませんわ。

だからあなたも自信を持ってもっとご自分のことを愛し、信じてあげてくださいまし。」


っと落ち込んでいた私のことを励ましてくれたカトリーナちゃん。

カトリーナちゃんは家の事情で「バージンロード」の活動当時に私達のことを支援することはできませんでしたがそれでもいつも私達のことを応援してくれた大切な「バージンロード」の一員でした。


代々「魔道具」に関わることを生業にした「真島」家。

彼らの一族は「工房」と呼ばれ、私達の生活に文明の利器をもたらしてくれて、特に「連合」の結成にたくさんの援助をすることで「連合」結成の立役者の一人と南大陸の皆に称えられました。

でも誰よりも異種族との共存を望んでいた「真島」家は「連合」が強行した開拓事業「グランドフォール」に対して猛烈に反対し、自ら「連合」から脱退しました。

その後、「工房」は拠点を移して、それ以来、公式の場には一切姿を表さないようになりました。


魔道具の生産、研究などに関わる「工房」。

でも商売にも一家言あった「真島」一族は特にお金に困ることもなく、この土地で富豪として暮らしています。

そして表舞台で活動しているのは未だに次期当主であるカトリーナちゃんだけ。

そういうわけでカトリーナちゃんは今、直で見られる唯一の「工房」の関係者でそこそこの有名人というわけですが


「早く言ってください…先輩、本当に彼氏とかいるんですか…?」


どうやらやっちゃんは私の恋人の有無しか興味がなかったようです。


「スルーですの!?」


そして地味に衝撃を受けるカトリーナちゃん。


「わ…わたくしのことをご存知ではないとは…

「帝国」の姫君と言ってもまだまだですわね…」


っとなんとか自分のことをアピールしようとするカトリーナちゃんでしたが


「嘘でしょ…」


どうやらやっちゃんはそれどころではないようです。


「えっと…大丈夫ですか?やっちゃん…なんか体、フラフラしてますし…」

「いいえ…全然平気ですので…」


一体どこが気に入らなかったのか明らかに不機嫌になってしまったヤサグレのやっちゃん。

剥れ気味のやっちゃんの機嫌を直すために、私は何度も理由を聞きましたが


「すねてなんかありません…全然先輩に関係ないことですから…」


っと何も言ってあげなくて…

そこで自分のことが完全に無視されているとカッとしたカトリーナちゃんが


「いますわ!彼女には「(なぎ)雄一郎(ゆういちろう)」という幼馴染の恋人がいるのですの!」


もういい加減自分にかまって欲しいと訴えるように全部話してしまったのです。


「「凪雄一郎」って、もしかしてあのテニス選手の…」

「あ、やっぱりやっちゃんも知ってました?」


「帝国」でテニス選手として活躍しているゆうくん。

そしてそのゆうくんのことを前々から知っていたやっちゃん。

私はそこでやっちゃんのお兄さんである「(すめらぎ)(つかさ)」さんとゆうくんがお知り合いであることを知って、やっちゃんもゆうくんとお友達になったらいいなと思いましたが


「死んでください。先輩と私のために。」

「あはは…」


ゆうくんとやっちゃんの初めての出会いは最悪だったと私はそう覚えています。


まあ、とにかくああやって私とゆうくんの関係について知るようになったやっちゃん。

もう良いかなっと思ってやっちゃんの顔をチラッと見た時、


「やっちゃん…?」


私は絶望に完全に目が死んでいるやっちゃんのことを見つけてしまったのです。


「ど…どうしました…!?死んだ魚みたいな目をして…!」


っとどこか痛いですかと聞いても、大丈夫ですって答えるばかりで…

あの時、カトリーナちゃんがやっちゃんのことについて話してくれなかったら私は多分、それ以上にやっちゃんの機嫌を悪くしたかも知れません。


「もう…どんくさいこと…彼女はあなたにとって「特別」になりたいんですのよ?」

「特別…?」

「ぐっ…!」


そしてカトリーナちゃんのその話が正解だったように一瞬で真っ赤になるやっちゃんのことに私は、


「ごめんなさい、やっちゃん…私、やっちゃんがそんなに私のことを思ってくれるとは思いませんでした…」


もっと早くやっちゃんの気持ちに気づいてあげられなかったことをまず謝りました。

私の謝りに少し機嫌が直ったのか、今度は自分の方から今の行動を謝るやっちゃん。


「私の方こそ取り乱してしまってすみません…」


私はもう一度私と向き合ってくれるやっちゃんの可愛い顔がとても嬉しかったです。


「やっちゃんはもう私にとって特別な存在です。

だからもうそんな顔しないで欲しいです。」


っともう一度笑って欲しいという私のお願いに


「わ…分かりました…」


やっちゃんは少し照れくさい笑ってしまったのです。


「でもやっぱり間違ってます…」

「何がですか?」


でもまだ話したことが残っているようなやっちゃん。

私は間違っていると言うやっちゃんの話に耳を傾けましたが、


「先輩は女の子なのに…女の子は女の子と付き合うべきだと思います…

男の人の恋人なんて、あり得ませんよ…」

「はい?」


やっちゃんの話はやっぱり私が理解するには奥が深すぎだったのです。


「全くですわ。男なんて汚らわしくて野蛮な族に過ぎないというのに、マミったらわたくしの話を全然聞き入れなくて。」

「分かってますね、真島さん。」


っと自分の意見に同意するカトリーナちゃんに好意を示すやっちゃん。

その反応に、


「聞いてましたの…?」


呆れたって顔をするカトリーナちゃんでしたが


「覚悟した方がよろしくてよ。

だってこの子、驚くほどどんくさいですから、どう攻めても全然気づいてくれないですもの。

わたくしも結構手こずっていますわ。」

「お互い大変ですね。」


急にやっちゃんと意気投合するようになって二人はあっという間に同じ目標を目指す仲間であり、ライバルになりました。

なんのライバルなのかは全く知りませんが。

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