第2章「バージンロード」第32話
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川を挟んで建てられた「ミマス中央大学」。
森に包まれて自然との調和を強調するここの大学は南大陸にある学校の中でも特に優れた景色でもはやこの街の立派な観光スポットになって外から観光客が見に来ることもたくさんあります。
もちろん学校と生徒たちのスケジュールによって立ち入りが制限されることもありますが基本的に出入りは自由です。
有名人もよく来るのでここの生徒たちはあまり外の人達に関心を向けないのですが
「え!?マジ!?」
「あの人!テレビで見たお姫様だ!」
さすがにやっちゃんほどの大物が目立たないことは無理だったみたいです。
街からの噂もあって周りにはあっという間にやっちゃんのことを見に来た人がいっぱい。
もちろん付き人とボディガードもいて少し距離は置かれていますがそれでもあまりにも見る目が多くて私はやっちゃんの機嫌が損なったらどうしようと少し心配になりましたがやっちゃんは
「もちろん人に見られるのは好きではありませんが皆さん、特に悪気はありませんから。
それに私への敵意がないようで少し安心しました。」
っと今自分に向けられているのはただの物珍しさで、決して悪意ではない、そのことに感謝していると皆からの関心を快く分かってくれたのです。
「でももう少し落ち着く場所とかあったらいいですね。」
でもさすがにずっと見られるのは疲れるからもう少し人の少ない場所に行きたいというやっちゃんのお願いに応じて私はやっちゃんを本館の方へ連れて行きました。
「この橋から観光客は入れないんです。それに今日は学校がお休みで生徒もあまりいませんから。
ここならもう少し落ち着けるかと。」
本館からは生徒たちの空間で部外者の立ち入りは禁じられている。
堀のように学校をぐるっと回る清らかな川と使用人さん達が丁寧に手入れした華やかな庭園、そしてそこから見渡す広い森はまさに絶景ですがこの景色は生徒たちのみに許されたものですのでここを皆に教えてあげられないのがすごく残念なくらいです。
でも私はあの時、その景色をやっちゃんに見せることができる気がしてすごくウキウキしていたのです。
「ですが私はここの生徒ではありませんから。」
でもさすが真面目なやっちゃんはいくら自分が一国の姫とはいえここのルールにはしっかり従わなきゃと律儀な姿勢を見せてくれました。
やっちゃんらしいといえばやっちゃんらしいですが
「あ、大丈夫です。だってやっちゃんもフリーン様の弟子ですから。」
私はやっちゃんにはここに入る資格があるということを予め言っておきました。
「実はフリーン様がここの教授で働いたことがあってちょっとだけ特別扱いされているんです。
だから先生の弟子であるやっちゃんもここの生徒と同じですからこれくらい許してもらえるのかなってー…」
「…なんか最後にちょっと自信なくしてません?」
いつの間にか自分もちょっと自信を失いかけてあやふやな口調になりましたがきっと大丈夫!なんとかなる!って私はそう思います!
「違ったら後で私が怒られますから!さあさあ!こちらです!」
「ちょっと…!」
細かいのは後でいい。
今はただやっちゃんに私のことをもっと知って欲しい。
代わりに私はやっちゃんのことをもっともっと知りたい。
私の頭はそのことでいっぱいでした。
もちろんその後、
「そんな屁理屈、通るわけなかろう。」
っとフリーン様にめっちゃくちゃ怒られましたが。
「あそこに見えるのが歴史館です。後で一緒に行ってみましょうか。」
「いいですね。ぜひお供させてください。」
「はい♥」
それから私はやっちゃんに学校の色んな場所を紹介し、学校中を案内しながら一緒に歩き回りました。
「ここはカモさん達とガチョウさん達に触れられる池です。
皆、人に慣れていてすごく懐いてくれるんですよ?
それに何と言っても可愛い!ふわふわでつぶらの目が特に!ちょっと獣臭いんですが!
あ!向こうから近づいてきます!ほら、やっちゃん。餌、あげてみて。」
「まあ、可愛いらしい。」
一緒に池でカモさんとガチョウさん達に餌をあげて触ってみたり、
「ふわふわ♥皆、今日も元気いっぱいで機嫌が良さそうですね♥やっちゃんに来てもらったからなのでしょうか♥」
「それは光栄ですね。
私、こんなに動物に触れるのは初めてです。皆、可愛くてとてもいい子なんですね。」
「やっちゃんがいい子だから皆が懐いているんですよ。
動物には人を見る目があって悪い人には決して近づいたりしませんから。」
「そうなんですか。気に入ってくれてありがとうございます、皆さん。」
やっちゃんのことを気に入ってくれた皆にお礼を言ってみたり。
特にそういう経験が初めてだった自分にはとても有意味な時間だったとやっちゃんがそう言ってくれて私はなんか鼻が高くなる気分でした。
「ここは図書館です。本がいっぱいあります!」
「そうですね。図書館ですもの。」
図書館で一緒に行って、一緒に本を探して、
「これは「帝国」にはない本でとても興味深いですね。」
「まあ、ちょっと前まではそういう他の種族や国に関する本は殆どダメでしたからね。」
偶然見つけた昔の本で盛り上がって。
やっちゃんは当時「騎士姫」という異名を持っていて自らも自分のことを「剣士」と呼んでいるほどの武闘派でしたがお兄さんに似て本が大好きな子でした。
見聞を広めるための本はもちろん、ジャンルを問わずに小説やエッセイももちろん大好きでした。
本格的な「バージンロード」の活動をやっていた頃も休憩の時は鍛錬か、それとも本、どっちでしたね。
探究心が強くて何事も真剣に向き合おうとした真面目なやっちゃん。
そんなやっちゃんのことを私は本当に好きだったのです。
でもあの時…
「何読んでます?」
「ええ…!?特に何も…!」
やっちゃん、何か夢中になって読んでましたが結局なんの本なのか教えてくれなかったんですよね…
慌てて後ろに隠してて…
「それじゃ、次へ参りましょうか。」
「よろしくお願いします。先輩。」
っと今度は私が勉強している講義室と所属している部活に行ってみようと言う私に「先輩」と呼んでくれたやっちゃん。
私は自分にできた初めての後輩であるやっちゃんのことを一段と格別に思っていました。
「先輩の部活って…」
「あ、合唱部です。私、地元では聖歌隊をやってたので。」
子供の頃から歌は大好きだったので自然と歌の趣味を持つことになったあの頃の自分。
進路についてはフリーン様のようないい先生になりたくて教育学部に進学したのですが一応こう見えてもピアノとヴァイオリンは弾けますしそこそこ歌も歌えるんです。
今は有名なアイドルになったカノンちゃんから
「先輩ってやっぱり歌、上手ですね。物怖じもせずに堂々と歌えてよく声も出てる。」
っとよく言われましたし。
「バージンロード」の活動初期にやったアイドル活動の時に一番手がかからないとよく褒められたんですよねー
ちなみに一番手強かったのは
「死んでも嫌です。私に見世物になれっということですか。」
最初から頑なにアイドル活動のことを反対してたやっちゃんです。
「私は裏方でいいです。歌うことならあなたたちだけでやってください。」
「なんですって!?だからアイドルは見世物なんかじゃないってば!」
「まあまあ、二人共。喧嘩は止めましょうね?」
っといつもカノンちゃんといがみ合ったやっちゃんのことをなんとか私が説得して一緒にアイドルをやりましたが
「どうして…!どうしてあの人が私より人気なんですか…!?」
「まあまあ…」
いざ活動を始めたらやっちゃんの方がすごく人気だったのでそれに悔しがるカノンちゃんの慰めるのが日課になったくらいでしたね。
「でも今日は誰もいないのでは…」
「大会があって多分皆いると思います。私、やっちゃんのことを皆に紹介したいんですがいいですか?」
「ええ。もちろん。」
っと部活の皆に自分のことを紹介してもいいと許してくれましたやっちゃん。
私は早速自慢の後輩ちゃんを皆に紹介するために部室へやっちゃんを連れて行きましたが多分あの時だけだったと思います。
「ど…どうしたんですか?やっちゃん…急に不機嫌そうな顔になって…」
「別になんでも…」
ずっと楽しそうだったやっちゃんの顔色が悪くなったのは…




