第2章「バージンロード」第31話
いつもありがとうございます!
「お出かけですか。」
「はい♥」
初めてやっちゃんを誘った時、
「良いですよ。一緒に行きましょう。」
二つ返事で快く私との外出を引き受けてくれたやっちゃん。
使節団のお仕事でゆっくり散歩もできなかったやっちゃんにとっていい気晴らしになると思った私は今日だけは思う存分楽しませてあげようと決めて張り切ってやっちゃんを街まで連れていきました。
「きれい…」
「あれがあのお姫様…」
「うわぁ…!?隣りにいる人ってなに…!?魔族なの…!?」
予想通り上品で優れた美貌で圧倒的に目立つやっちゃんはあっという間に街の皆から注目を集め、一気に街の星となりました。
運河の川風になびく美しいプラチナブロンド。そして優しさがいっぱい詰まったきれいな青い目。
自分のことを単なる引き立て役と思わせてしまうほどやっちゃんの美貌はもはや天使と呼ぶべきのものだったのです。
最後までやっちゃんに対して素直になれなかったカノンちゃんだって
「ルックスだけは良いんですもんね、あの人。性格はマジ無理ですけど。」
っとやっちゃんの美貌には到底敵わないと舌を巻いたのです。
「アイドルを目指しているだけの可愛さはあるんじゃないですか。彼女って。」
もちろんそんなやっちゃんもカノンちゃんのことを可愛いって言ってましたけど。
どこまで不器用で素直じゃない後輩ちゃん達ですねー
「すごく目立ってますね。」
見られるのは慣れていてもあまり好きじゃないというやっちゃん。
でも皆悪気はないということを私は手始めにやっちゃんに教えてあげたかったのです。
「皆、やちよさんのことが可愛すぎて仕方がないんですよ。こっちの国じゃ「帝国」のお姫様はドラゴンより遥かに珍しい幻の存在ですから。」
っと私は皆ただ珍しいだけで決してやっちゃんのことを見世物にしているわけではない言っておきましたが
「…多分それだけではないと思いますが…」
やっちゃんは他に理由があるかも知れないとなぜか私の胸を見つめながらそう言ってたのです。
当時やっちゃんのことを「やちよさん」と私が呼び方を変えたのは無事にやっちゃんとお友達になれた直後でやっちゃんもその呼び方を結構気に入ってました。
今まで自分のことをあだ名で呼んでくれる人がいなかったため、やっちゃんはすごく嬉しいとぜひそう呼んで欲しいと言いました。
「じゃあ、私は「先輩」と呼んでもいいですか。」
そして同じ先生に教えられたことから私のことを「先輩」と呼ぶことにしたやっちゃん。
私も可愛い後輩ちゃんができたような気がして喜んでそう呼んで欲しいと言ったのです。
やっちゃんはまず私が通っている大学に行ってみたいと言いました。
最初のチョイスにしては結構珍しかったので私はさすがにその理由を聞かざるを得ませんでしたがそれにはやっちゃんなりの深い理由があることが分かって
「いいですよ♥」
喜んでやっちゃんを学校へ連れて行くことになりました。
私が通っている大学は「連合」の加盟国の一つである「ミマス」にある世界有数の名門の大学で毎年世界各国からたくさんの生徒達が入学してきます。
川を挟んでぐるっと作られたキャンパスがすごくきれいで何と言っても学食が安くて美味しい!
私立大学だから学費はかなり高いですが幸い私の場合はなんとか奨学金で賄っていて実家の両親の負担を減らしているのです。
「勉強お上手ですね。」
「えへへーそれほどでもー」
っと私のことをすごいって言ってくれたやっちゃん。
やっちゃんは特に楽しく勉強ができるところがすごいと昔の自分はあまり勉強に興じる真面目な生徒ではなかったと恥ずかしそうに笑ってしまいました。
「お兄様とは違って私はずいぶんとお転婆さんでしたから。
いつも剣だけ振り回しましたし毎日探検ばかりで城中の皆は隠れている私のことを探すのが日課になったくらいでしたから。」
「可愛い♥」
おとぎ話のお姫様のような見た目と違って好奇心と冒険心の強い進取的な性格。
私はますますやっちゃんのことを自分のプロジェクトの一員として迎え入れたくてうずうずしてました。
本当はやっちゃんは大学に行きたかったらしいです。
でも一刻も早く国と世界ののために働きたくてお兄様からの勧誘も見送ってこうやって世界を回っているとやっちゃんは自分の意志を示したのです。
「今はただ象徴的な存在に過ぎないかも知れませんがいつか私はちゃんとした外交官に我が国と世界を紡ぐ渡橋になりたいです。」
っと自分の夢を語るやっちゃんの眩しさを私は未だに忘れていなかったのです。
そして私は
「その夢、やちよさんならきっと叶えられます。」
心から彼女の夢を応援することにしました。
「マミさんは夢とかありますか。」
「私の夢ですか?」
っと今度は私の夢が聞きたいというやっちゃん。
これからもっとたくさんの人達を知るためにはそれなりの練習が必要だとやっちゃんは人と打ち解ける方法を学びたいと言いました。
そのためにまずありのままの自分を相手に見せる。相手に寄り添うためにはまず自分を偽ることなく真剣にぶつけること。
それはやっちゃんがお兄様から教えてもらった初めての人としての姿勢だったそうです。
「自分を偽って相手だけに一方的な真実を求めるのは詐欺師のごとく卑劣な考え方。
彼らのように成り下がらないためには私達はまず手本になって人々に健全で真実な心を見せるべきだとお兄様はそうおっしゃいました。」
そのお兄様の教えに従って王の一族として正しい生き方を選ぼうとした真っ直ぐで純粋だったやっちゃん。
たとえ家の事情で皇室の「皇」の名は使えなくても彼女は正真正銘の王位継承の候補者で王族としての確固たる責任感と義務感を持っている。
多分やっちゃんのそういう志を見抜いたから彼女のお父さんとお兄さんはやっちゃんを使節団の代表に任命したのではないかと当時の私はそう思いました。
「私はこの世界をより良い世界にしたいです。」
そして出会ってから初めて聞くことができたやっちゃんの夢が
「実は私もそう思います。」
自分の夢と重なった時、
「私にはやっぱりやちよさんが必要です。」
私はいつの間にかやっちゃんの手を握って彼女の真っ青の目をじーっと見つめていたのです。