第2章「バージンロード」第29話
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所詮は人間。共存なんてできっこない。
必要と判断した時だけ親しく近づいて用済みになったら見切りをつけてなんの未練も持たずに捨ててしまう。
なんという身勝手な生き物。まるでこの世のありったけの悪意を一箇所にかき集めて固めたような醜くて卑劣な生物。
フリーン様はたとえ自分が傍観の立場であってもどうしても人間が好きにはならないと私にそう話しました。
「「連合」も、「帝国」もあまり変わりなんてない。
弱いやつは更に弱いものを踏みにじって上に立つ。
この社会はそうできているのだ。」
欲に飲み込まれて欲に言われるままに動くだけの貪欲の傀儡。
フリーン様は人間のその底しれないどす黒い欲こそ最も悍ましくて恐ろしいと怯えていました。
フリーン様はいい加減現実を知れと私にそう言いたかったと思います。
利のためであれば弱者を、同族さえ踏みにじり、屈服させるのが人間。
この仕組みは決して絶えることなく未来永劫続くだろう。
そういう社会のために何を為し、何を考えるのか。
フリーン様は私に何度もそう聞いていました。
「この地に人間が存在している以上共存は不可能。人間は異質に凄まじい恐れを抱えていて本能的に分かろうとする前に排除してしまう。
今は大丈夫でもいつか私のような「エルフ」も彼らに狩られてしまうかも知れない。」
「そんな…!違っ…!」
何か反論しなければならない。
そう思った自分ですが私は彼らの恐怖に対する防御本能によって自分の一族が犠牲になっていたことをよく知っていました。
だからこそ何も言い返さず、ただ悲しくて寂しい気持ちで淡々と自分の境遇を語るフリーン様のことを見つめるしかなかったのです。
「グレートフォール」の間に自分の目で確かめてきた人間の残酷さ。
問答無用で他種族を弾圧し、虐殺を行った「連合」の兵士達。
たとえ彼ら自身にそういうつもりがなかったとしてもこれに関わっている人間の悪意を自分にどうにかできるのか、そう自分に聞いた時私は何も答えられなかったのです。
「魔物とか、魔女とか結局人間が都合よくつけた名前に過ぎない。
私達は皆ただの「住民」で種族の名前はあったが決して自分達のことを「魔」とは言わなかった。」
人間の出現以前、この星はそれなりのバランスを維持していた。
縄張りを守るためであれば戦は辞さなかったが欲による征服行為はなかった。
全員がそれなりの生活に満足し、棲み分けしてバランスを取っていく。
それがフリーン様が覚えている遠い昔のこの星の姿でした。
でも人間の出現以上、この星の歴史は一変。
一体どこで湧いてきたのか突然この星に現れた人間はあっという間にこの星の頂点となった。
彼らは好意的だった他種族まで踏みにじって文明を築き、すべてを征服、管理していった。
それに対抗し、自分の縄張りを守るために立ち上がった者達を人間は「魔物」、あるいは「魔族」と呼んで弾圧して追い払った。
最初から彼らに自分達との共存を考えてくれる優しさも、包容力の欠片もなかったというのがフリーン様からの人間に対する評価。
フリーン様は人間のことを「ウイルス」と同じものだと言いました。
「他の生物を破壊しながら生きる生物なんて人間とウイルスしかいない。
人間はある意味で「魔神」なんかには比べ物にならないほどの大災害だ。
正直に言って私は人間なんてさっさと滅んでしまえと思っている。」
っと人間その自体への嫌悪を如実に表すフリーン様。
それでもまだ見ている立場にいるのはちょっとした未練が残っているからだと彼女は小さい声で呟いたのです。
「マミ、お前はお前の人生を生きろ。こんな腐った世界のためにお前自身を犠牲にする必要は微塵もない。
お前にはただこのつかの間の幸福を謳歌して欲しいのだ。」
そしてフリーン様はそう言いました。
自分から見たら人間の生なんて儚くて一瞬に過ぎないあっという間の短い時間。
ただでさえ短いその大切な時間を自分の幸福のために使え。
あの頃のフリーン様、私の先生は実の親以上の愛情を私に注ぎ込んでいたのです。
でもだからこそ私はそう思ってしまったのです。
このままでは未来は変えられない。世界は変わらない。
この星に住んでいる皆の悲しみや苦しみが絶えることなくいつまでも続くだけ。
こんな世界を自分の子供達に譲ってあげられるのか。
だからこそ私は旅立つ必要があったのです。
この世界を変化させるために。よりよい世界にするために。
「グレートフォル」から帰ってから私は早速「聖王庁」のマリアちゃんと「帝国」でプロのテニス選手として活躍しているゆうくんに手紙を書いて自分の決意を伝えるようになりました。
全てはフリーン様には内緒にして隠密行動として行ったつもりでしたが多分あの頃のフリーン様はすでに全部知っていたと思います。
多分ですが…
そしてゆうくんは私のことを全面的に支持、マリアちゃんは
「大丈夫かしら…」
一時的に不安な反応でハラハラさせましたが
「付き合ってやるよ。あんた一人だけじゃ心配だから。」
最後の最後には保護者という名目で私の旅に同行してくれることになりました。
決行は大学の卒業式が終わった直後。
私はその日を普通の自分と別れる日と決めたのです。
でもそれは同時にフリーン様の生徒からの卒業の意味も含めていたので私はやっぱり憂鬱だったのです。
結局自分はフリーン様の希望にそむけてしまったのですから。
それでもその時は行くことしかない、そのことで頭がいっぱいだったので他のものは何も考えないようにしました。
それから私は真面目に大学に通いつつこれからの計画を立て始めました。
まずは開拓という名目で征服活動を続けている「グレートフォル」をなんとかする。
そして少しずつ魔族と人間がお互いのことを分かり合えるように自分がうまく取り持つ橋渡し役となってこの世界の平和のための一役を担おう。
そのためには同じ志を持った仲間が必要。
まずは仲間探しから始めよう。
そう思っていた私の前に現れた一人の少女。
「お姫様…ですか?」
卒業を目前にしていたたあの頃、街はある噂で大騒ぎになっていました。