第2章「バージンロード」第26話
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「黒江マミ」。
結婚した時は「凪マミ」という名前を使いましたが自分は由緒正しい「魔術師」家柄の娘として生を受けました。
でも実家は南大陸のある田舎で農業に励む普通な農家で自分が「魔術師」であることにも気づかないまま成長しました。
両親が私のことを普通な乙女として育てたかった理由。
それは「魔術師」は災害をもたらす存在と人々に恐れられていたからです。
この世界の覇権を握っている「帝国」は魔術が、特にそれを自由自在に使いこなせる「魔術師」のことを脅威とみなし、常に排斥してきました。
私の先祖も「帝国」による「魔術師狩り」で災いを被り、生き残った人達だけで故郷の東から離れて南の方へ逃げました。
私の大切な後輩、「環八千代」ちゃんが「オーバークラス」になってからは少しマシになりましたがそれでも未だに「魔術師」が人々に避けられる存在には変わりありません。
私は自分の「魔術師」としての自我に目覚めたのは中学校に入る直前の頃。
突然街に現れた一人の「エンシャントエルフ」、「フーリン」様は
「お前さん。「魔術師」なんだね。」
一目で私のことを見極め、私の中に眠っていた「魔術師」の自覚を目醒したのです。
「もういないと思ったんだがこんなところにいたとはな。」
初めて見る「エルフ」。
金色のきれいな髪の毛を風になびかせる初めて見る異種の存在に私は見惚れてしまい、同時に彼女に自分の存在についてもっと話が聞きたかったのです。
大きな旅行用のキャリーケースを持ってその真っ青な目で私と向き合ってくれた背の高い神秘的な女性の人は
「いいだろう。特別に教えてやろう。なにせ「魔術師」なんて久しぶりだからな。」
喜んで今まで隠れていた私の素性について教えてくれたのです。
彼女こそ後に私の先生となる「フリーン」様でその頃、私は彼女の弟子になっていました。
「そうだったんだ。」
自分が「魔術師」であることを話したのは幼馴染であり、将来私の旦那様となる「凪雄一郎」くんだけ。
灰色の髪の毛が凄く魅力的なゆうくんは最初にはすごく驚いたのですが
「大丈夫。僕は来年から「帝国」で留学する予定だけどそんなこと全然気にしないから。
マミがどんな人であれマミがマミであることに変わりはないよ。」
優しいゆうくんは私のことを偏見なくありのままで受け入れてくれたのです。
当時テニス界のスーパールーキーとして注目されていたゆうくんはその来年に「帝国」に留学しに行きましたが私とゆうくんはそれからも貿易業に携わったゆうくんのお父さんのおかげで割りとよく会えたのです。
フリーン様は私に色んなことを教えてくれました。
魔力の使い方、魔術理論など「魔術師」として必要なことは全て教えたつもりだと彼女はそう言いました。
「お前は特別だ。今まで何人か弟子はいたがその中でもお前の存在はダントツだぞ。
お前なら「オーバークラス」になることすら造作もない。」
っと私には「魔術師」としての才能があると言ったフリーン様。
「まあ、あんなもんろくなもんじゃねぇけどね。」
でも彼女はなぜか「オーバークラス」という存在に対しては大分懐疑的な態度を取っていました。
「もし本物の「魔神」が出たらあんなもん一瞬で吹き飛ばされてしまう。
「オーバークラス」だけで魔神の相手をするのはまず無理な話だ。」
数々の国々と大勢の犠牲、そして12人の「オーバークラス」が全員いてからこそやっと食い止めることができるという陣地を遥かに越えた存在「魔神」。
その手を一度振り回すだけで地図が書き換えられてしまうという話は決して洞話ではないということを自分の目で魔神を確かめたことがあるフリーン様はよく知っていました。
「あれを理解しようとはするな。言葉は通じるが全く分かり合える存在ではない。
特に4代目の「マックイーン」に至っては論外。あれは臆病で救いようのないポンコツのクズだがそれ故に手段を選ばないからむしろ手強い。」
っと当然「魔神」についての授業もフリーン様は欠かさなかったのです。
初代魔神「鋼鉄の王」「ヘイロー」。
2代目「|万眼の深淵」「テラ」。
3代目の「怪鳥」「パサ」と4代目の「泣く箱」の「マックイーン」まで。
長生きするエルフである故、フリーン様はその全員のことを見たことがあるらしいですが特に危険だったのは初代と4代目だったと言いました。
「初代の時は「オーバークラス」すらいなくてマックイーンの時は「オーバークラス」の大半が全滅したからな。」
魔神のくせに人質を取る反吐が出るほどゲスなやつだとフリーン様はマックイーンのことをそう表現しました。
「あんな連中に命がけで立ち向かう「オーバークラス」は実に愚かな存在だ。
魔神に滅ぼされるのならそれもまた純理。少なくとも「エルフ」である私はそう思っている。」
だから「エルフ」は「葬送」の存在と言われている。
星の最後を見届け、送ってあげることが使命だとフリーン様は少し寂しそうな目をしていました。
「マミ。決して世界など救おうとするな。お前は自分の人生を生きろう。
もしそれができないのならー…」
お前はもう私の弟子ではない。
フリーン様は何度も何度も私にそう言い続けました。
町から少し離れた森の小屋でしばらく生活することにしたフリーン様。
彼女はエルフでしたが薬草や医学にも詳しかったのでよく町の人達の治療をしてくれたのです。
その見返りとして町の人達は彼女に食べ物や生活に必要な品物を提供し、うちの両親もまた彼女にお世話になったことがあって畑で取れた野菜などを彼女に送ったりしたのです。
フリーン様は特に私のことを気に入ってくれて授業は基本無料でその時に必要なものを求められるくらいでしたがそんなに大したものは欲しがらなかったと思います。ものに対しては結構無頓着でしたし。
あとお酒も一切飲まなくて今思えば結構退屈な人でしたよね。
私が学校に行っている間には一人で研究や本ばかりで唯一の趣味と言っても偶に町から仕入れられるコーヒーを飲むこととガードニングだけ。
エルフの性格上あまり友達を作らないタイプで遊びにくるのはゆうくんだけでしたがフーリン様は特に寂しそうには見えなかったのです。
田舎でののんびりしたのどかな人生。
私はたとえ自分が魔術師であることが分かってもそれで何か成し遂げたいとは思わない小市民的な考え方の持ち主でした。
フーリン様の授業を受けたのはただ自分の魔術師としてのアイデンティティーを忘れないため。
だからそのまま普通な人生を送る予定だったのです。
やりたいことをやってもし受け入れてもらえるのならゆうくんのお嫁さんになりたい。
子供は可愛い娘がいい。
フーリン様はいつか町を離れて度に出ると言いましたがそれまではずっと一緒にいたい。
田舎で家族皆でこうやってのんびり暮らすのもそんなに悪くはないと私はずっとそう思っていました。
そんな私の考えが変わったきっかけになったのは
「お前…「魔術師」だな…」
マリアちゃんとの出会いだったのです。
きれいな金髪。ガッツリした強靭な肉体と鋭い眼光。
一目で分かるほど尋常ではない凄まじい殺気をまとった「聖王庁」の修道服を来た「シスター」の少女。
傷だらけになって森に身を潜めていたその少女は私に剥き出しの敵意を向け、速やかにそこから離れることを命じました。
「ここにもいたのか…見逃してやるから早く失せろ、「異端」。」
っとその一瞬で私の「魔術師」という素性を見極めて今回だけは助けてやると自分の目の前で消えることを言いつける少女。
彼女こそ「聖王庁」神聖部隊「クライシスター」の元異端審問官、私の友人「阿見真理愛」ちゃんだったのです。
「怪我…したのですか?」
「さ…触るな…!異端が…!」
でも目の前に怪我人をおいておめおめ退くはずがなかった自分は無理矢理にでもマリアちゃんに怪我を見せてもらって
「私、回復魔法は未だにうまく使えませんがフーリン様ならきっと治してくれるはずです!」
「ど…どこへ連れて行く気だ…!お前…!」
ひっかきながら暴れる子猫のように抵抗するマリアちゃんを無理矢理に担いでフーリン様の小屋まで連れて行ったのです。
途中で何度も殴られて着いた時には
「ひでぇつらしてんな、マミ。」
もう顔もめっちゃくちゃになっていてとにかくひどい目に遭ったんです。
最初は私とフーリン様のことを異端と必死に抵抗したマリアちゃん。
でも私達に危害を加える気がないということが分かった後には少し大人しくなって割りとすんなりと治療を受けてくれたのです。
「お前さん、普通の人間ではないな。」
っと私の時と同じくマリアちゃんのことがただの人間ではないということを治療の途中で分かったフーリン様。
フーリン様はマリアちゃんが古に滅びた「悪魔」の遠い子孫だと説明しました。
「常人なら特に死んでもおかしくないほどの深手。体に流れている微弱な黒い魔力。
彼らと同時代を生きていたものとして私には分かる。」
「帝国」によって滅ぼされた数々の種族。
その中で特に強大な力を持っていたと言われている種族がマリアちゃんの素性である「悪魔」だとフーリン様はそう話しました。
「お前さんこそ異端ではないか。聖王庁が最も否定している負の種族としてな。」
その時、マリアちゃんはそう言っているフーリン様に何か言い返そうとしましたが
「自分のことを肯定するために私達のことを異端と貶し、弾圧しようとしているのか。
健気なことだ。」
結局マリアちゃんは何も反論できなかったのです。
それからマリアちゃんはなんとか歩けるようになるほど回復し、しばらくフーリン様のところで一緒に暮らすことにしました。
マリアちゃんがお医者さんの夢をみるようになったのがあの頃だと私はそう思います。
でもその時、夢ができたのはマリアちゃんだけではありませんでした。
「この世界はもうすぐ終わる。」
マリアちゃんから話してくれたこの世界の真実。
それを知った時、私はフーリン様にも黙って密かにこの世界のために何かがしたいとそう思うようになったのです。