第1章「アイス、要りませんか?」第25話
いつもありがとうございます!
「図書館ですか?」
「はい。」
翌日、私とマミさんは昨日のこともあって一日休むことにして街に出かけることにした。
「どこか行きたいところとかありますか?ヤヤちゃん。」
っと目当ての場所でもあるのかと聞くマミさん。
私は最初に行きたい場所として昨日事前に考えておいた図書館を提案、
「ヤヤちゃんは本当に本が好きなんですね。分かりました。」
マミさんは快く私の希望を受け付けてくれた。
「じゃあ、後で一緒に買物に行きましょう?さすがにお洋服がメイド服一着というのはなんですから。」
「…これ、マミさんからもらったんですけど…」
っと言っているマミさんだが本当はただ私とお買い物がしたいだけであることは承知の上である。
実は昨日カノンさんと別れる前に彼女とこういう話をしたことがあって
「あのね、ヤヤちゃん。先輩って結構寂しがり屋さんだから偶にでもいいからちょっとだけ付き合ってくれない?」
「はい。もちろんですよ。」
私はできる限りマミさんと一緒に同じ時間を過ごそうと思っている。
どちらかというと本当は一人の方がずっと楽で気楽だが
「行きましょうか。」
「はい。」
私はやっぱりマミさんと一緒にいる時が一番楽しい。
「ところでどんな本が見たいんですか?」
「そうですね。」
ヒルリスの中央図書館はこの当たりで一番大きな図書館で「連合」に属している町の中でも指折りで数えられるほど大きい。
そしてここにはなんと
「ええ…!?私達の活動記録ですか…!?」
あの頃、マミさん達、つまり「バージンロード」の記憶が残されている。
先日、本屋でカノンさんの記事を呼んでふと昔のマミさんのことに興味を持つようになった私。
マミさんは特に大したことはないと恥ずかしながらそう言ったが
「でも私はやっぱり知りたいです。昔のマミさんは、カノンさん達はどんな人でこの世界のために何を成し遂げたのか。」
私は知りたい。
どうしてマミさんはこんなに優しくて強くいられるのか。
単に私は自分が好きなマミさんとその仲間達が知りたいかも知れないがとにかく私はマミさんが過ごしてきた足跡を辿ってみたいと思っていた。
「そんなに楽しいお話でもないのに…」
っとマミさんはなんだか小っ恥ずかしいって言ったが
「分かりました。ここの図書館になら確かにあの頃の記録が綴じられているかも知れませんね。」
それでも結局私のワガママを聞いていくれるいつもの優しいマミさんであった。
「でも私はヤヤちゃんにはもっと楽しい本を読んでもらいたかったんですよね。
絵本とか、おとぎ話とか。」
「…マミさんは私のことをどんだけ子供に見てるんですか…」
確かに絵本も、おとぎ話もすごくいいお話ばかりで習うことなんていっぱいあるけどどうやらマミさんの目から見たら私はおよそ5歳児くらいらしい。
本当どんだけ私のことを子供だと思ってるんだろ、この人…
あんな感じでなんとか図書館まで来たわけだが
「きゅ…休館…」
「あはは…」
今日に限ってまさかの休みだなんて…
「ついてない…」
「げ…元気出して…ヤヤちゃん…」
っとマミさんからの慰めが聞こえないほど凹んでいた私。
そんな私に
「代わりって言ってもなんですけど良かったら私が話してあげましょうか?」
自らあの頃の話をしてあげると言い出してきたマミさん。
その時、私はマミさん自らあの頃の話を聞かせてくれるということに大きな戸惑いを抱えるようになった。
確かにマミさんと「バージンロード」はこの世界を何度も危機から救い出してマミさん自身もそのことを誇らしく思っている。
だが突然の解散とヤチヨさんとの一件、そしてマミさん自身が抱えていた皆への申し訳無さ。
その全てが大きな壁となってマミさんの謝りへの道を防いでいた。
だからこそこの話題はマミさんにとってご法度であまり触れたくない痛いところだと思って私なりに調べようと思った。どうせ聞いても話してくれないし。
だったらせめて本で調べられるものだけでも知っておかなきゃと私はそう思っていた。
なのにまさかマミさんが自分から自分の話をしようとするとは。
「まあ、別にその話題を避けていたわけではありませんから。
というか私、ちょくちょく話さなかったんですか?」
「それはそうですけど…」
あまりにも驚いている私の反応が少し複雑に感じられたのか特に昔の話を遠ざけていたわけではなかったという意思を手始めに表すマミさん。
でも詳しく話すことに迷いを感じていたこと自体は否定しないと彼女は私に正直な気持ちを聞かせてくれた。
「だとしてもあまり自慢できるような話ではありませんから。私達のことを「勇者」と呼ぶ人もいましたがそんなに偉そうなものではありませんでした。
実際私達はなるべく話し合いなどの平和的な手段を講じましたがつまるところ私達がこの世界のためにやったのは一方的な暴力、つまり虐殺ですから。
私達は何も分からなくて分かってあげられなかったんです。」
その上、大切な後輩達、特にヤチヨさんとの仲も悪くなったこともあってなるべくその話題には触れないようにしたというマミさん。
マミさんは自分のやってきたことは何一つこの世界のためにはならなかったとかつての自分の行動を悔やんでいた。
「だからこの商売を止められないんです。私のアイスでちょっとだけでも皆が笑顔になってくれたらなって。」
っと少し寂しそうなマミさんの苦味の笑み。
私はその顔が何故かあまり見たくないような気がした。
だからこそいつか私に一度ちゃんと自分の教えてあげることをずっと考えていたというマミさん。
マミさんはいつかお別れになった時、私に自分のことを覚えてもらいたいと自分だけの小さな希望を明かしてくれた。
「ヤヤちゃんにも、テラさんにも覚えて欲しいんです。
私という人がこの世界にいたって。より良い世界のためにちょっとだけでも働いたって。」
ほっぺを掠る冷たい風。
その中に溶け込んでいるマミさんの寂しそうな気持ちに一瞬触れた瞬間、
「ヤヤちゃん?」
私は思わずマミさんの手を握ってしまった。
「あ…」
自分にも驚いたとっさの行動。
でもその時に感じたマミさんがどこかに行ってしまいそうなその不安がどうしても耐えられなかった私はそうせざるを得なかった。
「大丈夫ですよ。」
そんな私の不安に気づいたようなマミさんはただそう言いかけたながら
「ヤヤちゃんの傍にはずっと私がいますから。」
ただその温かい手で私の頭を撫で下ろすだけであった。
その手に何の保証もついているわけではなかったが
「…はい。」
私はその魔法のようなずっと一緒にいようとという一言を子供のように信じ込んでしまった。
そんなに煙たがっていた過去の話を私にしようとした決心が付いた理由を聞いた時、
「だってヤヤちゃんがマミーのことをこんなに熱心に知ろうとしてるんですもの。
私もそれにちゃんと応えなきゃ。」
マミさんはそうやっていい加減自分とも向き合わなきゃっと本音を明かしてくれた。
それが嬉しくて急に照れくさい気分になる私のことをマミさんはただひたすら愛に満ちた目で見つめるだけであった。
「アイス、要りませんか?」
そしてマミさんのバッグから出た冷たいアイスと共に話が始まった時、私はまた自分には想像もできない偉大なる黒の魔術師とその仲間達の壮大で生々しい叙事詩に触れることができたのであった。