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異世界アイスクリームおばさん  作者: フクキタル
第1章「アイス、要りませんか?」
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第1章「アイス、要りませんか?」第24話

いつもありがとうございます!

その後、結局この地下墓地には現在「首無し」のドラゴンが住んでないということがカノンさんによって判明され、今日の予定は終了することになった。

あったのは竜が使ったと思われる大きな空き巣と幼体の割れた卵の殻や抜け殻だけで竜は少なくとも30年以上ここを空けているというカノンさんの話。


「おそらく「連合」が作られてからどこかに身を隠したと思う。

人が集まればきっと自分の命も危うくなってしまうから。」

「なろほど…」


っとカノンさんはここの報告も兼ねてまず「連合」の中央政府へ向かうと手始めに私達に行き先を教えてくれたがそれはおそらくマミさんに自分と一緒に行ったらどうかという提案の言い回しであることを私はなんとなく察していたのであった。


「そうですね…」


っとマミさんは少し考え込んだが


「でも私は今回だけは遠慮させてもらいます。」


結局カノンさんと一緒に「連合」の中央政府、つまり「バージンロード」の「(さざなみ)珊瑚(さんご)」さんのところへ行くことを見送ることにした。


「でもサンちゃんに会いたくないって意味ではないんです。

私は「バージンロード」のことや昔のことで皆にちゃんと謝りたいし仲直りしたいです。」

「だったらなんで…」


っとその意味を聞くカノンさんの言葉に


「なんかマミさん…私のことを見ているような…」


一度こっちを向いた後、


「私、今はヤヤちゃんのことを優先したいです。

世界を回ってたくさんのことに触れて楽しい思い出をいっぱい作って欲しいです。」


今はただ私のために旅を続けたいという意思を示すマミさん。

マミさんは生まれてから楽しいことなんて何一つもなかった私のことをずっと気にかけていたのであった。


あのトンネルから出たやいなや面倒なことに私のことを巻き込ませたくなかったマミさん。

ただでさえこの前、私が魔女の大軍団を相手にあんな大技を使ったせいでなるべくそういう危険に私のことを晒したくないというマミさんの言葉に


「もう…分かりましたよ…」


カノンさんは一緒にサンゴさんのところに行くことを観念した。


「でもこれだけは約束してください。何があったら必ず報告し、連絡して相談するって。」

「ほうれん草ってやつですね?もう立派な社会人ですね、カノンちゃんもー」

「だ…だから子供扱いはもう止めてくださいってば…!」


っと「偉い偉い」と自分の頭をなでつけるマミさんの手を一生懸命拒むカノンさんだったが


「もう…」


その温かくて優しい手が満更でもなさそうだと私は薄々そう感じてしまった。


「それじゃ、私達はここでお別れのようね。」


そろそろ事務所に寄って旅支度しなければならないというカノンさんは私とも最後の挨拶を交わそうとした。


「はい。今日は本当にお世話になりました。」

「そんなにかしこまらなくても良いのに。」


っと私に和やかなほんのりした笑みを向けてくるカノンさん。

夕暮れに照らされてキラキラ輝くカノンさんのことがあまりにも眩しくてまともに見られなかったがそれでもその優しい気持ちだけはちゃんと伝わってくる。

私はそういう温かさに包まれていた。


「私こそヤヤちゃんに会えて本当に良かったの。ヤヤちゃん、なかなかの逸材なのに本当にもったいないと思うんだけど。」

「ど…どうも…」


まだ諦めてないんだ…


でも私のデビューの件をさておいても今の彼女が私とマミさんとの別れを寂しがっているのはよく分かる。

それだけ彼女は私とマミさんのことが好きということであったが


「ちょっ…何泣いてるんですか…」

「だって…カノンちゃん、もういないんですから…」


寂しがっているのはきっと彼女だけではないと私は本気で泣いているマミさんを見て分かるようになった。


「もう…すぐ泣いちゃうんだから…」


マリアさんとの別れの時と同じく完璧なギャン泣きになって涙が止まなくなったマミさんとそんなマミさんのことに非常に困っているカノンさん。

物事に対して冷静で落ち着いている態度を見せつけるマリアさんと違って初々しくて素直なカノンさんのことは私に同じ「オーバークラス」であっても色んなタイプがあるということを教えてくれた。


「まあ、あの人とサンゴは私達とは生きてきた世界が違うから。よほどのことではない限りびくともしない鉄人みたいな人なの。」


自分の知っている限り死際にすら全く動じなかったという鋼のメンタルの持ち主。

それこそ自分が覚えているマリアさんという人の実在とカノンさんはその恐ろしさに慄いてしまった。


「こんな人だけど先輩のこと、頼んでもいいかな。ヤヤちゃん。」


っと泣き続けているマミさんを宥めながら同時に私にマミさんのことを見守って欲しいとお願いするカノンさん。

私は当然そうすることを約束し、むしろこちらから色々ご迷惑をお掛けするかも知れないと言ったが


「いや、むしろヤヤちゃんだから頼みたいのよ。だってヤヤちゃんの方がずっと大人っぽいもの。

絶対まともな大人じゃないよ?この人。」

「ふぇぇ…なんですか…マリアちゃんも、カノンちゃんも…」


いつも勢いだけで物事をあまり深く考えないマミさんより私の方がずっと大人っぽいというカノンさんの話を聞いた時はとにかく気分が複雑すぎてなんとも言えなかった。


今回は実にいい経験ができた。

カノンさんに出会って一緒に地下に入ってたくさんお話ができて


「元気でな。依代の娘よ。」


初めて神様であるヤクモさんに触れてしかも私達のような「依代」が生き延びるための術も教えてもらった。

何よりマミさんのことについて前よりもうちょっと知ったような気がしてそれが一番嬉しい。

そう思っている私にマミさんはただ


「お腹すきませんか?ヤヤちゃん。」


いつもの温かくてほっとする笑顔を向けてくれるだけであった。


テラとヤクモさんは特に話し合ったりすることはなかったがお互い体を借りている境遇として何気なく互いのことを理解しているみたい。

だからこそなお二人は言葉で語ることではなく、その眼差しでお互いのことを理解し合っていた。

それはおそらく私とカノンさんのような普通な人間には分からない感覚でただそういう類の存在しか分かち合えないものであることを私はなんとなく察するようになった。


「これ、私の名刺。」

「…本当にまだ諦めてないんですね…カノンさん…」

「当然よ。ヤヤちゃん、なかなかの掘り出し物なんだから絶対逃さないわ。」


っと私に「ムーンライトアイランド」所属のスーパーアイドル「カノンちゃん」の名刺を渡すカノンさん。

私は彼女のビジネス精神を改めて見上げるようになったが


「何かあったらこっちに連絡してね。私がすぐ行くから。」


これもまた彼女の優しい気遣いのうちってことが分かった時はなんでマミさんが「バージンロード」の一員として彼女を選んだのかあの時の心境を少し分かるようになった。


「そういえば「カゴメ」ちゃんは元気なんですか?」


っとふと思い出した誰かの安否をカノンさんに確かめるマミさん。

彼女こそ世界救世プロジェクト「バージンロード」の一人、「オーバーヒート」の「漣珊瑚」さんといつまでも闇の存在として生きるはずだった忍集団「霧隠れ衆」を表世界へ導いたきっかけを与えた人だとマミさんの私にそう説明してくれた。


「「一ノ瀬(いちのせ)カゴメ」ちゃんというお名前で「連合」樹立の立役者の一人である「一ノ瀬(いちのせ)柊弥(とうや)」さんの娘さんです。

おっとりしてとても可愛らしい女の子なんですよねー」


自分にもすごく懐いてくれた子だから大好きというマミさんの言葉になんとなくいい人ということだけは分かるような気がしてくる。

でもちょっとだけお偉い家柄のお嬢様ということだけでどうやってあの「霧隠れ衆」の忍達を変化させることができたのかは謎だった私は早速その答えを求めて、


「あ、それはね?」


既に「マミーモード」全開のマミさんの代わりにカノンさんがあの辺の説明を加えてくれた。


「実は昔その「一ノ瀬柊弥」さんのことを脅すためにサンゴがカゴメちゃんのことを攫ったことがあってね。

あの時に完全に感化されて。」

「可愛いけど心の強かな子なんですよ、カゴメちゃん。」


今はサンゴさんの伴侶になって彼女を支えているというカゴメさん。

「バージンロード」の時、マミさんのことを将来のご主人となる凪さんが支えたようにサンゴさんにもカゴメさんという大切な人がいたというのがどれだけロマンチックだったのか。


「…お前にもできるぞ、ヤヤ…」

「な…何よ…急に…」


そんな私の気持ちがまる見えているテラは焦らなくてもいつかそういう運命的な出会いが訪れると私にそう言ってくれたがそれがなんだか小っ恥ずかしくなった私はあんな風に自分の感情をあやふや誤魔化してしまった。


「可愛い照れ隠ししちゃってーヤヤちゃん、本当に可愛いんだからー」

「そうですねーまるで昔のカノンちゃんみたいですごく可愛いですー」

「べ…別にそういうんじゃないですから…!」


ツンデレ…


でもまるで自分は私の大切な存在にはなれないというテラの言葉。

それがどうしても気になった私はもう一度今の言葉の意味を聞こうとしたが結局何も聞き出せなかった。

こんな悩みをしているのがバカバカしく思われるほどあまりにも静かでいつも通りのテラの心。

小さな波紋も起きない湖のようにこの瞬間でさえテラはいつか訪れる私との別れを当然なものとして受け入れていた。

私はそれがなんだか寂しくて少しだけ悲しくなってしまったがその気持ちさえ単なる一時の苦い思いだけと密かに自分の中だけに溜め込んでおくことにした。

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