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異世界アイスクリームおばさん  作者: フクキタル
第1章「アイス、要りませんか?」
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第1章「アイス、要りませんか?」第22話

いつもありがとうございます!

「自分の身を第一として考えること…ですか。」

「ああ、そうだ。」


二度に渡った「連合」探検隊による遠征で無事に確保できた10階までのルート。

そこに至るまで私は特にカノンさんの守り神である「稲荷八雲」さんと色んなことを話し合ってその中で彼女が最も強調したのはいつだって生き残ることであった。


「依代は脆い。すぐ壊れて使えなくなってしまう。取り憑く立場としてまた適合者を探すのはなかなか骨が折れる仕事だからな。」


種類によって依代が死亡する場合、その死に伴ってそのまま消滅するタイプもあるがヤクモさんやテラのように特殊な個体の場合はまず消えることはないらしい。

テラの場合は魔書に封じられてそのまましばらく仮眠状態となって動けなくなる。

その後、何かのきっかけでもない限り決して起き上がることはない。

そしてそのきっかけというのが偶然でも現れる適合者、つまり私のようなテラの魔力の波長にも耐えられる依代ということだ。


「魔神は各自特殊な魔力波長を持っている故、それに合わせる身でない限り一瞬体に宿すだけで魔力崩壊によって全身が崩れてしまう。その点、お前の場合は極めて特殊なケースとも言えよう。

大体魔神を体に宿した生き物なんて今まで見たこともないぞ。」


っ彼女は私にすこぶる興味を持ったが肝心なテラの方はさほど気にしない様子であった。

それがまた珍しかった私はテラの方に


「大丈夫?あっちの神様ってあんたのこと、あまり気にしていないようだけど。」


っとこっそり話したが


「…構わん…どうせ「こちら」から「あそこ」に干渉することはできない…」


それはテラの方も同じだったようだ。


魔神と言ってもその実在は確かにこの地に存在していた人間、あるいは亜人。

だから魔神はあくまで「こっち」の存在でヤクモさんのような「向こう」の存在ではない。

実際魔神は「オーバークラス」によって討伐され、封じ込められるがヤクモさんにはそれができない。

逆にヤクモさんの場合は大前提として常に依代を伴わなければならないが魔神の場合は条件さえ満たせば独立で存在し、行動することができる。

それがヤクモさんとテラの決定的な違いであった。


「なかなか賢いのではないか。」


その違いに気づいた私のことをなかなか見込みがありそうだと彼女は褒めてくれて


「…ああ…ヤヤは賢いぞ…」


どうやらうちの雇い主、もしくは保護者も鼻が高くなったようだ。

というかなんであんたがドヤってんのよ。


「そうなんです!ヤヤちゃんは賢いですよ!」

「…なんで先輩が得意気なんですか…」


そしてもう一人の保護者であるマミさんもまた自分の子供が先生に褒められたようにすごく喜んでいて


「は…はずい…」


それがすごく小っ恥ずかしくなる瞬間であった。


「ちょっと休憩して行きませんか?そろそろ疲れてきましたし。」


この辺で休息を挟んでいくことを提案するマミさんの言葉。

それに応じて私達はこの広い墓地のどこかに腰を下ろしてつかの間の休息を取ることにした。


「はい、ヤヤちゃん。マミー特性のバニラアイスです。」


っとバッグからアイス一つを取り出して私に渡してくれるマミさん。

一口だけでほっぺがとろけそうな甘みと心地よい冷たさにここまで歩いてきた疲れが一気に取れるような気がする。


「いつ食べても美味しいですよね、これ。昔にもよくこうやって皆で食べたっけ。」

「そうですねー懐かしいです。」


そしてその味はカノンさんの大切な思い出を呼び寄せてあの頃の記憶をもう一度振り返る機会を与える。

久々の思い出に浸って笑い合うカノンさんとマミさんの距離が先より縮まったようで私は内心嬉しくて一人でこっそり微笑むようになった。


そして私はこう思った。


「マミさんがこの仕事を続けている理由、ちょっと分かったかも。」


今の私が感じているこの気持ちはきっと自分のアイスを食べて笑顔になっている皆のことを見た時のマミさんの気持ちと同じだろうと。


「どう作ったらこんなに美味しくなるんですか?もうそろそろ教えて下さいよー」


っと作るコツを教えてもらいたいというカノンさんに


「そうですねーやっぱりいい素材と愛情なんでしょうかね。」


マミさんは快く営業秘密を明かしたが


「私…♥カノンちゃんのことを想うとこんなに()()が出ちゃうんですよ…♥

もうビショビショになっちゃうほど…♥」

「な…なるほど…」


その隠し味だけは決して真似できないと私は本能的に気づいてしまった。


「でも変ですよね。」


その時、アイスを食べながら何かおかしいと自分の考えを述べるカノンさん。

カノンさんは


「私の予想が正しければそろそろ何か出てくるはずだったんですが未だに魔物どころかネズミ一匹も見当たりません。

いくら「オーバークラス」が二人もいても領域を侵犯されたら何か仕掛けてくると思ったんですが。」


っと既に確保済みの10階を越えたにも関わらず何も出てこないことに少しずつ疑問を抱くようになっていた。


「こういう場所というのは深部に近いほどより凶暴なんだからね。

実際最深部辺には「首無し」の竜がいるらしいし。」


生物の頂点の一つである「(ドラゴン)」。

その中で「首無し」は分類上「魔王」よりは少し下だが単独で小さな国くらいなら問題なく滅ぼすことができる極めて脅威的な存在である。

種類によっては「オーバークラス」並のとんでもない怪物が出てくる時もあるらしい。

知性や理性がなくて無差別に襲ってくる個体もあって場合によっては「魔王」側から討伐に出ることもあるそうだが今回のように竜は非常に知能が高くて魔法が使えるのでむやみに襲ってくる可能性は低い。

実際この地下墓地は「ルーレンシア」文明期から存在してきたが一度も近くのヒルリスを襲ったことがない。

ということはお互いの領域を犯すことさえなければまずこっちから攻撃を仕掛けてくることはないってことだが


「「連合」は「帝国」に対抗するためにいくつかの弱小国が集まって成り立った連合国家なの。

もし一つでも「首無し」にやられてしまった国全体が危なくなる。

そのために危険因子は予め排除しておく必要があると判断したんだろうね。」


今カノンさんが言った通り「連合」にとって「首無し」はとてつもない脅威であり、大きくなる前に早いところ根絶やししておかなければならない「敵」であった。


そのために切り札として派遣される予定だった「オーバーヒート」のサンゴさんと「霧隠れ衆」忍さん達の代わりにカノンさんが来たわけだが今のところ私達の安全を脅かそうな脅威は見当たらないまま。

むしろいない過ぎて逆に不安になってきたところ、


「な…何!?この地鳴りは…!?」


突然周り全体が歪むほど大きな揺らぎが私達を襲ってきた。


巨大な地下墓地がまるごと振動するほど大きな揺らぎ。

その時、私達が一番恐れることは魔物ではなくこの地下墓地の崩壊であったが


「と…止まった…?」


まもなく揺らぎが止まってまた嫌な静かさだけが騒ぎの去ったこの地下墓地を埋め尽くした。


「これ…思ったより結構大事になってんじゃない…?」


完全にミスったって顔で早速急変した今の状況を見直したカノンさんは


「先輩…!予定変更です…!早速ヤヤちゃんを連れてここから…!」


っと至急ここから離れることを指示したが


「カノンちゃん…!後ろ…!」


その指示を最後まで聞くことは決して叶わなかった。


「くっ…!」

「ヤヤちゃん…!」


そしてその次に続く凄まじい風圧に私は今でも飛ばされそうになったが私の手を握ってくれたマミさんのおかげでかろうじて姿勢を保つことができた。


「な…なに…!?一体…!」


っと何が起きたのか現状確認をするためになんとか前を向いたその時、


「何…?これ…」


私は自分の目の前に立っているその黒い人影に言葉すら失ってしまった。


肌がヒリヒリするほど凄まじい殺気。

まるで獣のような唸り声と薄気味悪い吐息を吐き出しているその黒い形はその禍々しい赤い眼光で私達を見定めて右手の大きな剣を突き上げた。

そしてあっという間に私の全身を真二つに切り裂くために、頭をかち割るためにその剣を振り下ろした瞬間、


ーチリン…


カノンさんが飛ばされた闇の向こうから鈴の音がした後、黒い人影はその一瞬で氷の中に閉じ込められてしまった。


「びっくりしたじゃん…今の…」

「カノンちゃん…!」


そして闇の向こうから彼女の声がしてまもなくその中からすごく不愉快そうな顔のカノンさんが歩いてきた時、マミさんは私を担いで一気に彼女のところまで飛び上がるのであった。


まるで山が吹き飛ばされるような凄まじい一撃であったが


「大丈夫です…大した怪我ではありませんから…」

「そ…そうですか…良かった…」


彼女は自分の保護呪文の方が早かったと傷一つもついてないことを私達に知らせてくれた。

カノンさんの言った通り服は少し汚れてしまったが確かに大した傷は見当たらないことにほっとしたマミさん。

でも問題はこれからであることを私達全員はその黒い人影を見て身を持って実感していた。


「…これ…何だと思います…?」


っとまるで博物館に保管されている彫刻を見ているようなカノンさんは氷の中に封じ込んだその大きな人影への答えをマミさんに求めたが


「わ…私にもさっぱり…」


「オーバーマインド」と呼ばれるマミさんにもそれの正体をすぐ暴くのは多少無理だったようだ。


やがて氷の冷気が収まり、先よりはっきりその姿が私の目にも見えてきた時、


「「ヘイロー」…」


私の髪の毛にくっついているテラだけがそれの正体に気づくことができたのであった。

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