第1章「アイス、要りませんか?」第21話
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この地下墓地はここヒルリスを発祥地にする「ルーレンシア文明」の一部でその学問的な価値が非常に高く、未だに多くの秘密が隠されているがその殆どは既に「連合」の学者や調査隊によって判明されていると言われている。
だがこれから私達が向かう西のルートは今回新しく発見された未開拓地域でその調査の権限は全て「楪神社」の方に委任されているそうだ。
理由は簡単。
あそこの危険度が今まで以上に極めて高いからだ。
地下の毒気に適応し、進化した原生生物。
体内には触れるだけで肉がトロトロになってしまうほど強く毒が累積されていてその殆どが外からの侵入者に対して凄まじい警戒心を抱いている。
よって大半の生物は凶暴な攻撃性を持っていて無差別に襲ってくる。
そしてこの地下墓地の最深部にはその生物達の頂点、「首無し竜」が生きているそうだ。
「本来ならサンゴの「霧隠れ衆」の人達が派遣する予定だったの。忍法でもない限り対応が追いつくはずがないから。」
マミさんの魔術師と同じく現人類の中で最も強い人種と言われている「忍」。
そして彼らが駆使する人知を超える技「忍法」。
「帝国」と聖王庁は魔術師と同様、忍法を使う忍のことを「異端」と定め、この世界からずっと排除してきた。
そんな忍の技でもない限りここから生きて帰れないとカノンさんは今回の調査のことをそう言った。
初調査で派遣された第1調査隊は生き残りの二人を除けばほぼ壊滅、早速軍隊を含めた第2調査隊が派遣されたが結果はなんと全滅。
「連合」は「霧隠れ衆」にここの調査の依頼をする計画を立てていたがその時、ここの調査を自ら申し出たのが西大陸の覇者である「楪神社」であった。
そしてその調査のために派遣されたのが「オーバーフロー」のカノンさんという「楪神社」自慢の「オーバークラス」。
通常「オーバークラス」は単独で国滅ぼしができる人間兵器と言われ、この程度の仕事はカノンさんにとって市場に行ってくるお使いくらいの雑務に過ぎないらしい。
当然ドラゴン程度の魔物だって敵ではないらしいが
「私の仕事はあくまで調査と交渉だけで戦闘ではない。一応様子を見て話を聞いた後、上に報告するつもり。」
カノンさんはもし戦闘が始まったら町にも被害が及ぶため、できるだけ穏便にここを収めるつもりだそうだ。
でも重要なのはそこじゃない。
「え?話せるんですか?魔物と?」
一番驚いたのは彼女の魔物と会話することができるという異常の能力の方であった。
目に見えないあらゆる無形の存在に干渉できる「L'Arc」の「橙」。
その中で「音」という概念に触れることができるカノンさんは人間や異種族だけではなく「負の塊」と言われている魔物との会話もできる稀の人間であった。
それができるのは今まで魔女やエルフ以外にはないと私は本で知っている。
ドラゴン、ゴブリン、アンデッドまであらゆる魔物と会話できるカノンさんのおかげで「バージンロード」は無駄な争いは避けて問題を解決できたことも多々あるらしい。
彼女はその能力を活かしてここの主や生物達からここの調査の許可を取ることを図っていた。
「別に人間だけが特別な存在で何でもかんでも好きにしていいってわけではないから。
人間もまた自然の一部に過ぎなくて共存していかなければならない。お互いのことを少しずつ譲り合うだけで世界はより良くなると私はそう信じている。
もちろん同じ人間でも話が通じない人がいるように魔物にも同じことはあるし。
というか大体は襲ってくるからこちらとしても反撃せざるを得ないけどね。」
それは「楪神社」の教えだけによる考えではなくカノンさん自身が自ら見てきて感じてきた経験に基づいた思考。
彼女は今もその考えに変わりはないと強く自分の意志を貫いていた。
「私は孤児だけど一度だけオーガの夫婦に世話になったことがあるの。あの人達が私のことを拾って神社に、楠さんに託してくれなかったなら今頃道端で死んでいたかも知れない。」
戦争で両親と妹達を失い、廃墟となった町にたった一人になってしまった自分に手を差し伸べてくれた赤い肌のオーガ夫婦。
その夫婦は彼女に着るものと食べ物を恵んで知り合いの巫女に頼んで彼女に居場所まで与えた後、また山の中に消えてしまった。
「人間は人間の中で生きるべきだ。君は人間、私達は魔物。一緒に生きることはできない。」
っとその最後の言葉だけを残した後、夫婦は迎えに来た楠さんに彼女のことを渡してそのまま闇に消えて二度と彼女の前に現れなかった。
その時、彼女は思った。
「人と自然が譲り合い、笑い合いできる優しい世界を作ること。それが私の理想なの。」
誰も世界から見捨てられ、疎まれない世界が作りたい。
マミさんはそんな彼女の優しさに気づいて彼女を「バージンロード」の一員として迎え入れたことを私が分かるまでそう時間はかからなかった。
「私達が彼らをここから追い出す理由はない。彼らは昔からずっとここに済んでいるここの住民だから。」
できるだけここを荒らさないという条件で調査の許可を取りたいと言ったカノンさん。
そんなカノンさんのことをマミさんはただひたすら愛に満ちた優しい目で見ているだけー…
「もう♥カノンちゃんったらもうすっかり大人になっちゃって♥」
「ちょっ…!だからその子供扱いは止めなさいって…!って乳輪でっか…!」
ちょっとだけでもいいですから大人しくしてください、マミさん。
やがて地下に続く階段に足を踏み入れた時、私は全身に走り出す強烈な感情に思わず体を震えてしまった。
今まで経験したことのない未知なる世界。しかもカノンさんやマミさんのような「オーバークラス」ですら初めて見る「ルーレンシア文明」滅亡からずっと眠っていた忘れられた謎。
その未知の世界が今私達の前にその姿を表す。
「ひぃぃ…やっぱり怖いです…カノンさんにミルクあげないと落ち着きません…」
「だから先輩はもう帰ってもいいって言ったのに…というかさり気なく授乳挟んでこないでくださいよ…」
地下へ向かう私達。
暗いところが苦手なマミさんはずっとカノンさんの後ろに付いていて実に年長者っぽくないかも知れないが私はちっともそう思わない。
人にはそれぞれ苦手なものがあって私の場合はミントみたいなスーッとする味全般が苦手だがこれっぽっちもおかしいとは思わない。
結局人というのはそういうものだから。
「大人だねーヤヤちゃんって。」
「そ…そうなんでしょうか…」
「うん。こっちの胸だけ無駄に大きいダメな大人よりずっとマシよ。」
「ええ…!?」
っとカノンさんはマミさんのことを厳しく言うが本当はマミさんのことを心から愛していることが私には分かる。
そしてそれを知っているマミさんもまた彼女のことを自分の存在より大切に思っている。
私はこういう絆こそ「バージンロード」の原動力ではないだろうとふとそう思うようになった。
「ジメジメですね…それにめっちゃ臭う…」
「まあ、少なくとも千年近く放置されていたところだからね。その上、ここは元々墓地だし。」
「大丈夫ですか?ヤヤちゃん。気持ち悪かったりしません?」
っと私のことに気を遣ってくれるマミさんだが私はむしろこれくらいならマシな方だと思っているくらいだ。
初めて連れて行かれたところがあの「ブラックモーガン」の実験所で気色悪い光景ならあそこの方がずっと多かったから。
あまり思い出したくはないがあそこでのことで私はよほどのことでなければ驚かずに済むと自信している。
むしろ私のことより
「アバババ…漏れちゃいそうです…ど…どうしましょう…カノンちゃん…は…早く私のおしっこ飲んで…!」
「誰があんなもの飲むんですか…!」
パニックすぎたせいで錯乱まで起こし始めたマミさんの方がずっと心配になるくらいだ。
「だから帰ってて言ったのに!この足手まといのデカパイ成人!」
「もういやぁ…闇に乗じてカノンちゃんにミルクを飲んでもらおうとした作戦だったのに暗いのが苦手だったのは私の方だったことをすっかり忘れてました…」
何をどうすればそうなるんですか。
「はぁ…」
めっちゃため息…
「ヤヤちゃんは大丈夫?無理しなくてもいいよ?本当に。」
「いいえ。同行させて欲しいとお願いしたのは私の方ですから。」
っとカノンさんは私にあまり年頃の女の子に見せられうものではないと私だけで引き返すことを提案したが私は長年の引きこもり生活でチャンスだけあれば色んなことを見て回ろうと思っている。
元々探究心の強い性格でトンネルにいた時は新しい知識なんて本だけで十分だと思っていたがマミさんの出会いによって私の眠っていた世界への興味が目覚めてしまい、自分でもどうすることもできないほど心がワクワクしている。
無論今の自分には守ってくれる人がテラ以外にもこんなにたくさんいろという安堵によるただの興味本位の気持ちかも知れないが私はやっぱり自分の知らない場所や分野に触れて世界を広める感覚が大好きで仕方がない。
テラはこんな私のことを学者に向いているかも知れないと言ってくれて私ももし機会があればもう一度学校に行って勉強したいと思っている。
「着きましたよ、先輩。1階です。」
ついに階段を下り終わった私達は第1調査隊と第2調査隊の犠牲によって確保できた地下1階。
ここから10階までは何もなく進むことができるとカノンさんは無くなった調査隊のために祈りを捧げた。
肌に張り付くジメジメな湿気と真っ暗な闇の中に溶け込んだ何か腐るような異臭。そして一気にかかってくる妙な危機感。
地上では味わえなかった不穏な不思議さに私はまるで別の世界に引き離されたような感覚に包まれてしまったが
「なんか近づきませんね…」
結局私達の前に現れる生物はなかった。
私は一瞬自分の中にいるテラのせいだろうと思ったが
「いや、おそらく私と先輩のせいだと思う。」
こういうことに慣れているカノンさんは今の現象についてこう説明してくれた。
「魔神には特有の魔力的な特徴があって自分と何らかの関係がある人でなければその存在に気づくことができない。その巨大さにも関わらずね。
だから何も近寄らないのは「オーバークラス」である私と先輩のせい。」
たとえ目の前に姿を現していても決して認識できない超越的な存在。
それは自分達と脈を事にする別の神的な存在だとカノンさんが呼び寄せた本物の神様であるヤクモさんからの説明も加わって
「思ったよりすごい存在だったんだ…テラって…」
私は改めて自分の体にいるテラのことを見直すようになったが
「…」
その時ですらテラは静かなままであった。
その沈黙の意味を知ることができなかった私は
「魔神も疲れたりするのかな」
っと特に気にすることもなくそのまま流してしまったが
「ちょっ…!一体何なの…!?これ…!」
何事もなく15階に着いた時、私はついに今このダンジョンのような地下墓地で何か異変が起きていることに気づくことができた。




