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異世界アイスクリームおばさん  作者: フクキタル
第1章「アイス、要りませんか?」
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第1章「アイス、要りませんか?」第2話

ブックマーク1名様誠にありがとうございます!

投稿したばかりなのに楽しく読んでいただいたようでとても嬉しいです!

この勢いでガンガン頑張って投稿しますのでこれからもどうぞよろしくお願いいたします!

いつもありがとうございます!

「じゃあ、ヤヤちゃんは3年前にこのトンネルに?」

「はい…」


もうすっかりちゃん付けまで定着して親しく接するようになったマミさん。

私は


「…私は反対だ…あれはお前が近づけてもいいものではない…」


っと珍しく彼女と少し話し合うことについて猛烈に反対するテラの忠告も押し切って少しだけ彼女と世間話をするようになった。

テラが心配していたのはただ彼女のことが危険人物だからではない。

ただ私の心が変わって危険に晒されてしまうことを気にかけているだけ、そんな気がした。


彼女は色んなものを私に話してくれた。

私が世間との繋がりを絶ってこの辺境の地に来てからの世事、自分の目で見てきた私の知らない世界。

その全てはトンネルに引きこもっていたばかりの私の興味を一気に引き起こしてしまうほど強烈で、また儚くて残酷なものであった。


ウィッチクラフト(魔女同盟)」内部から起きた私のような魔女の使い魔「ホムンクルス」による多数の反乱、この地の絶対覇者として全てを君臨してきた「帝国」の領土拡大計画とそれを阻止するための周辺国の抗拒。

人々に信仰を伝えるはずだった「聖王庁」は「帝国」からの支援を笠に着て御用風を吹かし、民の心の拠り所としての機能を完全に失っていた。

その上、数年前から活動を再開した「ウィッチクラフト」の攻撃で世界は今、大混乱の真ん中の状態。

私が世間の波風を避けてこのトンネルに逃げ込んだ3年間、世界は大激動の時代を迎えた。


「たくさんの人が死んで大切な居場所も、家族も失われました。

そして私もその一人だったんです。」


魔術界の頂点「オーバーマインド」の「黒江マミ」さんも、またその混沌の渦巻きによって家族を失った犠牲者の一人であった。


かつてこの世界を滅びかけた災い、その具現化と言われる4人の「魔神」。

その大災害を防ぐためにどこの時代にも「オーバークラス」と呼ばれる頂点があって、その一人である「オーバーマインド」が私の目の前にいるマミさんというわけだがどうやら彼女は「オーバークラス」の中でも随分ハグレモノ扱いを受けているらしい。

そして彼女の「魔術師」という素性もこの世界で穏便に生きるには厄介なものであった。


「私達のような「魔術師」は異物。人間でも人間ではない存在。

だから誰も助けてはくれないんです。」


っと悔しさと残念な思いがごちゃまぜになった複雑な顔をするマミさん。

マミさんは今もあの時、家族の傍にいてあげられなかったことをずっと後悔していた。


故郷の南大陸で主人と二人の娘さん達と小さな村で過ごしていたというマミさん。

そんなマミさんを狙って村を襲った南部の「ウィッチクラフト」。

その襲撃によって主人は死亡、娘さん達は行方不明になって、マミさんの傍には誰もいなくなってしまった。

もしあの時、自分があそこにいたらきっと皆を守れたはずなのにとマミさんは今もそのことを後悔していた。

家族を失って、マミさんはついに一人になってしまった。


仲間はいた。

同じ「オーバークラス」の仲間と一緒にかつて世界を飛び回ったが


「ヤヤちゃんも名前だけは聞いたことがあると思います。

現皇帝の腹違いの妹である「(たまき)八千代(やちよ)」ちゃん。結構有名人なんでしょう?

私はずっと「やっちゃん」と呼んでますが色々ありましてどうやらちょっと嫌われているみたいで…あはは…」


っと決まり悪く笑ってしまうマミさん。

彼女の人生は決して穏やかで楽なものではなく、むしろ困難と悲しみの茨の道だったがそれでも彼女はいつでも笑顔でいられるようにしている。

その理由は


「「いつでも笑顔でいること」。

それが私のモットーなんです。」


ただ世界に、そして自分に絶望しないため。

そしてこの世のすべてのことを愛するため。

それがきっとこの世界をより良い方向に導いてくれると彼女は強く信じていた。


「でも本当は今もすごく悲しいです。」


そしてそっと私の手を握って素直な心境を私に打ち明けてくるマミさん。

今日初めて出会った人とは思わないほどの正直さに私は一瞬、自分なんかが聞いてもいい話なのか、正直に結構戸惑ってしまったが今の自分にできるのはせいぜい彼女の話を聞いて、その痛みに共感してあげることだけと、私は彼女の一言一言に全神経を凝らして耳を傾けた。


「夫を失われて、子供達の生死さえ分からなくなったのはとても悲しいことです。

実際、あの時は怒りに耐えきれなくて一人で南部魔女達の根城に切り込んで、気がついたら全部殺した後でした。」


マミさんの口から初めて聞く物騒な言葉。

それだけ彼女には自分には想像できない力があって、その気になれば魔神以上の脅威になりうると私は心のどこかでそう確信していた。


それ以来、マミさんはずっとこの世界を亡霊のようにさまようようになった。

満たされようもない絶望。

命をかけて守ってきた世界への恨み。

そのすべての負の感情が身を包んだ時、マミさんは何もできず、ただ闇の中を歩き続いていた。


「でも生きていればいつかきっといい日も来ると、そう言ってくれた人がいたんです。

私はその言葉を信じてもう一度頑張って生きてみようとしました。」


そんな彼女に勇気を吹き込んでくれた人がいる。

知らない町で偶然会った名前も知らない同い年の女性から言ってくれたその一言に救われたマミさんはもう一度頑張って生きてみようとした。

彼女と彼女の娘さん達を見て「皆が笑顔でいられる世界にする」という初心に戻れたマミさんは友人に頼んでアイスの商売をするようになった。


悲しみに満ちている世界。

その苦しさが自分の小さな頑張りで少しでも慰められばそれでいい。

そう思ってマミさんは一人で世界を飛び回ってアイスを売るようになった。


生きてさえいれば失われた娘さん達の手がかりも見つけられるかも知れない。

もしくは生きている娘達が自分を探しているかも知れない。

そう思って胸に希望を抱いたマミさんは世界中にもう何年もアイスを売っていたのであった。


「子供たちが好きだったんです。

でもお腹を壊しやすくてあまり買ってあげられなくて、それがずっと心残りだったんです。」

「それでアイスを…」


もしアイスを売っている自分を見つけて買いに来てくれるかも知れない。

マミさんはちょっと安直なのでしょうかっと決まり悪く笑ってしまったが、その娘さん達との再開を心から望んでいる純粋で自然な気持ちを恥ずかしいと笑うような真似をする人は多分この世にはいないと私は確信する。


実際、


「…いい話ではないか…」


私の雇い主である、私の中にいる涙もろい魔神も結構感動しているみたいだし。

というか、あんたって泣いたらすべての目ん玉から涙が出るのね。

ちょっとグロいけど。


彼女の話を聞いていると今自分が舐めているこの小さなアイスにどれだけの想いが込められているのか、その大切さにより感謝の気持ちが湧いてくる。

私はこの思いのいっぱい詰まったアイスを食べさせてくれたマミさんに改めてもう一度お礼を言うことにした。


「もし今も生きていれば二人共、ちょうどヤヤちゃん程度の年になっているかも知れませんね。

あ、ごめんなさい、ヤヤちゃん。いきなり重い話しちゃって。」

「いいえ。気にしないでください。」


初対面でなんだか聞きにくい重い話でもしたのかなと今のことを謝るマミさんだが私は別にいい。

むしろ彼女の悲しみに私が共感できることを心嬉しく思う。

これで彼女の心の重荷が少しでも軽くなったらよいのだが。


「きっとまた会えるです。私はそう信じてます。」


っとマミさんと娘さん達の再会を心から願って祈る私の言葉に


「ありがとうございます、ヤヤちゃん。ヤヤちゃんは本当にいい子なんですね。」


少し元気が出たようなマミさんは、ここまで来るようになった経緯についての話をしてくれた。


「私がここに来たのは村の方からヤヤちゃんの話を聞いたからなんです。

なんでも山奥に一人で暮らしている女の子がいるらしくて。生活に困っているようで食材などを裾分けしているがどうも町には来なくて心配になったそうです。

探しに行きたいんだけど皆さん、お年寄りですからこんな山奥まで探しに来るのは一苦労で危ないですから、代わりに探して欲しいと頼まれたんです。」

「そ…そうだったんです…」

「はい、これ、今朝取れた野菜です。預かっておきました。」

「あ…ありがとうございます…」


っと街の人達から頼まれといた野菜を渡すマミさん。

一目で見てもすごい量だがもしかしてこの人、これを一人でここまで持ってきたのか。


「どうりで、いつも車で通行できる入り口の前で食べ物が置かれていたわけですね…

それに妙に人の行き渡りも少ないと思ったんですが、ただ山奥だから皆、あまり通らなかっただけとは…

ってことは私が町でカッコつけて凄みを利かせたこと、別に意味ないんじゃ…」

「…バカか…お前は…お前みたいな真面目そうな小娘のことを誰が恐れるというのだ…」

「うるさいよ…」


一々うるさいんだよ…このクソ魔神…


でもそうか…私は村の人達に結構無茶振りをしてたんだ…

一度だけしか会ったことがないからどんな人達だったのかすらあまり覚えてないかも…


「もし良かったら後で一緒にお礼を言いに行きませんか?

皆さん、きっと喜んでくれると思いますから。」

「そう…ですね…」


っと後で山から下りて一緒に町まで行って、お礼を言ったらどうですかと提案するマミさん。

お礼参りなんて、考えたこともないし、急すぎてちょっと困ってしまうが


「分かりました…」


私は改めて分かるようになった町の人達へのこの感謝の気持ちだけはちゃんと伝えた方がいいと思ってマミさんとの下山を約束した。

あまり気が進まないが私達のためにこんな山奥まで食材を届けにきてくれた人だからここはちゃんとお礼を言って置かなければ。


「いい子ですね、ヤヤちゃんは。あ、アイス、もう一個、いかがですか?」


っと箱からアイスもう一個を取り出して私に渡すマミさん。

でも一応これが商売であることを知っていた私は、


「あ…でも私、あまりお金、持ってなくて…」


すぐにはそのアイスを受け取れなかった。

そんな私に、


「いいですよー可愛いヤヤちゃんにおばさんからサービスです。」


ただでいいですと満面の笑みでアイスを渡すマミさん。

ただ私の美味しく食べる姿が見たいという彼女の話はさすがにちょっと恥ずかしかったが、その好意だけは素直に受け入れることにした自分はマミさんから受け取ったアイスを感謝の気持ちで味あわせていただくことにした。


「いただきます…」


っとアイスにそっと舌を触れた時、


「美味しい…」


私は先、初めてマミさんのアイスを食べた時の感動にもう一度包まれるようになってしまった。


舌の先から一気に伝わってくる柔らかっくてほっぺがとろけ落ちそうないちご味の甘み。

でも後味もさっぱりして全然くどくなくて、何個でも食べられそう。

アイスなんて本当に久しぶりだからかも知れないがこれだけは断言できる。


「今まで味わったスイーツの中で一番美味しいです。」


これはまさに人生、一度きりの絶品だと。


「…ああ…甘くて冷たくて癖になりそうな氷のお菓子だ…」


私よりずっと長い時間を生きているテラもこんなに喜んでいて。

何より、


「えへへ。ヤヤちゃん、美味しそうに食べてくれておばさん、嬉しいですー」


美味しく食べている私を見てあんなに笑顔になっているマミさんのことが一番嬉しい。


「ど…どうすればこんな味が出るんですか?」


今は無理でもいつか自分でも作って食べてみたい。

そう思った私はこれの作り方について彼女に作り方を聞いてみたわけだが


「んーやっぱり何と言っても「愛情」か大事ではないかと。

それと厳選した()()といったところなのでしょうか。」


っとさり気なくそのでっかいおっぱいを示すマミさんに私はこれ以上、何も聞かないことにした。


「と…ところでマミさんはどれくらい滞在する予定ですか?」

「んーそうですねー」


人と話すのはあまり好きじゃない。

でもこの人と話しているとなんだかすごく楽しい気分になる。

理由は分からないが私は今日初めて会ったこのアイス屋さんのことが随分気に入ったらしい。

だから別れた時はやっぱりちょっと寂しくなりそう。


「「杉本」ってなんか気持ち悪んだよね?」

「何考えてるのか、全然分かんないし。」

「だから友達もいないし、いつも本ばっかり読んでるんだ。」

「キメェー」


あの時は誰も私の話なんて真面目に聞いてくれなかったから。

「杉本ヤヤ」はクラス一の陰キャで、本以外に友達が一人もないボッチだったから。

だから私は自分の話に目を煌めかしながら聞いてくれるこの人が好きになってしまった。

だからこそこの人との別れは今まで感じたこともないくらい寂しくなるそうで、私はそれが嫌で仕方がなかった。


「実は明日列車に乗るつもりでしたがヤヤちゃんがお望みならもうちょっと一緒にいてもいいですよ?

あ、良かったら泊めてくれませんか?」

「こ…ここでですか…?」


っと突然泊まり込みを申し込むマミさん。

でもここでって言ってもここは単なるトンネルだし、正直に言ってあまり快適とは言えないからお勧めはできない。

お泊まりならいっそ町の方がずっとマシなんじゃないかと思うんだけど…

第一私は誰かを自分のお住まいに招待したことがないからどうおもてなしすればいいのか全然分かんないから…


「…だが今はそれどころではなさそうだ…」

「テラ…?」


普段こちらから話を掛けない限り、よほど口を開けないテラが今日に限って割りとよく喋っている。

やっぱりテラだって外のこととか、色々気になるのかなっと思ったその瞬間、テラは確かにそう言った。


「…今日は来客が多いな…」


今日、このトンネルに訪ねる来客はマミさんだけではないと。


それは多分、必然だと思う。

よく世間で言う「起こるべくして起きた」ってやつ。

私は子供の頃から色々あってなるべくその事実を飲み込んで自分の行動を決める。

適当に流れに任せているわけではない。

私は現状を把握して、最も正しい行動を決めて動いているだけ。

あの地獄から逃げる時も、テラと契約を交わしたのも、全部その場での判断によるもので私はあまり自分の行動に疑いや迷いを抱かない。

「やるべくしてやった」だけ。然るべきのことだったと私はそう思う。


でもその時はどうしたらいいのか、少し迷ってしまった。


初めてマミさんが私達のトンネルに訪ねてきたことと同じく、


「見つけたわよ♥」


初めて私とテラの居場所が「魔女」に見つけられた時はどうしたらいいのか、私は迷ってしまった。


「魔女…!」


あの地獄から逃げてから3年後、ついに私とテラの隠れ家はこの世界における最も頂点捕食者である「魔女」に見つかってしまった。

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