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異世界アイスクリームおばさん  作者: フクキタル
第1章「アイス、要りませんか?」
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第1章「アイス、要りませんか?」第19話

いつもありがとうございます!

「ウィッチクラフト」による大々的な「オーバークラス」狩り。

人工的に魔神を召喚し、それを利用するための聞いたことのない大規模の無茶苦茶なプロジェクト。

でもそれは決してデマではなく今も着々と進んでいる紛うことのない本物。

その計画を成功させるために必要なのは4冊の「魔書」と邪魔になる「オーバークラス」の排除。

実際そのことで既に5人の「オーバークラス」が殺されてもし今の状況で本当に魔神が出たら我々はついに魔女の前に屈するようになるに間違いない。


先輩のような「魔術師」は常に異端と貶され、遠ざけられるため同じ人間でも法律が決めた庇護を受けることはできない。

故に先輩一家が住んでいる町に魔女が襲ってきた時でさえ「帝国」も、「連合」も誰一人彼らを助けようとはしなかった。

いや、正確に言えば誰が来てももう手遅れで誰も助かることはできなかった。

魔女は基本「速戦即決」の戦術を使っていて短期決戦に特化している。

だからいくら「帝国」や「連合」から応援が来ても、出張先で先輩が急いても到着した頃には彼女達は既に町を壊して姿を消した後ということだ。


魔女達は先輩を弱化させるために町を襲い、次々と人々を殺した。

その結果、凪さんを含めた村人の過半数が命を落として負傷者も絶えずに続出した。

そしてあのドサクサに紛れてルビーちゃんとダイヤちゃんが行方不明となって遺体も見つからなくなってしまった。

後から私とサンゴ、マリアさんが町に駆けつけたが先輩は既に姿を消してたった一人で南部「ウィッチクラフト」の本丸に向かい、攻撃を仕掛けた。

おそらく先輩の人生における一番の絶望。その時から先輩の人生の歯車は狂い始めた。


「怪物」、「スターダスト」、「スーパーノヴァ」。

全盛期の時いくつかの異名で「オーバークラス」の中でもその圧倒的な強さを誇った先輩だが最も恐ろしいのはそんな大層なあだ名なんかではない。

奪われう、失い続けた末にやがて何も残ってない「無」となる虚しい世界。

ただひたすらの絶望だけが満ちているその状態の先輩はまさに「空虚(ボイド)」。

私達はその状態の先輩を最も恐れていた。


そしてその後を追ってやっと会うことができた先輩は


「こんばんは、皆。」


ただその虚ろな赤い目で私達のことを見ているだけであった。


禍々しくて底知れない深さを抱えた真紅の瞳。

その向こうに映っている光景に我々のような凡人は決してたどり着くこともできず惑わされてただ彼女の周りを漂うだけ。

私達はただ遠くなる先輩の残香を目で追うことしかできなかった。


「これ…本当にあんたが一人で…」


地面に適当に転がっているバラバラ死体。

この一つ一つが数時間前までは私達と同じく喋ったりする生きていた生命体だったということが信じられないほどあそこの光景はまさに地獄の再現であった。


「先輩…」


物事に対して常に冷静な姿勢を取るあのマリア先輩とサンゴまで動揺するほど名状しがたい惨状。

たった一人の生存者も残さないその徹底さに私は背骨が凍てつくような寒気を感じてしまったが


「皆、元気そうで良かった。じゃあ、また。」


そんな私達に何も言わずに先輩はどこかへ行こうとした。


「ま…待ってください…!先輩…!」


っと私が引き止める前にいつの間にか姿を消してしまった先輩。

全てを無に返して消えるようにいなくなった先輩は二度と私達の前に現れなかった。


それから先輩がどこで何をしたのかは分からない。

先輩からはなんの連絡もなく居場所も掴めなくて私達はただ先輩の安否を胸を焦がしながら待ち続けていた。

そして数年後、突然私達の前にマリア先輩と一緒に現れた先輩は


「カ…カノンちゃん…」


いつの間にか元の先輩に戻っていた。


「帰って…」


でも私は先輩を受け入れなかった。


「カノン。ここは一度マミの話を聞いて。」

「帰って…!」


あの時ならあの人の気持ちが分かるような気がした。


「先輩はいつも…!いつも一人で…!」


どんなに時間が経ってもこの人は私達のことをただ守るべきの可愛い後輩達にしか見てない。

仲間として認めてくれない。何でもかんでも自分一人で背負っていつも突っ走って傷ついてしまう。

これが嫌だからあの人は先輩から離れたことに私はやっと気がついた。


「どれだけ心配してたか分かってますか…!?もう先輩の顔なんて見たくないです…!」

「ご…ごめんなさい…!もう本当に…!でも私、ちゃんとカノンちゃんと話がしたくて…!」

「話すことなんてありませんから…!早く出て…!出てくださいよ…!先輩も、マリア先輩も…!」


結局泣きわめく私の勢いに負けて先輩は何の成果もなく私の事務室から帰らざるを得なかった。


「勝手にいなくなって勝手に現れちゃって…!先輩なんて大嫌いですから…!」

「カ…カノンちゃん…」


それまでなんとか耐えてきた寂しい思いが一気に溢れ出て自分でもどうすることもできない。

ただそうやって全部吐き出して先輩にぶちまけたいと思っただけ。

それで自分の気持ちが少しでも楽になったらと思っただけであった。


それから先輩は私の事務室だけではなく神社にまで来て私との接続を図ったがことごとく追い出されて虚しく足を運ぶしかなかった。

そんな先輩のことを楠さんは


「会わなくて良いの?カノン。マミさん、すごく落ち込んでるよ?」


っと気にかけていたが


「別に見えてないじゃないですか…楠さんって…放っといてくださいよ…もう…」


私にはその心配の言葉すら余計なおせっかいにしか聞こえなかった。


「人の気持ちも知らないでのこのこと…先輩なんて一生会いたくないんです…」

「でも好きなんでしょ?マミさんのこと。」

「それは…」


っと図星を指された時は一瞬言葉に詰まってしまったが


「会えれば会えた方が絶対良いのよ。マミさんっていつも一人でどこかに行きそうな危うい人だから。」


もし本当に会えなくなったらきっと後悔するという楠さんの話に私は自分の心が震えるようになったことに気づいてしまった。


「会いたくてももう会えない人もいるんだから。好きなら好きってちゃんと言った方がいいのよ、絶対。」


っといつもの傷だらけの煙管を袖から出して口に咥える楠さん。

それはかつて楠さんが仲間達と一緒に「バージンロード」のように世界を回った時にもらった彼女の宝物であった。


「私はもう「花丸(はなまる)」には会えないから。」


そしてそれを託した彼女の名前が楠さんの口から出た時、彼女は何故か少し寂しそうな顔で窓の外の音を聞いていた。


楠さんの話は本当に核心を突いて全てを見透かしていると私は改めて彼女の人の心を見抜く力に感心したが確かにその通りかも知れない、そう思うようになった。

でも自分の方から先輩の方に行くには抵抗があったため、結局何もできないだただ時間だけが過ぎてしまった。

それからアイドルの方の仕事が忙しくなって私はもう何年も神社の方には帰らなくて先輩に見に来てもらう機会も減ってしまってもうお互いのことを諦めて仕方がないと思ったその時、


「ごめんなさい、カノンちゃん。」


まさか向こうがまだ観念しなかったとは。

正直に言うと私はやっぱり先輩に自分が見切られなかったことが嬉しくて仕方がなかった。


あの時、あんな形でパーティを解散したこと、頼ってあげなかったこと、今まで黙ってなんの連絡もしなかった、その全てを先輩は心から謝った。

そして私は先輩を許した。

一生許せないと思ったはずの先輩のことをこんなあっさりと許してしまうなんて自分でもちょろすぎて信じらんない。

でも私はやっぱり


「じゃあ、私がカノンちゃんの歌を世界に届けてあげます。カノンちゃんの歌声を皆が聞いてもらえるように一緒に頑張ってあげます。

だから一緒にー…」


腐っていた私の手を引っ張り上げてあの窮屈な生活から出してくれた先輩のことが大好きで大好きで仕方がない。


「困って先輩ですから…」

「えへへ…」


またヘラヘラしとって…

しょうがないな、もう本当…


でも問題はもう先輩の方ではない。


「良かったですね、マミさん。」


っとこんな私達に向けて笑みを浮かべてこの黒髪の少女。

名前は「杉本(すぎもと)ヤヤ」ちゃんで魔女の実験によって半分だけ「ホムンクルス」になってしまった存在でその自体はそんなに珍しいことではないが問題はその中身。

どこでこんな大物を連れてきたのか先輩の方に聞きたいくらい私は自分の目の前に現れて規格外の存在にひっそりと動揺していた。


「はい!これもヤヤちゃんのおかげですよ!」

「私は何も…」


っと自分には何もやらなかったと照れくさい笑みで慎むこの小さな少女の体にはなんと「万眼の深淵」「美食家」などの異名で呼ばれた2代目の魔神「テラ」。

先輩の放浪の時にいつも傍に付いていたあの魔女、「轟ウララ」がいる「囁きの魔女」と呼ばれる「轟」家の先祖が「ウィッチクラフト」の大穴に封印してもう千年も閉じ込めていた正真正銘の本物の魔神。

それが何故こんな小さな少女の体に宿っているのか、そして魔神は何故彼女のことを依代として選んだのか。

疑問はいくらでもあるが先輩は最優先問題として彼女の身の安全を確保したいと私の助けを求めてきた。


普通な農家の娘だった先輩を立派な一人前の魔術師として育て上げた大魔術師「フリーン」さん。

先輩は彼女のことを「先生」と呼んですごく懐いたが「バージンロード」の結成と活動のことで二人は完全に別れてもう何年も会っていないらしい。

「バージンロード」活動についてかなり懐疑的な立場だったフーリンさんはついに先輩のことを弟子失格と破門し、彼女との全ての関わりを断ち切った。

でも先輩は旅の途中、こう話した。


「それでも私にとっては大切な先生です。あの人がいなかったら私は魔術師としての道なんて選ばなかった。

魔術師としての生き方を選んだおかげで皆の力にもなれてこうやって「バージンロード」の皆と会うこともできましたから悔いはありません。

先生だって私が嫌だったわけではなくただ心配になったからそう言ったと思いますし。」


先生に対する尊敬心、そして今も変わらない大切という気持ち。

もう会えなくても彼女は自分にとっていつまでも大切な先生と先輩はそう言った。

それは多分私達が先輩を見て感じる気持ちに似たような感情だとその時の私はそう思ってしまった。


そんな先生にもう一度会ってヤヤちゃんのことで協力を得たいという先輩の話に私は一度考え込むようになったが


「もう、助けてあげますよ。」


結局自分は先輩に甘いことにまたしても思い知らされてしまう。

でもこのアホ可愛い笑顔がまた見られたらそうで別にいいっといつの間にか自分はそう思っていた。


「本当ですか?えへへーありがとう、カノンちゃんー大好きです♥」

「べ…別に先輩のためじゃないんですからね…!?ヤヤちゃん…!全部ヤヤちゃんのためですから…!」

「ムギュムギュしましょう♥それとも「ミルクタイム」はどうですか♥」

「だからそれはもういいですってば…!」


でもこういうところは相変わらず鬱陶しい先輩のことに私はほんの一瞬だけ今の発言を後悔してしまった。


「でも手伝うって言ってもあまり役に立たないかも知れませんよ?なんせフーリンさんって「エインシェントエルフ」ですから。」

「それでもカノンちゃんには力を貸して欲しいです。カノンちゃんはとても優しくて優秀ですから。」


っとまたまた私のことを買いかぶる先輩。


「それにカノンちゃんならヤヤちゃんに何かいいアドバイスができると思いますし。」

「そ…そこまで言うのなら手伝ってあげなくもないんですけどね…!」

「ありがとうーカノンちゃんー」


そしてまたまた丸め込まれる私…


先言ったとおりに確かにフーリンさんの種族は古代からこの星に存在した「エンシェントエルフ」。

彼女達は魔女とは違って人間に対して怒りや恨みを抱いているわけではないがかと言って特に好意的とも言えない不思議な存在。

文明から離れて少人数で暮らす彼女達は周りに特殊な力場の結界を張って外部からの干渉を最大限防いていてよほどのことでなければ決して人間や他の種族に関わらない。

故にその種族との接続は入念の準備を要するかなり骨が折れる仕事となる。

その上、フーリンさんに至っては特に変わった性格の持ち主で他のエルフとも群がらず一人でいることを好むため位置を特定するだけで何年が掛かるか保証しかねる。


それでも私は私のことを頼ってくれる先輩の期待に応えてこの小さな少女の身の安全をなんとかしてしてあげたい。

そのために私はまずヤヤちゃんに自分の秘密、その1つを見せてあげることにした。


「おいでください。「稲荷(いなり)八雲(やくも)」様。」


袖から取り出した鈴から音が鳴った時、ふと肩を包み込んでくる奇妙な感触。

まるで蝶が舞い降りたようなふんわりとしたその感覚は私にこう声をかけてきた。


「来たぞ。カノン。」


薄い帳の向こうを覗いているような朧気の声。

吸い込まれそうな蠱惑のその声は


「これはまた珍しいメンツではないか。」


一度ここに集まった全員のことに驚きを示した後、


「久しぶりだな、マミ。」


やがてその姿を現し、私達の前に立つ。


全身を覆うほど長くて艷やかな金色の髪。

真っ白な千早と「楪神社」の巫女服、そして頭の上に生えている狐のお耳とお尻の尻尾。

彼女こそ古代から「楪神社」に祀られてきた3人の神様の一人、「神楽」の「稲荷(いなり)八雲(やくも)」様であった。

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