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異世界アイスクリームおばさん  作者: フクキタル
第1章「アイス、要りませんか?」
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第1章「アイス、要りませんか?」第18話

ブックマーク1名様いただき誠にありがとうございます!

これは私の息抜きで投稿している作品ですが他の作品と同様念を入れておりますのでこれからも楽しんでいただければ幸いと存じます!

これからも応援よろしくお願いいたします!


いつもありがとうございます!

それはまだ先輩が「(なぎ)マミ」という名前でいた頃の話。


「せ…先輩の様子…ですか。」

「ええ。」


突然私を呼び出して先輩の様子を見に来てちょうだいという楠さんからの頼み。

楠さんは「バージンロード」解散以来あまり神社にも来なくなった先輩のことを気にかけていた。


千歳緑色のきれいな髪の毛。

病気でもうダメになった目を黒い布の目隠しで取り巻いて私に休みに先輩のところに行ってくることを提案するこの巫女服の人こそ私の上司である「(くすのき)佐切(さぎり)」さん。

ここ「楪神社」を立てた歴とした「楪一族」の一人で本職は「お試し御用」、つまり死刑執行人の剣術の達人である。

問題児であった私を引き取って「楪神社」の要である「神和(かんなぎ)」に育て上げた私の恩人で孤児だった私の親代わりの人。

私は心から彼女のことを尊敬していた。


「休暇は出してあげるから一度見に来て欲しいの。あなた、もう何年も会ってないでしょ?」

「まあ…」


当時私は一人のアイドルとして忙しい日々を送っていて正直に言って他のことに気を使う暇なんて殆どなかった。

そんな中でいきなり休暇をもらってしかも先輩の故郷に行ってきなさいという楠さんからの話は困惑極まりのないものであったが一方少し楽しみにもなった。


「そういえば先輩ももう親なんだ…」


何年ぶりに会う先輩。

今は結婚もしてすっかりおばあさんになったというマリア先輩の話もあってどんな風に変わったのか、また私のことを好きにしてくれるのか、ただそういうの全部が楽しみになって仕方がなかった。

結局結婚式に行けたのは先輩と長い付き合いのマリア先輩だけだったからそれ以外、私を含めて誰一人純白のドレス姿の先輩を見たことがなかった。


「いや…むしろ良かったかな…」


でもそれが却ってあの人の悩みをこじらせなかったことにほんのちょっとだけ安心してしまう自分。

そんな自分が惨めで哀れだった私はあえてその気持ちから目をそらすしかなかった。


「確か凪さんだったっけ。幼馴染の。」

「よく知ってますね、楠さん。」

「まあ、有名人じゃない。」


相手は私達もよく知っている「(なぎ)雄一郎(ゆういちろう)」さん。

昔は結構有名なテニス選手だったが負傷のためコートから離れて彼は故郷で父の店を受け継いだ。

マミさんとは幼馴染である同時に大学の時から付き合った恋人関係で「バージンロード」活動当時色々私達の面倒を見てくれたとても優しくていい人。


でも…


「あんな頼りのない男なんかに先輩のことが務まると思いますか。先輩は一刻も早くあいつと別れるべきです。」


あの人…「(たまき)八千代(やちよ)」は先輩が大好きだったほど彼のことが嫌いだったので見えないところでよくあんなことを…

いや…


「死ね、ボケが。」

「ヤ…ヤチヨくん…相変わらず元気だな…」

「馴れ馴れしくすんな。」

「ヤ…ヤッちゃん…!」


会う度に割りと面と向かってああいうことをぶちまけてよく先輩と凪さんのことを困らせた。


でもあれほど好きだった先輩の傍を


「もう先輩の傍にはいられません。結局私達は先輩に仲間として認めてもらえなかったんですから。」


あの人の方が先に離れるとは。

正直にあの時は冗談でも言っているのかなと思ったくらいに呆然とした。


でもあの人の決意は紛うことなく本気。

実際あの人はもう何年も先輩に会っていなくてしかも私やサンゴにも会ってくれなかった。

立場上「帝国」と「連合」は敵同士だから「連合」のサンゴと無用な接続は避けた方がいいかも知れないが


「だからといって私まで避けなくてもいいじゃん…」


まさか私のことまでほったらかしにしちゃうなんて…


「でもマリアさんには偶に会ったらしいわ。まあ、正直に言ってあまり思わしい状況ではなさそうだけど。」


っと仕事のことで偶に彼女と会ったマリア先輩によるとあの人はそれ以来まともな生活を送っていないらしい。

だからこそ楠さんは私に先輩に会って欲しいと自分の意思を伝えた。


「まあ…楠さんがそういうのなら…」

「ありがとう、カノン。


結局その件を引き受けた私は早速旅支度をして先輩の故郷へ向かい、先輩との接続を試みることにした。

でも最初に会ったのは先輩本人ではない


「いらっしゃい、カノンくん。本当に久しぶりだね。」


先輩の主人である「凪雄一郎」さんであった。


「お久しぶりです、凪さん。全然変わってないんですね、本当。」


真っ暗な先輩とは違った全体的な灰色の人。

昔からずっと同じ髪型にこだわっている彼は全盛期に比べたら大分年を取ってしまったがその顔に残っている優しさだけは今も変わらずキラキラしていた。

爽やかな笑顔と高い背、そしてジェントルな紳士的な性格でテニス界の「プリンス」として多くの女性の心を掴んだ凪さんはたとえあの人から嫌われたとしても客観的に結構いい男で先輩ともよく釣り合うと私はそう思うが


「違うな。女であれば女と付き合うのが同然であろう。そんな当たり前なことも知らねぇのか、お前は。」


あの人はあんな屁理屈でいつまでも凪さんのことを認めなかった。


「珍しいね。今、結構忙しいって前にマリアくんから聞いたけど。」

「ええ。デビュー直後ですしこの際もっと詰めておきたくて。」

「そうか。張り切ってるね。」


久々の出会いだが割りと自然と話が進む。

このいつ会っても自然と話せる穏やかさがこの人の良さだと先輩はいつもそう言った。


「ところで今日私が来るの、先輩は知ってますか?」


そろそろ良いかなと思って早速凪さんに先輩との対面を取り持って欲しいという意思を示す私。

でもそんな私に


「あー…」


何故か非常に困ったという顔を向ける凪さん。

その不安そうな素振りに私は一瞬で先輩との再会は果たせないかも知れないという予感に近い何かを感じてしまい、


「本当に申し訳ない…カノンくん…実は…」


実際私は先輩に会えないまま、一週間後元の場所に戻ることになった。


凪さんは私にこう話した。


「何度も話し合おうとしたんだ。でもいつも学校のことで忙しいってはぐらかされて。」


地元の小学校で教師を努めている先輩は何度も凪さんが私のことを話しても


「ごめんなさい、ゆうくん…私、学校のことで手一杯ですし今の状況でカノンちゃんに会うのはとても…」


って感じでいつもその話題から逃げてしまって結局私が到着する当日までまともな返事をしてくれなかった。


「だ…大丈夫だよ、カノンくん…!マミのことなら僕がなんとか説得してみせるよ…!」

「ありがとうございます…凪さん…」


っと凪さんはなんとしても先輩に会わせてみせよと約束してくれたがその時に感じたとてつもない失望感に私はかなり落ち込むようになってしまった。


「そんなに私に会いたくないんですか…先輩…」


こっちは先輩のことが会いたくて仕方がないのに向こうは私なんて気にもしていない。

ろくに理由も分からず避けられ、遠退けられる惨めな気分に私はすっかりやる気を失っていたが


「お父ちゃんー」


その時、偶然ドアを開けてお店に入ってくる二人の天使、


「この子達が…」


「ルビー」ちゃんと「ダイヤ」ちゃんを見てそれまでの嫌な気分が吹っ飛ぶような衝撃を受けてしまった。


それはまるで神々の宝物庫に大切に保管されるべきの宝石。

私は店に入ってくるその小さな二人の少女を見て今までの自分のくだらない価値観がひっくり返るようなとにかく凄まじいショックを受けてしばらく呆然と固まってしまった。


長女「凪ルビー」ちゃん、そして2歳離れている次女「凪ダイヤ」ちゃん。

先輩に似た黒髪のルビーちゃんは凪さんに似て真っ白な髪を持った妹のダイヤちゃんの手をギュッと握って店に入って


「お客さん?」


その真っ赤な目で私を見上げていた。


なんときれいで無邪気な瞳。

普段閉ざされている先輩の目だが偶に見られることができる瞳はちょうど今自分が見ているこの真紅の目だったことを思い出した私は


「この子達が噂の先輩の子供…」


疑いようもなくこの子達こそ先輩の子供だとそう確信するようになった。


そしてその後ろからチラッと覗く真っ青な目は実に父の凪さんそっくりなもので


「な…なんて可愛い生き物なの…!?」


その圧倒的な可愛さに私は今までの苛立ちなんてすっかり忘れて


「こんにちはー天使さん達ー」


自分の方からあの子達に歩み寄るようになったのであった。


夜の帳のように深みのある暗さを身にまとっているお姉ちゃんのルビーちゃん。

そしてその帳に包まれて輝かしく瞬くお星様の妹ちゃんのダイヤちゃん。

私は初対面で二人のことを「天使さん達」と呼ぶほどその子達に一目惚れしてしまった。


「お帰り、二人共。」

「ただいま。」


そんな私に二人のことを私に紹介するために近づいてくる凪さん。

凪さんは


「少し遅かったけど紹介するね、カノンくん。こちらが私とマミの子供、ルビーとダイヤ。

僕の自慢の娘達さ。

ほら、二人もこちらのお姉ちゃんに挨拶して。」


っととびきりの嬉しそうな顔で娘達のことを私に紹介して


「始めまして。「凪ルビー」です。5歳です。」

「ダイヤですー今年で3歳になりました!」


父の話に二人も喜んで私に自分達のことを紹介してくれた。


いい子の上に声までこんなに愛くるしいなんて…

あの変人先輩の子供達とは思えないほど実に純真で天真爛漫…

お姉ちゃんのルビーちゃんは少し緊張しているような、それとも照れているようなちょっとこわばって雰囲気だけどそれがまたたまらなく可愛くて仕方がない!

それに妹ちゃんのダイヤちゃんはすごく元気で明るくて見ていると自然と微笑むようになってしまう…

二人共もう思いっきりギュッとしてあげたいほど可愛くて正直にあの辺でそろそろ先輩のことも忘れかけようとしていた。


「あぁ…♥可愛い…♥来てよかったよ、本当…♥」


っとしばらく二人のことから目を離せなかった私は


「始めましてー「月島(つきしま)花音(かのん)」と申しますー

お母さんの友達で今アイドルをやってますーよろしくね?」


そろそろ気が遠くなったところでやっと自分のことを二人にも紹介することができた。


「アイドルだって!お姉ちゃん!」

「すごい…」


っと早速羨望の目で私のことを見上げてくる仲良し姉妹。

いつの時代もアイドルは女の子達の憧れであることを知り尽くしていた私は子供達との距離を縮めるために予め用意してきたお土産を渡してこう言った。


「マリアさんのこと知ってる?お姉ちゃんはマリアさんともお友達で前々から二人のこと知ってたんだぞ?

これはお姉ちゃんからのプレゼント。ルビーちゃんも、ダイヤちゃんもすっごく可愛いからきっとアイドルみたいにキラキラになれるぞ?」

「本当!?嬉しい!」

「ちょっとダイヤ、まずはお礼。プレゼント、ありがとうございます。」


っとなんとか嬉しいって気持ちを抑えてきちんとお礼を言うルビーちゃんのことにやっぱりお姉ちゃんはお姉ちゃんだなと思わず感心してしまう。

その急かすお姉ちゃんに押されて妹ちゃんも


「そうだった!ありがとう!お姉ちゃん!大事にするよ!」


っとお姉ちゃんと一緒にありがとうって言ってくれたが


「いやぁ…♥どういたしまして…♥」


正直にあの時の自分はかなり危険な状態だったから


「顔…怖いんですけど…」

「変な顔!」


逆に怖がらせてしまって結局目立つ進捗はなかったかも知れない…


そうやって私はルビーちゃん、ダイヤちゃんと知り合いになって一週間も凪さんのお店に顔を出して先輩との対面を図ったが私がいる間に先輩が店に現れることは決してなかった。

偶に先輩がいる小学校の辺まで姉妹達を連れて散歩に出たりはしたが最後まで私達が顔を合わせることはなかった。


「カノンさんはお母ちゃんと仲悪いんですか?」

「どうしたの?急に。」


でもさすがにルビーちゃんからそう言われた時はちょっと焦ってしまった。


「いいえ…なんかお母ちゃん、一度もお友達に会いに来ないしなんとなく仲悪いのかなって…

違ったらごめんなさい。」


っと案外鋭く突っついてくるルビーちゃん。

5歳の子供と見るにはあまりにもいい勘の鋭さに私は早めにごまかすのを諦めて


「んー…悪いと言うか一方的に避けられているって感じかな…」


正直な感想を二人に聞かせてあげた。


「あ、もちろんお母さんのことが悪いって話ではないよ?ただちょっと前に誤解みたいなことがあってなんとか仲直りしたいって思ってるだけ。」

「そう…だったんですね。なんかすみません…」


っと何故か申し訳ないと謝ってくるルビーちゃん。

気を遣わせてしまったのかなと


「全然二人のせいじゃないよ。気にしないで。」


って感じで慰めてみたが


「私達、カノンさんの力になりたいです。」


どうやらこの仲良し姉妹は自分が思っていたよりずっと前から私のことを心配していたようだ。


「私達もお父ちゃんと一緒にお母ちゃんのこと、説得します。一度だけでもカノンさんに会って欲しいって。

だから任せてください。」

「私も手伝う!」


っと張り切っている二人のことがとても心強かった私は


「ありがとう、二人共。」


思いっきり二人の小さな体を抱きかかえて本当に血は争えないということを自分の身を持って思い知ってしまった。


変わらない優しさ。

先輩が持っているその温かい心をその子もちゃんと受け継いでいることにもう感謝の気持ちまで湧いている。


でも私は先輩がどれだけの意地っ張りなのかをよく知っていて


「ごめんなさい…カノンさん…何もできなくて…」


そういう結果になったことにも関わらずあまり衝撃を受けなかった。


「ううん。お父さんも、ルビーちゃんも、ダイヤちゃんも私のために頑張ってくれたんだから。

本当にありがとう。」


泣いている姉妹達を自分の胸に抱き込んでなだめる自分がこんなに無力と感じた時は初めて。

でも私はそれ以上この小さい子達を悲しませたくなくてそのまま二人にさようならを言って帰ることにした。


強引に押し付けるという選択肢もあったけどそれは先輩を困らせるだけで何の足しにもならない。

でもあの時だけは無理矢理でも会ったら良かった、心からそう思っていた。


結局何の収穫もなく元の場所に戻ってしまった私。

それから何度も先輩のところにこっそり行ってみたが私達の再会は一度も叶わずただ無駄に時間だけを費やすようになった。


そして私の耳に届いた最後に先輩の消息。


「魔女…ですって…?」


それは先輩の家が「ウィッチクラフト」の魔女達に襲われたということであった。

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