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異世界アイスクリームおばさん  作者: フクキタル
第1章「アイス、要りませんか?」
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第1章「アイス、要りませんか?」第17話

いつもありがとうございます!

「じゃあ、カノンちゃんは「(くすのき)」さんの指示でこっちに遺跡の調査をしに来たということですか?」

「はい…って付いてこないでください!先輩!」

「ええ…!?」


頭から「ガーン」って音が出るほど衝撃を受けるマミさん。

でも私達の後を追う歩みだけは止めないマミさんであった。


私達は今カノンさんのお仕事で事務室から出て町の外を歩いている。

ヒルリスは南大陸の陸上交易の要であるが古代の遺跡が残っていて学問的価値も非常に高い。

カノンさんの今日のお仕事は私に会うこと以外にもまだいっぱいあるということだったが


「カノンちゃんー…マミーを置いて行かないでー…お仕事、私にも手伝わせてー…」

「だからもう先輩は帰ってもいいですってば…!」


私達は何故か先からずっとマミさんと望まぬおいかけっこをこの当たりをグルグル回りながら何度も繰り返していたのであった。


「カノンちゃんー…ちょっとでもいいですから話を聞いてくださいー…」


っと話し合いたいと懇願するマミさんと


「先輩と話すことはないんですから!」


そんなマミさんとの会話を頑なに拒むカノンさん。

その中に挟まれた私の立場だけが非常にまずくなってはいるが一方一体このお二人の仲に何があったんだろうと気にかかるというのも確かにある。


カノンさん、私には普通に優しく接してくれているがマミさんにだけはなんだかずっとそっけない態度でそれがまたマミさんの心にダメージになって累積していく。

私はマミさんのことが大好きだしカノンさんのことは先会ったばかりなんだけど決して悪い人とは思えない。

だからなんとかマミさんとカノンさんの間にいるその蟠りを取ってあげたいと思ってはいるが


「でも私…あまり人と話すの得意でもないし…」


私はあまりにも自分の苦手な部分を知り尽くしているため、実際何もできずこの気まずい空気の中でただ時間だけを無駄にしていた。


でも自分で勇気を出してみようと決めたからにはダメ元でも試してみなきゃという自分でも健気な心がけに結局背中を押された私はまずカノンさんとの距離を縮めていく段階から始めることにした。


「アイドルなのに遺跡の調査とかもするんですね…カノンさんって。」

「まあねぇ。CEOと言っても実際全権を握ってるのは私の上司だし一応「オーバークラス」という肩書が付いているからにはそれらしきことをしなきゃね。」


っと非力なサラリーマンみたいな顔をするカノンさんだが彼女は特に自分の任務に不満は待たないと私にそう教えてくれた。


「私、こう見えても昔は結構お転婆で問題児だったから。前の上司は私のことが大嫌いで散々嫌がらせしたけど今の上司は本当にいい人だから。

だからできる限りあの人の言うことには従おうとするつもり。

あ、上司というのは「楠」さんといってすごくいい人で私のことをずっと応援してくれた人でー…」

「とてもきれいで優しい人なんですー目は見えなくても楠さん、博識ですごく上品な人で今度ヤヤちゃんにも会って欲しいですねー」

「ちょっ…!勝手に話に入らないでくださいよ…!もう…!」


っといつの間にか私とカノンさんの会話に加わったマミさんの顔をグーッと押しのけるカノンさん。

未だにマミさんのことが気まずいのか話したくないっていうオーラが半端ないが


「でもカノンちゃんだってすごく可愛いんですからー」


それに屈することもなくマミさんのゴリゴリの攻めはまだまだ続いたのであった。


「カノンちゃんーもっとマミーとムギューしましょうよー」

「もう…!だから子供扱いはもう止めてくださいっていつも言ってるんじゃないですか…!?私だってもうにじゅうはちっー…」


っとドタバタでうっかり実の年齢を言い掛けたカノンさんは私の視線を意識して慌てて口をふさいで


「…ヤヤちゃん…聞いた…?」


私に今のことを確かめたが


「あ…はい…まあ…」


聞こえてしまったものは仕方がないと思う…


「で…でもカノンさん、全然童顔ですから…!私とそう変わらないというか…!」

「いいのよ、別に…フォローしなくても…」


そして早速凹んでしまう妖精さん…

まあ、さすがにこれはちょっと無理があるよ…


「まあ、千年以上生きている私からしたらお前ら全員まだ細胞くらいにしか見えないだがな。

まだまだ若い。」

「…全然フォローになってないじゃん…」


この魔神…フォローするの下手くそすぎ…


でもカノンさんが若く見えるというのはお世辞とかではなく、本当にそう感じていると予め私はそう言わせておきたい。

一目で分かるほど大人っぽいマミさんやマリアさんと違ってカノンさん、本当に私とそう年が離れてないように見えるから。

それだけ自己管理に念を入れているってことだろう。

私はそんな彼女が持っているアイドルとしてのプロ意識を心から尊敬していてその真っ直ぐな志は人々に称賛されるに値するとそう思っている。


「本当にいい子じゃない…先輩のところに置いとくにはもったいないね、本当…」

「ど…どうも…」


幸いこんな私のことを随分気に入ってくれているカノンさん。

マミさんとのことに未だに目立つ進展は見当たらないがこのままいい雰囲気に持っていけばなんとかなりそう。


そう思っている私に


「でも本当にいいの?こっちに来れば一気に有名になれるよ?」


先の話の再確認をするカノンさん。


「すみません。でももう決めたことですので。」


でも私の心は一度決めたことを二度も変えたりはしなかった。


少し遅くなったが結局私のデビューの件は無しとなった。

スカウト担当の渡辺さんはもちろんカノンさんもすごく惜しがってすぐ決めなくてもいいから考え直して欲しいと言ったが


「私はまだマミさんと色んな世界を見て回りたいです。デビューの話はとても魅力的で嬉しかったんですが今回はお断りさせて頂きたいと思います。」


結局私はデビューのことを断ることにした。


カノンさんは精一杯面倒を見てあげると言ったが私はやっぱり私をあのトンネルで初めて私の手を握ってくれたマミさんが好き。

渡辺さんの事務室に訪ねたのはただマミさんから話でも聞いてみるのはどうですかって勧められただけで元から正式にアイドルになろうとなんて思ってもなかったからそれでいい。


まあ、ほんのちょっとだけ憧れはあったがこうやってカノンさんと知り合いになれただけでも十分。

アイドルに嵌ったのはつい最近のことだが私はすっかり彼女のファンになっていてこうやって一緒に歩けることだけで身に余る贅沢だとそう思っている。


「分かった。君がそう言うのなら仕方ないね。」


幸い私の考えを尊重してデビューの話はなかったことにしてくれたカノンさん。


「一体先輩のどこが好きなのよ、もう。言っとくけどこの人、ヤヤちゃんが考えているほどまともな人ではないから。

胸だけバカでかいし頭はお花畑のイカレポンチだからとにかく気をつけなさいよ?」

「あ…はい…気をつけます…」


でもとにかく気をつけた方がいいという経験による忠告だけは忘れなかった。


「そうですか。ヤヤちゃん、なんだか最近アイドルに興味津々だったみたいで良い機会ではないかと思ったんですが。」


っとカノンさんや渡辺さんより惜しがったマミさんにアイドルになった自分を見せられないのは残念だけどその気持ちだけは確かに嬉しかったと。

自分のことに興味を持ってくれて見てくれているというのがこんなに嬉しいものだなんて初めて知ったから。

私は多分それが一番嬉しかったと思う。


でもマミさんが渡辺さんの事務室行きを決めたのはただ私がアイドルに興味を持ってその夢を実現させるためではなかった。


「カノンちゃん、ご覧の通りこちらのヤヤちゃんには2番目の魔神「万眼の深淵」であるテラさんが宿っています。

私はフーリン先生に頼んでヤヤちゃんとテラさんのことをなんとか「ウィッチクラフト」に追われないようにしてあげたいです。」


カノンさんの「ムーンライトアイランド」は表ではただの大手事務所にしか見えないがその実像は「楪神社」からのバックアップと独自のネットワークで世界中の様々な情報を仕入れてくることも兼ねている歴とした情報機関であってその収集能力は「帝国」の「情報局」と肩を並べるそうだ。

そのためにマミさんは「ムーンライトアイランド」の最重要人物であるカノンさんと接続する必要があったが


「でもその前に私はカノンちゃんに謝りたいです。あの時、あんな形で別れてしまったこと…」


本当はただ彼女にお詫びしたいことがあったとマミさんはやっと自分の本音を明かしてくれた。


世界救済プロジェクト「バージンロード」解散以来、マミさんを含めた「バージンロード」の全員はバラバラになってそれぞれの道を歩むことになった。

故郷に帰って幼馴染と結婚して家庭を築いたマミさん。

聖王庁に戻ってシスターとして復帰したマリアさんと里を出て「連合」の政治家になったサンゴさん。

ずっと憧れていたアイドルという夢を追いかけるようになったカノンさん。

そして栄光の「騎士姫」から「アンダーテイカー」に成り下がったという言われている「帝国」のヤチヨさん…


それからお互いとあまり関わらなかったという「バージンロード」。

マリアさんの場合は仕事上カノンさんとサンゴさんに会うことが多かったらしいがマミさんやヤチヨさんにはマリアさんを除けば誰も会えなかったそうだ。


「きっと皆まだ怒ってるんですよ…私は皆のことを引っ張ってあげなきゃダメな立場なのにヤッちゃんが「バージンロード」を出たって皆に相談もせず解散なんか決めちゃって…

マリアちゃんはもう誰も気にしてないから大丈夫って言ってくれたんですがやっぱり合わせる顔がないというか…」


っと仲間達への懐かしさと申し訳無さが同時に混ざった複雑で悲しそうだったマミさんの浮かない顔。


「だから自分一人だけでもあの時の仕事を続けようとしたんです…

もう皆それぞれの道を歩いているだからもう自分に突き合わせるわけにはいかないし…」


家族を失ったことで改めて思い知らされてしまった平和の必要性。

もう仲間達に迷惑を掛けたくないから自分一人で旅立つことを決めたマミさんは今も世界中を飛び回っている。

でもその前に心残りとしてずっと胸に刺さっていた仲間達に対する謝罪を真っ先にしたいとマミさんは私にそう話した。


その決心にたどり着くまで随分長い時間がかかってしまったが


「あの時は本当にごめんなさい、カノンちゃん。皆に相談もせず勝手に解散しようと言い出したのは明らかな私のミスでした。」


今こうやってマミさんは「バージンロード」解散以来、初めて再会できたカノンさんにあの時の過ちを告白し、謝罪することができた。


そしてマミさんからの偽りのないその真心に


「はぁ…何でもかんでも全部一人で背負っちゃって…」


やっと旨を開けたカノンさんは


「もう二度とあんなことしないでくださいよ?本当迷惑と言ったらありゃしない…」


照れながらも満更でもない顔でマミさんの気持ちを受け止めてくれた。


「先輩って本当昔から全然成長できてないんですね…体だけ大きくー…って胸でっか…!」


っと話の途中、やっと目に入ったマミさんのでっかい胸に一回思いっきり感心するカノンさん。

その後、まるで別の生き物、ちょうど先のテラのことを珍しがるような目になって久々のマミさんの胸に釘付けになってしまった。


「お…大きかったのは分かってましたが昔よりずっと大きくなったんじゃないですか…!?」

「そ…そうですね…30代に入ってからも毎年下着が合わなくなるくらいにぐんぐん大きくなっちゃって…」


それって胸だけ成長期ってこと…?怖っ…


「そ…そうです…!良かったら久しぶりに「ミルクタイム」しませんか…!?

カノンちゃん、結構好きだったんでしょう…!?」

「別に好きだったわけじゃ…!というか先輩が飲ませてあげたかっただけだったんでしょ…!?」

「だってーカノンちゃん、可愛すぎて母乳出ちゃうんですものー」


カノンさんもやったんだ…あの無茶苦茶な強制授乳…

というか可愛かったら出るもんなの?それって…怖っ…


まあ、こんな感じでなんとかカノンさんとの仲直りできたマミさんではあるが


「先輩、前に私が先輩の故郷に行ったこと、覚えてます?」


実はカノンさんは何度もマミさんに会いに行ったことがあるそうだ。


「先輩、解散からマリア先輩以外誰も会ってなかったし心配になって休暇を取って先輩のところに行ったんですけど結局会ってくれなかったのでそのまま引き返すことしかなかったんです。

(なぎ)」さんはなんとか先輩を説得して会わせてやるって言ってましたけど正直先輩があそこまで私達に会うことを拒絶するとは思わなかったんです。」


何があってもマリアさん以外の「バージンロード」のメンバーには会わないと意地を張ってたというマミさんとそんなマミさんを説得して皆に会わせたかったというマミさんのご主人「(なぎ)雄一郎(ゆういちろう)」さん。

凪さんは妻のマミさんにはもっと仲間達を大切に欲しいと言ったそうだ。


でもカノンさんがあの時に会ったのは旦那さんだけではなかった。


「あの時、初めて会ったんです。「ルビー」ちゃんと「ダイヤ」ちゃんのこと。」


自分には決して聞くことのできなかったマミさんの家族の話。

私は今日、初めてマミさんのご家族のことを知ることができた。

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