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異世界アイスクリームおばさん  作者: フクキタル
第1章「アイス、要りませんか?」
14/40

第1章「アイス、要りませんか?」第14話

少し修正を施しました。

ご参考お願い致します。


いつもありがとうございます!

ヒルリスは貧富の差がそれなりに解消された住みやすいところとして有名な街。

マミさんの仲間である「(さざなみ)珊瑚(さんご)」さんが政治家として活動している「連合」は民のための政策を繰り広げ、より良い世界のために日々頑張っている。

「帝国」によってたくさんの国が滅び、支配され、たくさんの人達が居場所を失ってしまった。

そしてその帰る場所の人々を受け入れて「帝国」の横暴に立ち向かうために複数の国家が組織したのが「連合」で、「連合」は特に人々の生活を優先する方針を取っている。

そのおかげでここの人達は皆ゆるい性格で触れやすい。

特に私は東の「帝国」領のある貧民街育ちだから、その違いをしみじみと感じる。


西と北の大陸とは違って「帝国」の東と「連合」の南大陸は陸路で繋がっていて、車でも行き交いができるほど近いが、現在国境は閉鎖され、「帝国」の武装した兵隊が常に見張りをしていて「聖王庁」の聖職者などの特殊な身分ではない限り、向こうに行くのはかなり難しい。

また「オーバークラス」は例外として自由に渡ることができるらしいが、


「実は私だけは禁止されてますよ…なんかやっちゃん直々の命令らしくて…」


残念ながらヤチヨさんから嫌われているマミさんだけは「帝国」への立ち入りが禁じられていて、もう何年も東の方には行ったことがないそうだ。

「帝国」はとても閉鎖的な国で大陸全体を封鎖、統制していて貧富の差が激しい。

だからこそこういう皆が笑顔にいられる場所は本当に素敵だなと、私はずっとそう思っている。

でもこんな風に平和な町になったのも随分最近のことで、それまでは戦争や紛争などがあっちこっちで頻繁に起きたと、マミさんは私にそう話してくれた。


「こちらで少々お待ちください。社長を連れて参ります。」

「は…はい…」


女神「エル」を崇め奉る巡礼者の町、南大陸の交易の中心「ヒルリス」。

古代文明の一つ「ルーレンシア文明」の遺跡が数多く残っているここで、マミさんと一緒にアイスを売っていた私に、


「デビューしてみませんか?」


突然訪れたチャンス。


マミさんと一緒に広場でアイスを売っていた私に声をかけてきた、その来る尽くめの女性は、


「申し遅れました。私はこういうものです。」


自称私の保護者であるマミさんに自分の名刺を渡した。


彼女の名前は「渡辺(わたなべ)リサ」。

大手事務所「ムーンライトアイランド」所属のスカウト担当である、紛れもない業界のプロ。

そんな彼女から、


「あなたからすごい可能性を感じます。

話を聞いてくださるだけでも構いませんので、どうかお時間いただけないのでしょうか。」


っと言われた時は、なにか詐欺とかではないかと、疑わしい気分になってしまった。


マミさんが私のために買ってきてくれた謎のメイド服。

それを着て、一旦自分を置いて少し離れたところで自分を見る練習をした私は、思ったよりずっと効果が出てどんどん自身がついてきた。


「冴えた顔でアイスを売っている眼鏡の黒髪メイド」ってマニアックな設定まで付けられて完全に見世物にされた自分には確かに恥ずかしい気持ちもあったが、


「その調子です、ヤヤちゃん。」


私は自分がちゃんとマミさんの役に立っていることがどうしようもなく嬉しかった。


勇気を出した私の声にお客さんがマミさんのアイスに興味を持って、購入してくれる。

知らない人に声をかけるということにとてつもないハードルを感じた私だったが、難しいのは最初だけで、いつの間にか私は割とこの仕事を楽しむようになっていた。


マミさんに言われた通りに私、「杉本ヤヤ」から少し離れて、自分を客観視することで私は前には持てなかった勇気を手に入れることができて、前よりもっと現実を把握するようになった。

より冷静に現状を把握して、心理的なプレッシャーを減らしてくれる。

これが緊張感と恐れを全部解決してくれるわけではなかったが、それだけでも私は頭と心が落ち着いて、勇気を出すことを前より怖がらないようになった。

拒絶されてもすぐ立ち直るようになって、もうそんなにおどおどしないようになった私のことを、マミさんは誇らしく眺めていた。

多分、あの時のヤチヨさんも今の私と同じ方法で人前でのぎこちなさや恐れを克服できたかもしれないと、ふと私はそう思った。


まもなく、テラの手を貸すほど忙しくなった私とマミさん。

私は外での宣伝、マミさんは販売、テラは陰からのマミさんのサポート。

皆、それぞれの役割が私は自分の役目を全うすることでもっともっとマミさんの力になるために張り切るようになった。

マミさんの力になることで心はもうこんなに充実感に満ちていて、何よりマミさんの愛情たっぷりのアイスを皆が幸せそうに食べている。

これがまた私を勇気づけてくれて、もっと頑張れる力と元気が湧いてくる。

私は初めて感じた自分の成長と未来への期待感に胸がいっぱいになって、気がついたらマミさんと同じくこの仕事を楽しんでいるようになっていた。


そしてこんな私の姿からある可能性を感じたというそのスカウトマンのリサさんは一度事務所で話を聞いてもらいたいと、私とマミさんにそうお願いした。


でも私はそんな彼女のことを初めては頭ごなしに疑ってしまった。

こんなちっぽけで、マミさんのように特に目立つところもない私にいきなりデビューだなんて。

でもそんな私にマミさん、


「大丈夫ですよ、ヤヤちゃん。

私がついてますから。」


何も心配しくてもいい、ただ自分の心の向くままにして欲しい、ただそう言いながら私の手を握ってくれたのであった。


そしてリサから名刺をもらってから数日、


「来ちゃった…」


私はマミさんと一緒に彼女の事務所まで足を運んでしまった。


本当はちょっとだけ興味があった。

自分はあまりそういうのに無頓着だと思っていてが、どうやらそうでもなかったらしい。

一人で本屋さんに行って、アイドル関連の雑誌を見て、


「こ…これがアイドル…」


そこにいるキラキラした可愛い女の子たちを見て、こっそり彼女たちと同じ存在になった自分のことを想像してみたり、鏡の前でちょっと恥ずかしいポーズを取ってみたり。

こんな私のことをテラは、


「…お前も年頃なんだからな…」


っと笑ったり、皮肉ることもなく、ちょっと遠回しに言って応援してくれた気がする。

もちろんマミさんにバレた時は、


「絶対デビューしましょうね!ヤヤちゃん!」


って感じで、むしろ向こうが張り切りすぎてさすがにちょっと焦ってしまった。


でも私が一度リサさんに会うことを決めた理由はそれだけではなかった。


「「ムーンライトアイランド」…」


初めてリサさんから名刺を受け取った時、緊張と期待が混ざった、どこか複雑そうな顔をしていたマミさん。

マミさんのその顔がどうしても気になった私は、


「ここにはきっとマミさんと何らかの因縁を持った人物や事件がある。」


っとそう感じて、それから数日後、自らリサさんの事務所で話を聞いてみたいと、マミさんに同行をお願いした。

当然、今の私の保護者であるマミさんは快く同行を引き受けてくれたが、あの時のマミさんはまるで私にそう言ってもらいたかったという顔をしていたので、私はもう一度自分の選択に自身を持つことができた。


「ちょうど社長が近くにいて、一度あなたに会いたいそうです。

いかがですか。」


でも思ったより状況が急変、私たちは予定のない「ムーンライトアイランド」の社長に会うようになって、


「ええ…!?今からですか…!?」


マミさんもこれは予想できなかったと言わんばかりに驚いてしまって、私はなんと答えたらいいのか、少し迷ってしまった。


あれだけマミさんが驚いてしまった理由。

それは屈指の大手事務所「ムーンライトアイランド」の社長が、


「せ…先輩…?」

「カノンちゃん…」


かつてマミさんと一緒に世界を救った「バージンロード」の一人、「月島(つきしま)花音(かのん)」だからである。


大人気アイドル「カノンチャン」。

鋭いツリ目と青紫色のきれいな瞳、そしてある日、見上げた空の夕暮れを思い出させるような黄金に輝くオレンジ色の髪。

小さな身体に纏ったプロのアイドルとしての貫禄と高いプライドは何倍も彼女ことを大きく感じさせてしまうほど、まさに圧巻そのもの。

現役の「オーバークラス」の「オーバーフロー」でありながら、世界中の人々に幸せを届けに行くという理想を掲げて活動している時代が生んだスーパースター。


「すごい…」


初めて読んだアイドル関連の雑誌。

その中でかつてマミさんと一緒に世界を救い、アイドルとなった伝説の存在に初めて出会った私は、もっともっと彼女やアイドルという存在に興味ができて、


「いつか会ってみたいな。」


っとなんとなくそう思ってしまったが、


「どうして先輩がここに…」


正直にこんなに早く会えるとは、これっぽっちも思いもしなかった。


ちょうど近くに「ムーンライトアイランド」の社長がいて、よかったら一度会って欲しいと言ったスカウトマンのリサさん。

そして彼女が連れてきたその大物に会った時、


「カノンちゃん…」


私はもちろん、あのマミさんすら言葉に詰まって何も言えなかった。

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