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異世界アイスクリームおばさん  作者: フクキタル
第1章「アイス、要りませんか?」
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第1章「アイス、要りませんか?」第11話

いつもありがとうございます!

マミさんはこの旅で何よりも私のことを優先すると約束した。

これから「ウィッチクラフト」に追われることになった私のことを匿うために遠い昔、自分を立派な一人前の魔術師に育ててくれた師匠のところに行く。

すでにマリアさんと話し合って出した結論だと、これが一番いい方法だと、マミさんはそう言ったが、


「でもあの人、ヤヤちゃんはともかく、私にはあまり会いたくないかも。」


彼女は自分の師匠との再会を気まずく感じている、何故かそういう気がした。


「今の私でヤヤちゃんからテラさんを引き離すのは不可能です。

だからヤヤちゃんとテラさんが安心して暮らせるところを、私が必ず見つけ出します。」


あの轟がいる限り、どんなに山奥に隠れても必ず見つかってしまう。

テラは轟さえ殺しておけば済むことだと言ったが、この前、マミさんと轟の話をマリアさんから聞いた私は、


「でもそれじゃダメだと思う。」


できれば穏便な方法を取りたいと、予め自分の立場をはっきりしておいた。


マミさんは轟にとって特別な人。

それはマミさんも同じで、今も轟のことを大切に思っている。

そしてマミさんは私にとっても大事な人だから、もしテラが轟のことを殺してしまったら、私はマミさんから大切なものを奪ったことになる。

マミさんはきっと傷ついて、私はそのことを一生後悔してしまうのだろう。

何より私はあれほどマミさんのことが好きになれる轟のことを尊敬までしている。

それは何もない私にはとても遠くて、到底手の届かない強い気持ちだから。


だからもしまた会ったら、自分の言いたいことをちゃんと伝えておきたい。

心から応援するって、マミさんにあなたの気持ち、ちゃんと届いたらいいって。


「…まあ、お前がそう思っても私はあまりあいつに会いたくないんだがな…」

「…勝手に考え読まないでくれる?」


っとまた私の考えを勝手に読みやがったテラに私は普通に文句をつけたが、もうすっかり慣れっこでもうさほど気にしていない。

この同居もそこそこ長くて、自分の適応力にはつくづく驚かされる。


テラは自分の魔力構造を一度分解して再構築して、自分の存在を消した。

これもあくまで一時しのぎの気休めに過ぎないと言ったが、普通の魔女なら一生かけても絶対察知できない芸当であることを私はよく知っている。

そして私達はこれから人間社会に入って生活することになる。


「いくらウララちゃんでも人間の村には近づけません。

私もウララちゃんにはあまり里に近づかないで欲しいです。」


今の人間は生物の頂点と言われる魔女と対等に渡り合えるほどの発展を成し遂げている。

魔女対策は万全、いつでも戦う準備ができている。

でもマミさんが一番心配しているのはあの轟が人間と戦って誰かを傷つけてしまうことだと、私は薄く気づいていた。


千年一度の天才魔女。

かつて「ウィッチクラフト」の不耕起を主導した「轟ララ」の再臨と言われる現役の「オーバークラス」。

時空間の概念に干渉する「紫」の「L'Arc」が使える正真正銘の化け物。

あんなやつが今、自分を追っかけているかもしれないと思ったら、さすがに私でも不安で頭がおかしくなりそうだが、


「大丈夫ですよ、ヤヤちゃん。

ウララちゃんは決して「ウィッチクラフト」に協力しませんから。」


轟は絶対「ウィッチクラフト」の計画に積極的にかかわらないと、マミさんは何故かそう断言した。


「どうしてあの時、ウララちゃんが私から離れて「ウィッチクラフト」に戻ったのか、そこで何をしているのか、今の私には全然分かりません。

でももし「ウィッチクラフト」の本当の目的が魔神を誕生させることであれば、ウララちゃんは決して協力しない。

それだけははっきり言えます。」


魔神が誕生したらこの世界にどれだけの災いをもたらすか。

一瞬だけでもその深淵を覗いたことがある、かつて魔王になりかけた轟はその恐ろしさをよく知っている。

彼女にも守るべきのものがたくさんあるから、決してそのような計画に本気で手を貸したりはしない。

マミさんは自分が知っている轟のことを、


「ちょっと極端で短気なところもありますが、根は優しくて利口な子なんです。」


「ウララちゃんは私の自慢の生徒です」と、今も変わらず心から信頼していた。


あの時に見た凄まじい執念。

それが当分、自分に向けられることはないことには心からほっとするが、それだけではまだ解決とは言えない。

マミさんはそう言ったが、次、またあのイカレポンチのクレイジーサイコレズに会ったら問答無用で攻撃される恐れがあって、他の魔女のことも気をつけなければならない。

何より一番恐ろしいのは轟が「L'Arc」の中でも、最も常識外れの魔法、時空間に干渉する「紫」を使うということだ。


同じ「オーバークラス」でも「L'Arc」を使えない人はいくらでもいる。

実際、マリアさんやヤチヨさんはマミさんと違って「L'Arc」が使えない「オーバークラス」だからそんなに珍しい話でもない。

この前のマリアさんから聞いた話によると「バージンロード」で「L'Arc」が使えるのは星の力を使うという「(あい)」のマミさんと熱エネルギーであらゆる忍術を駆使する「(あか)」のサンゴさん、そして音という無形の力を別の力、「元素(エレメント)」に置換する「(だいだい)」のカノンさんの3人だそうだ。

その中で唯一、轟の「紫」に対抗できるのはマミさんの「藍」だけらしいが、


「あのアホが相手じゃ楽勝だわ。」


正直に轟を相手にマミさんが戦う必要なんて全くないと、マリアさんはそう断言した。


「あいつ、あのアホのことが死ぬほど好きだから。

「好き」って言われたらその場で死んじゃうかもしれないよ?」

「…確かに。」


あの時、マミさんが打ち上げた謎の布、私は確かにマミさんの履いていた下着と認識したが、とにかくあれを猛烈に追いかけていった轟のことを知っていた私は、マリアさんの言っていることがなんとなく分かるような気がした。

わざわざ嫌な戦いをする必要もなく、


「私の可愛いウララちゃん。」

「せ…先生…!?」


っとささやきながら軽く抱っこしただけで戦闘不能になりそうだし。


それでもマリアさんは私にマミさんと一緒にマミさんの師匠のところに行って事情を説明して匿ってもらうことを勧めた。


「敵はウララだけではないわ。

ウララだってある程度の実績がない限り、「ウィッチクラフト」にはいられないからまた探しに来るはずよ。」


だからその時に備えて、まずは身の安全を確保して欲しい。

そのために、魔力の屈折を利用して一種のプロテクターをかけられるマミさんと同行した方がいいと、マリアさんは私にそう言った。


今の私たちの周りには魔力の屈折、歪曲現象によるプロテクターがかけられていて、外から認識はできても、あまり記憶には残らない。

これはテラが使う魔力の分解と再構築とはまた別の方法で私たちの存在感を歪曲する魔法で、こんな芸当ができるのは今のところ、マミさんだけだそうだ。

これはあの轟すら探知できない高等の技術で、向こうはすでにこの技を知っているらしい。

それでも対処できないほど、マミさんの魔法は神の領域に近いものであった。

おっぱいだけが無駄に大きくて、頭のお花畑みたいな人だってマリアさんはそう言ったが、


「でもあいつの力は本物よ。悔しいけどね。」


その魔術的な才能だけはずっと憧れだったと、彼女は内心マミさんのことを認めていた。


でも同時にマミさんのことを気にかけていた。


「あのアホ、昔はあんなに強くなかったのに。」


まるで種、そのものが変わってしまったという勘違いをするほどの異常な強さ。

元々から「バージンロード」の中では群を抜くほどの圧倒的な強さを見せつけたマミさんだったが、


「なんというか、すごく遠いのよ。あのアホのことが。」


今のマミさんはもうあの頃とは比にならないくらいだと、マリアさんはなぜか自分の感じている感覚をそう説明した。

それはまるで、


「もし魔神がいたらああいう感じなんでしょ。」


まだ会ったことのない未知の恐怖のようだと。


でもマリアさんはそれ以上、マミさんのことについて一言も言わなかった。

まるで自分の推測すらちっぽけなものだと、そう言っているような悔しさに満ちた表情で、彼女はただポケットからタバコを取り出して口に咥えるだけであった。


マリアさんは自分がマミさんにどんな不安を抱えているであれ、私がマミさんと一緒に行動することに異論はないと、彼女は確かに私にそう言った。

私に危険が迫ったら必ず助けてくれると、マリアさんのマミさんへの信頼に微塵の揺るぎもなかった。

マミさんも私のことは必ず守ってみせると、そう約束してれたが、


「今日の晩ごはんはマミーのミルクで作った特性シチューです♥」

「嘘でしょ。」


私はやっぱり不安しかしない、そんな気がした。


でも問題はまだ山程ある。

一番はやっぱり「ウィッチクラフト」と轟のことだが、それに負けないくらい肝心なその師匠っという人の居所を弟子のマミさんすら全く知らないということも厄介な問題であった。

それについてマリアさんだって、


「最後に会ったのが南だったから、適当にその辺から探してみれば?」


って割と雑な感じで、自分にも知らないと言ったから今のところ、手がかりは一切なし。

当てずっぽうで探し回っても意味がないということを多分マミさんだって十分分かってるはずだが、それでもマミさんは私とテラのために何としてもその師匠という人に会わせてあげますと約束してくれた。

何よりマミさん自身が彼女に会いたいと思っていることを、私はあの時見たマミさんの懐かしい表情からなんとなく分かるようになった。


「でも私、破門されたダメな弟子ですから。」


っと「あはは…」と面目ないというしょぼい笑みを浮かべてしまうマミさん。

彼女はかつて世界を救うために、より良い世界にするために立ち上げた世界救世プロジェクト「バージンロード」のことで師匠から破門されたと、ほんの少しだけあの頃の記憶を思い出して、私に話してくれた。


「きっと私のことを案じて止めさせたと思います。

世界のためとか、そういうバカなことより自分の将来を優先しなさいと。

あの時は理解できませんでしたが、今なら先生の気持ちが分かります。」


あの轟がマミさんのことを「先生」と呼ぶように、マミさんも自分の師匠のことを「先生」と呼ぶ。

その関係が彼女に何を与えて、何を教えたのかまでは知らないが、


「会いたいです。先生。」


今のマミさんの懐かしさに満ちた表情を見たら、彼女がマミさんにとってかけがえのない存在であることが分かりそうな気がする。

その思いが、願いが叶えたらと思ったマミさんはただ静かに目を閉じて夜空のお星さまに、いつかまた会えますようにと、心を込めて祈るだけであった。


私達はこれからこの南大陸で一番盛んだ町「ヒルリス」へ向かう。

あそこでマミさんの師匠に関する情報を集めるというのが本来の目的。


「わ…私も頑張らなきゃ…」


でも私にはもう一つ、自分が成長するため、そして少しでもマミさんの力になるための密かなミッションがあって、私はそれなりに意気込んでいるつもり。

無論、


「どうしたんですか?ヤヤちゃん。」

「いいえ、何も。」


恥ずかしいからまだマミさんには内緒。


「でもまさかテラさんがテントまでなってくれるとはー

おかげさまで今日は温かく寝られそうですー」

「…お前のためではない…依代がしょぼいから風邪でも引いちまったらこっちが困る…お前はそのついでに過ぎん…」

「テラさん、優しいですー」

「…うるせぇ…」


ツンデレ…


私が雨露に濡れることを案じて自ら私達のテントになってくれたテラに、ありったけの感謝の気持ちを表すマミさんと最後まで誰かのためではないと言い張るテラ。

私が倒れてからずっと私の面倒を見てくれたマミさんのことをそこそこ認めているテラだが、


「…忘れるな…ヤヤ…

お前は太陽と月の境に挟まっている…人の優しさは必ず隙を生み出し、命取りになりかねん…

あれのどこまで信用できるのか分からないが、くれぐれもお前の身の安全を何よりも優先しろ…」


マリアさんからの話とマミさんからの異様な感覚だけはどうしても気になると、ある程度距離を置いた方がいいと、テラは私にそう忠告した。


テラの言い分は十分分かる。

マミさんは優しくていい人だからそのような温かさに触れたことがない私にはマミさんに自分の命まで委ねてしまう恐れがある。

実際、私は命がけでテラから体の主導権を掌握してマミさんを助けたから、なおさら。

優しさに判断を誤って、命を落としてしまう。

テラが警戒しているのはそういうことだった。


冷静で合理的で実に正しい。

その無駄のない生き方は、実に効率よくて美しいと思う。

でも、


「はい、ヤヤちゃん。ココアです。」

「ありがとうございますっ…これ…もしかして母乳入りとか…」

「な…なんの話でしょかね…!」

「…目、泳いでいるな、こいつ…」

「うん…」


私はやっぱりマミさんの優しさを嘘にしたくない。


たとえマミさんになにか秘密があって、私が判断を誤って、死ぬとしても私は決して自分の選択を後悔しない。

あの時、魔女の大群からマミさんのために自分の命を投げ捨てた時すら、私は何も後悔しなかった。

むしろ初めて自分のことをちゃんとした人間として見てくれた人のために死ねたと思って感謝までしていた。

テラはもしあのようなことがまた起きたら、今度は決して助からないということを分かって私にそう忠告したのであった。


二度はない。

端的に言ってテラが話したいのはそういうことで、テラは明らかにマミさんのことを単なる不安要素と思っている。

今は生存のために何としてもマミさんの師匠に会わなければならないから仕方がなく同行している感じだが、私と違ってテラはまだ完全にマミさんのことを信用していないようだ。


弱肉強食の世界で迂闊に誰かを信用してはならない。

バカでも分かれる最も簡単で残酷な世界の真理。

それでも、そんな世界でもただありのままで受け入れて、もっと良い世界にするために皆で頑張ろうとするマミさんのことを、私は心から尊敬している。

初めて感じたこの感情は「愛」と言っても過言ではないと、私はそう確信している。

だからこの合理的な世界でたった一つ、目がくらんでしまうほど燦然と輝く、おろかで歪んだ、それでもなお、美しい彼女の優しさという名前の「愛」を最後まで信じ抜きたいと、私は心からそう思った。

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