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同類


 異世界に行きたいと思うのはそんなに悪いことなのだろうか?


 俺は異世界にいつ行けてもいいように準備を怠らなかった。

 学業のみならず、ありとあらゆる知識を学び実践をし、身体を鍛え上げた。

 それはただの準備だ。異世界に行くための手段も考えていた。古今東西の不可思議な現象について調べに調べまくった。


 世界を回るためには金と語学と知識が必要で、それは異世界の準備をしていたから特に困らなかった。


 ただ、学校を休みがちだったり、同年代の友達がいないから日本の学校というものに馴染めなかった。



 ***



「ふ、文哉ーー! 文哉ーー!!」


 轢かれたと思った俺がひょっこり出てきたから幼馴染の可憐が腰を抜かして泣いてしまった。

 ホコリを払いついでに可憐の手を振り払う。


「うるせえな。俺だって別に轢かれたくねえよ。怪我はねえからお前はさっさと親睦会に行ってこいよ。約束の時間に遅れるぞ」


「わ、わたしが轢かれちゃえっていったから……」


「うん確かに言ったな。でもノートを守ろうとしたのは俺の選択だ。お前のせいでもなんでもねえ」


 可憐が一歩近寄る。俺は一歩後ずさる。


「というか、付き合うってなんだ? だって、お前俺の事嫌いだろ? ただの笑いのネタにしてるだけだろ?」


「ひぐ、ち、違うわよ……。だ、だって……」


「俺にとって可憐は元友達、だ。今後は学校では異世界の事一切言わないから、もう絡まないでくれよ」


「え……。も、元友達? な、なんで?」


「ああ、お前が中学の時にそう言っただろ? 結構傷ついたけど、もう関わらないからよ」


「そ、そんな事言ってないわ……よ。い、言ったかも知れないけどただの冗談だわ!」


 そもそも俺が緊張せずに普通に喋れるには可憐と他数人、学校以外の年上の人間だけだ。委員長みたいに可愛い女の子に話しかけられると緊張してどもってしまう。


 異世界に行くという目標はそのままで、向こうで可愛い獣人の女の子と知り合いになったらどうする?


「これはまずいな」

「へ? な、何言ってるのよ!」


 陰キャを装っていたらホンモノの陰キャになっていたようだ。

 恋愛……というものは無理だけど、俺も少しはコミュニケーション能力を磨く必要がある。

 よし、女の子と喋っても緊張しないような特訓をしよう。


 そうと決まれば家に帰って計画を練ろう。


「ちょっと、文……、滝沢! 元友達ってどういう事よ! そ、そんな事言うと流星と付き合っちゃうわよ! わ、わたしたち幼馴染で、一緒に異世界に行こうって誓った――」


「ん? お前は馬鹿にしてただけだろ? ならそんなやつは友達じゃねえよ。流星と仲良くしろよ」


 特に感情は乗せていない。ただ事実を淡々と述べただけだ。


 呆けている可憐を置いて、俺は家に帰るのであった。



 ***



 日課の異世界修行を終えて、自宅のサウナで考え事をする――


 俺にとって学校というものはSSS難易度のクエストのようなものだ。

 言動を間違えると、選択肢を間違えると、友達を間違えると、先生を間違えると、学校を間違えると、一生後悔する羽目になると理解出来た。


 昨日までの俺は陰キャで押し通していた。

 誰とも話さず、友達もいなく、可憐のせいでクラスメイト全員から笑い者にされていた。

 時間が解決する問題だと思って放置していた。


 そもそも教室が転移した時のために、俺は陰キャを装っていた。といってもそれは一年の頃の話だ。

 小学校の頃は俺の話に付き合う奴らは数人いた。

 中学になると一人しかいなくなった。


 それ以外は誰もいない。可憐や後輩や生徒会長がちょっかいかけてくるくらいだ。馬鹿にされるのはもうやめよう。

 もう少し学生というものを理解しよう。



 二年の新しいクラスだからまだ友達を作ることは可能だろう。

 ……いや、今日の異世界ノートの件で難しくなったか。


 俺にとって同世代の女の子と話すのが非常に恥ずかしい。流星のように軽快なトークなんて出来ない。

 あいつはリア充の化け物だ。あいつが一人で異世界に行ったとしても、コミュ力によって冒険が成立しそうだ。


 やはり俺に足りないのは女子と会話する力だ。

 明日は女子の誰かと話してみよう。まずはそこからだ。


 俺はサウナから出て水風呂を浴びて整うのであった。


 ***


 ……気合を入れすぎて学校に早く着き過ぎた。


 そういえば親睦会は楽しかったのかな……。

 別に行きたくなかったけど、ほんの少しだけ興味があった。同年代の男女が何を考えているのか。


 そもそも俺は親睦会に誘われていない。それに、このクラスの連中はクラスが変わってすぐにスマホのアプリでグループを作っていた。俺は誘われていない。


『ぷっ、あんたグループに入ってないの? マジ笑えるんだけど』

 ……俺、可憐から聞かされた時少しだけ寂しかったな。


 結局、新学期が始まっても誰もそのグループの事を教えてくれなった。


「昔は可愛げがあったのにな……。席でラノベでも読んでるか」


 教室には誰もいないと思っていた。

 ポツンと席に座っている女の子がいた。心臓が跳ね上がるくらい驚いた。

 あれは確か、俺とは違う理由で一人ぼっちの女子生徒、葛之葉葉月くずのははずきだ。


 見た目は非常にもっさりしている。俺も人のこと言えないが。笑っている所を見たことがない。喋りかけられても返事もしない。誰とも関わろうとしない女子生徒だ。


 そんな彼女は挙動不審な行動を取っていた。

 なんだ? なにしてんだ?

 窓を開けて右手を前に突き出している。

 ……妙な言語を呟いているな。あれは『古代ギリシャ語』っぽく聞こえる。


『ファイアーストーム――』


 教室に春のそよ風が入りカーテンと葛之葉のスカートを揺らす。

 魔法、いや魔術を使えるか試したんだな。俺も朝の日課でやっているからわかる。

 心の声が漏れていた――


「お、惜しい」

「あっ――」


 風によって俺の長い髪がたなびく――

 振り向いた葛之葉の髪も揺れて隠れていた瞳がさらされる――


 俺達は一瞬だけ見つめ合う。


 次の瞬間、お互い赤面して顔を背けるのであった。

 ――や、女子と話すのはやっぱ恥ずかしい。


 葛之葉さんも顔をそらしていたが、ゆっくりとこちらに顔を向ける。


「……み、見られた。お、お嫁、行けない。……あ、異世界ノートの人だ」


 なんだろう、少しだけ嬉しそうな顔をしているには俺の気の所為だろうか? 

 俺はどんな風に答えていいかわからない。なにせ女子と話しているんだから。

 やっぱ馬鹿にされるのかな……。


「そ、そう、異世界ノート。は、ははっ、バカバカしいかな?」


 もしも拒絶されたら教室を出ていけばいい。図書室で時間を潰して作戦を練ろう。

 返事を聞く前に教室を出ようとした。どんな事があっても緊張しない俺が、ただの女の子の前だと緊張してしまう。


 腕に強い衝撃が来た。葛之葉さんが腕を掴んだからだ。


「バカバカしくない! 私の異世界計画とは比べ物にならないくらいすごい……。あっ……、ご、ごめんなさい……。わ、わたし、陰キャなのに……。あっ」

「え? い、異世界計画?」



 その時教室にクラスメイトたちが入ってきた。葛之葉さんは手を離して自分の席へと戻った。


「マジでオールってやばくね?」

「こんな時間だったら誰もいないよ」

「あっ……、モサい奴らがいるじゃん」


 クラスメイトは俺達を一瞬だけ見たが、すぐに友達と昨日の懇親会の話をするのであった。





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